珈琲
夜になると、街灯もないこの町は星が綺麗に見えるほど闇に包まれる。部活帰りの僕は真っ暗な田んぼと田んぼの間のあぜ道をいつもオドオドしながら帰った。もう少しで家に着く頃には、田舎には似つかわしくなく、煌々と光る自動販売機とベンチがぽつんとある。
「あ、また居る、」
月に数度だけ、あそこの自販機にはふてぶてしく寝る大きな灰色の猫がいる。こんなにも澱んでいるあぜ道が妙にあそこだけ暖かく見えた。
ベンチに腰掛けた僕を、この猫はとても嫌そうな目で舐めまわしたあと、一鳴きしてまた寝始めた。
「はぁーそんな目でこっちみてさ、ここはあんた専用の場所じゃないっての」
そう言いながら太ったねこの背中を撫でる。
意外にもさほど嫌そうでは無いようだ。
「君もツンデレだよな、どこでそんなになるまでご飯を貰ってんだか」
まるで会話をするようにねこはフンっと鼻息を鳴らした。
「可愛げのないヤツめ、こっちだって大変なんだぞ?……まぁ…今日は悪くない日だったけどさ」
そう言いながら今日の朝下駄箱に入っていた1枚の封筒を取り出してねこに見せびらかした。
「みてよ!このラブレター!初めて貰っちゃったぁ。ついに僕にも春が来たのかぁ」
いまは夏である。アホみたいなマヌケ声を漏らしながら自慢する相手がねこである。寂しいものだ。ねこはこちらをちらりと見てまた顔を埋めた。
「ちぇーつまんないやつ」
そう言って隣でギラギラと光る自販機の前に立った。
財布から取り出した100円玉が、なんだか妙に大人びて感じられた。
今日の記念だ。コーヒーでも買って、背伸びをしてみよう。
香りは上々。思っていたより悪くない。今の僕なら、これを飲み干せる気がした。
苦ぁ。
少し背伸びをしすぎたみたいだ。
さっきまで澱んでいた闇が、今では僕をチラチラと照らす星が心地いい。
「じゃ、またな」
そう言うと僕は家に歩き出した。
背中の方でねこはまた鼻息を漏らしたように聞こえた。
『ねこの恩返し』ぜひ見てね




