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9、異世界で空中戦!?

 ──宇宙空間から空間転移でカドゥール・ハアレツの地上上空に帰ってきたボクたち。

 ボクたちの乗る宇宙船──ハルマアマル号の眼下には鬱蒼と茂る広大な森が拡がり、そして、前方には太陽とは異なる強い光りが──!?

 ──はい?


 ──ビーッ!! ビーッ!! ビーッ!! ……


 突如、ブリッジ内に鳴り響くアラート音。同時に通常とは異なる幾つもの緊急用ディスプレイが目まぐるしく空中投影され、文字で危険を報せます──


 『加速粒子ビーム、接近!!』


 ──と。

 そして、次にその緊急用ディスプレイには『バリアシステム、オン。ショックアブソーバ、タクティクスレベル1ニ。加速粒子ビーム、展開シタバリアニ接触迄、4セコンド……2、1──』と表示された次の瞬間──


 ──ドゥグゴォン!


「──のわっー!!!?」

「──きゃあぁーっ!!!?」

 ハルマアマル号が展開したバリアにビームが衝突した衝撃が、艦内を揺らします。

 更に、ビーム衝突によって生じた衝撃発生時に思わず瞑ってしまっていた目を開けると、いまだ空中投影されたままの緊急用ディスプレイに、今度は『通常航行用エンジン、先ノ衝撃ノ影響ニヨリ点火エラー。当艦ハ、コレヨリ不時着シマス。搭乗員ハ不時着時ノ衝撃ニ備エテ下サイ』と表示されています。

 そして、間を置かずして、


 ──メリバキッ! バキバキ……、ズウゥゥーゥウン!!


 不時着の衝撃が再び艦内を揺らします。

 再度の揺れにみなシートベルトで身を固定している座席の上で耐え忍びます。

 やがて、揺れも収まり、ブリッジ内に鳴り響いていたアラート音が鳴り止みました。

「──何だったすか、今のは?!」

 誰となしのランテ君の問い掛け、その問いに答えたのは、

「当艦ガ空間転移ジャンプアウトシタ座標カラベタピンノ空間座標ヲ加速粒子ビームガ通過、ソノ際、当艦ヲ護ル為展開シタバリアニ加速粒子ビームガ接触シタ結果、当艦ハ予期セズ不時着スル事ニナリマシタ」

 当然ながらというか、ハルマアマル号の制御AIのマッキー。

 しかし、

「──ビームをイキナリぶっ放すとか、何処のバカよ?!」

 良藍の怒り文句の通り、ビームなんて物騒極まりない兵器を撃つなんて何処の阿呆ンだらけでしょうか?

「──現在、状況確認ノ為飛バシタ『カメラビット』カラ入電。映像ヲ出シマス」

 ──おお! マッキー、仕事が早い!

 各自の眼前にウインドモニターが複数開き、カメラビットからの映像を映し出します。

 そこに映し出されていたモノは──、

「──空中艦隊っす!?

 しかも……、あの各船体の胴体にあるシンボルマークは──!!」

 ランテ君の指摘に、船体横を映し出しているモニターの一つを拡大表示して見てみると、確かに其処にはナニかを暗喩したシンボルマークがあります。


 ──カドゥール・ハアレツに於いても知恵の実とされているリンゴに蛇が絡み付いて齧り付き、蛇が噛み付いた部分からリンゴが変色していっている──


 ──という、見るからにヤバそう図柄のシンボルマークです。

「──()()は、間違いない……。

 ()()()は────」

 そのシンボルマークを見て、憎悪の孕んだ声音を出す良藍。その憎悪の程は、ボクの元の肉体からだが現在の肉体からだを蘇生させる為の生け贄にされた直後にも迫るほど。

 そして────、


「──マルメッシャー教──」


 サーハ君が良藍よりも一際強い憎悪を滲ませ、映像に映っている連中の正体を口にします。


 ──マルメッシャー教──

 シュモネス教と同じく、魔法文明時代から存在する最古の宗教の一つ。

 カドゥール・ハアレツに生きる、生きとし生けるものが発した悪意の塊から生まれ落ち、最初に実在証明がなされた神──『邪神』を唯一絶対神として拝み祀り、一般的な宗教とは異なり、決まった拠点や聖地を持たない。

 そして、カドゥール・ハアレツの歴史の闇の中で様々に暗躍してきた者達。


 そんな連中が、何でまたこんな所にいるのでしょうか? ──いや、こんな所だからいるのでしょう。人里からかなり離れた大森林の上空。基本的な目撃者は自然に生きるモノたちのみ。

