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プロローグ

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爽やかなはずの夏の朝は、上へ上へと立ち上る煙によってかき消されていた。広大な屋敷は一日にして燃え上がり、あっという間に崩れ落ちた。さまざまな悲鳴と怒りが入り混じり、現場は大混乱だった、と後の歴史書は記している。


「ルアルディ一族反逆事件」。

当時、王国最大の人数を誇った一族――ルアルディ家が、公爵を筆頭に王家に反旗を翻し、王都を攻めた。しかし王家の力には遠く及ばず、反乱はすぐに鎮圧された。それでも彼らの反逆事件は、のちの歴史に大きな影響を与えたとされている。




私は廊下を走り、お父様の部屋へ飛び込んだ。


「お父様っ、お父様っ!」


お父様は私の声に耳を貸さず、強く拳を握りしめて「ダンッ」と机に打ち付けた。その剣幕に、私は思わず押し黙った。


「おいっ、王国騎士団がもうそこまで来ているぞ。ここも間もなく陥落だ。……話が違うぞ、エーヴァルト」


お父様が握りしめていた手紙はぐしゃぐしゃになっていた。それを見たお母様は肩をすくめ、私の頭をなでながら言った。


「公爵様を恨んでも仕方ありません、あなた。あの方はすでに逃亡されたそうですから。……わたくしたちも、ここまでです」


その声は悲しげだった。


外の喧騒とは対照的に、部屋の中はとても静かだった。


「だが、しかし……」

「過去を恨んでも仕方ありませんよ。それよりも、屋敷の者たちを逃がしましょう。それが伯爵としての最後の務めではなくて?」


お母様は優雅に微笑みながらも、お父様と真剣に向き合った。


「ルアルディの人間として、これらのことはきっと避けられなかったはずだわ。けれど、付き従ってくれた彼らに、あなたは死を渡すのですか? 私が最後までお供いたしますから……決断なさい、伯爵様」


その表情を見て、お父様は握っていた拳を緩め、ふっと笑った。


「……それもそうだな」


お父様はしばらく窓の外を見つめたあと、執事に向かって言った。


「すべての使用人に命ずる。全員解雇だ。早急に屋敷から出ていけ!」


執事は軽く頷き、部屋を出ていこうとした。しかし、お父様は彼を呼び止めた。


「カルバン。ついでにマリーを呼んでこい」

「かしこまりました」


「あなた、マリーに何をさせる気ですか?」


怪訝な顔でお母様が尋ねると、お父様は私にニカッと笑いかけ、何事もなさそうに答えた。


「美しい宝石は太陽光に弱い。隠さないといけないだろう?」


「わたくしは運命から逃げませんよ」


そう言うお母様の表情は、悲しそうでありながら、どこか嬉しそうにも見えた。


執事が部屋を出て間もなく、マリーがやってきた。


「マリー!!」


私は彼女の朗らかな笑顔を見るなり、駆け寄った。


「ただいま参りました」


お父様は立ち上がって私のもとへ来ると、マリーに向かって深く頭を下げた。


「旦那様っ、何をなさるのですかっ」

「一人の娘の父親として頼みたい。娘を修道院まで送ってくれないだろうか?」


マリーは私を見つめ、それからお父様を見て、深く頷いた。


「お任せください。必ず送り届けます」


その様子をじっと見ていたお母様は、軽く息を吐いてから近寄ってきた。


「あなたは甘すぎるのよ」


そう言ってお父様を睨んだあと、マリーに向かって頭を下げる。


「マリー、大変なことを押し付けてごめんなさいね。でも、リュシーの専属メイドとして、あなたがこの子をとても大切にしてくれていることは知っていますわ。わたくしからもお願いします。娘を、どうかよろしく頼みました」


そして、お父様とお母様は私を見つめ――


「リュシー、愛しているわ。あなたに月の加護がありますように」

「リュシー、太陽に近づいてはならない。月の導くままに生きなさい」

「「さあ、お行きなさい」」


二人は私を強く抱きしめ、扉のほうを見た。


「お父様っ、お母様っ! 絶対に、あとでお会いしましょうね!!」


状況を理解できないまま、私は叫んだ。マリーは「ご武運を」と小さく告げ、私を抱き上げて部屋を出た。




その日、ルアルディ一族の中枢を担っていたルアルディ伯爵および伯爵夫人は、燃え盛る炎の中で命を落とした。騎士団はこれを一家心中と判断し、リュシーもまた死亡したものとして処理した。


しかし実際には、彼らの一人娘リュシーはメイドによって修道院へと送り届けられ、身を潜めることでひっそりと生き延びていた。


そしてこの日、リュシーは四歳にして悟ることになる。


――「命以上に大切なものは、何もない」と。






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