 ランテ君曰く、マルメッシャー教の連中は普段は只の一般人として暮らしているため、判別は決定的証拠が出ない限りは不可能。更に、決まった拠点を持たない故にマルメッシャー教の全体規模の把握もまた不可能という始末。

 そんな、古から存在するのに現在に到る迄未だに謎に包まれた宗教団体がこんな所で演習しているとは誰が想像だにするでしょう……。

 しかし、まさか、そんな現場に遭遇するとは……、つくづくついてませんね……。

「──……はてさて……、如何したものでしょうか……?」

 相手は邪神を崇拝する危険極まりない連中です。

 ランテ君から聞いた話によれば、サーハ君の故郷──トラバーナ王国にて惨劇を起こしたのも彼等。

 サーハ君と良藍が憎悪を顕わにするのは至極当然のこと。特にサーハ君にとっては肉親だけでなく、親愛なる国民のほぼ全員を虐殺されたのです。その哀しみと憤りが如何程のものか、ボクには想像にも及びません。

「──そんなの決まってるわ!

 いま、此処で、奴等を撃滅するのよ!!」

「──ヒラノの言う通りです!

 ()()はこの世界に於いて居てはならない──居るべきではない不要存在モノたちです!

 マルメッシャー教は見つけ次第、殲滅するべきなのです!!」

 …………なんとも、まあ、良藍もサーハ君も過激過ぎる発言です。

「──おいおい……、黒髪の嬢ちゃんも、兄ちゃんも、分かってのか?

 相手はマルメッシャー教だぞ?!

 触らぬ邪神に祟り無しだ。それに、兄ちゃんの国を滅茶苦茶にした連中は討って仇は取ったんだろ」

「そうっすよ。私怨でマルメッシャー教に喧嘩を売るのは構わないっすが、それにオイラたちや姐さん、ファナリアちゃんたちを巻き込むのは筋違いっすよ!

 それと、マルメッシャー教をはじめとしたテロリストに対処するのは各国ならびに連合国の軍の役目っす!」

 至極当然的な意見でサーハ君たちに反対するガメッツさんとランテ君。そして、

「ボクもランテ君たちの意見に同意です。幾ら、相手が悪人とはいえ進んで殺人はしたくありません。ああいった連中は専門家に任せるのが筋です」

 ──態々、自ら渦中に飛び込むなんて自殺行為に等しいことをするなんて、ナンセンスに他なりません。

「あ~、円く~ん、そんな事言うんだ。確か~、一昨日の夜にあった盗賊団の襲撃の時に~、悪人一人をってるよね~」

 ──……………………。はぁ~……。イキナリ何を言い出しますかね、良藍は……。

「……あれは、ファナを護る為、致し方なく、ったのです」

「そうだぜ。黒髪の嬢ちゃん、降りかかる火の粉であれば振り払うのは普通のことだ。─つうか、黒髪の嬢ちゃん、あの時、一人だけグースカ寝ただろうに……──

 だがな、黒髪の嬢ちゃんや兄ちゃんが私怨の延長線上で連中をやっつけようってのは、対岸で燃え盛ってる炎の中に嬉々として岸を渡って突っ込んでいく狂人に他ならねー」

「そうっすよ。正気の沙汰じゃないっすよ」

「え~、でも~……」

 普段のおちゃらけた口調でプ~たれる良藍。しかし、その声音の中には先と同じ、連中に対する憎悪が潜んでいるのは明白です。

「先ほども言いましたが、あの連中は軍に任せるべきです。下手に連中を刺激して、大事になったら、それこそ目も当てられない惨事になるやもしれないんですよ?!」

「でもでも~、《()()()をこのまま放っておいたら、いつかは犠牲者が出ちゃうんだよ~」

「そうです!

 犠牲者が出てからでは遅いんです!!

 叩けるうちに叩かねば、犠牲者が増えることは目に見えています!!」

 ──……は~……。良藍もサーハ君も、引く気は無いようですね……。困りました……。

 現状では如何なる理論屁理屈を用いた説得で以てしても、良藍とサーハ君の矛を収めるのは至難です。ならば、数の暴力に訴えるのも已む無し……ですね。

 多数決で決まった事であれば、二人も渋々ながらにも連中に手を出すことを諦めてくれるでしょう。

「──良藍とサーハ君の気持ちは分かりました。そして、ボクたちの意見も変わりません。ですが、このままでは話は平行線のまま。徒に時を浪費するだけです」

「……そうね、円くんの言う通り、確かに……」

「そこで、多数決を取りましょう。連中に手を出さず軍に任せるか、それとも連中に喧嘩をふっかけるか」

「…………む~…………」

「勿論、どっちにするか決まったら、文句は言いっこナシです。それで、いいですね?」

「……わかった……」

「わかりました」

「おう、わかったぜ」

「わかったす」

「……………………わかりましたわ」

「はい」

 良藍、サーハ君、ガメッツさん、ランテ君、ファナ、アイナちゃん、そして、ボクと全員が多数決を取ることを承諾。

 それでは、

「──マルメッシャー教の空中艦隊は軍に任せるべきという人は挙手」

 言わずもがなで、ボクは手を挙げ、続いて、ガメッツさんとランテ君、計三人。

「──では、マルメッシャー教の空中艦隊に喧嘩を売るという人は?」

 即座にピシッと手を挙げる良藍、同じく、サーハ君もまた迷い無く手を挙げます。こちらは計二人。

 何れの意見にもファナとアイナちゃんは手を挙げる素振りもありませんでしたが──、

「ファナは何方にも手を挙げませんでしたが棄権ですか?」

 正直、ファナにはこのまま棄権してくれると、ボク的には実に助かります。

「…………いえ、つい今し方まで、迷いに迷っていましたが、わたくしの意見は──」

 ──ゴクリ。

 ボクも含め一同は固唾を飲み込み、ファナの意見に耳を傾けます。

「──可能であればこの場でマルメッシャー教の空中艦隊を潰滅──いえ、少なくとも、あの大砲の形をしたふねだけは沈めておかないといけません。兵器に疎いわたくしでも、あの大砲の形をしたふねが如何に危険かは察しが付きます。

 もし、アレの照準が無辜な人々に向けられたらと想像しただけでもゾッとします」

「流っ石、お姫様!

 下々の者たちを慮ったその裁量、人の上に立つ者の鑑ね」

「ええ、私もヒラノの意見に同意です。

 ファナリアさんは真に民達の上に立つ王族です」

 ファナの賛同に諸手を挙げて褒め讃える良藍とサーハ君。

「…………ふぅ~、決しましたね。では、マルメッシャー教の空中艦隊に対して、仕掛けるということで」

「チッ、仕方ねーな」

「そうすっね」

 さて、多数決の結果、ボクたちは──

「──ちょっと、待って下さい!

 自分がどっちの意見か聞かないんですか?!」

 ──はて?

 場の雰囲気がマルメッシャー教空中艦隊との決戦に染まりきる直前、アイナちゃんから茶々が入りました。

「何故、アイナちゃんの意見を聞かねばならないのです?」

「え? 自分の意見はガン無視ですか?

 それはあんまりですよ、円さま」

「?? どこがあんまりなんです? アイナちゃんは基本的にファナの意見に同意ですよね。

 それに、本当に意見がある場合、進んで発言しますよね?」

 故にこの場にいるほぼ全員は多数決が決したことに異議を挟まなかったのです。

「…………、まあ……、確かに、円さまの仰る通りですが……」

「なら、余計な茶々は入れないでください」

「──はい、すみませんでした」

 では、少し脱線しましたが、アイナちゃんの分を含んだファナの票が“マルメッシャー教の空中艦隊に喧嘩を売る”に入ったことで、三対四でマルメッシャー教の空中艦隊に喧嘩を売ることに相成りました。

 ──さて、

「それでは、作戦会議を始めますが、どう仕掛けますか?」

 彼我の兵力数差は十二対一と圧倒的に此方が不利。なので、開戦の初手でどれだけ此方の不利を緩和出来るかが勝敗の趨勢を左右します。

 カメラビットが映し出している敵戦力は、旗艦とおぼしき飛行機型の艦が一隻、バカデカい大砲に空に浮くためのプロペラを沢山付けた艦が二隻、そして、最も数の多いのが海に浮かべるタイプの帆船型軍艦のマスト部分を飛行の為のプロペラへと改造したと思われる艦が九隻。

 ボクが艦長席からブリッジ内を見渡す中、、最初に発言したのはハルマアマル号の制御AIのマッキー。

「現在、当艦ハ惑星探査ナラビニ調査ヲ目的トシタ仕様ニナッテオリマス。

 戦闘行為ヲスルノデアレバ、一旦、造船所ドックニ戻リ、対多戦略デストロイユニットヘノ換装ヲスル事ヲ推奨シマス」

 なるほど、造船所ドックにあった造りかけと思っていた他の宇宙船は実は換装用のユニットだったのですね。

「ちょっと訊くけど、ユニットの換装にどれくらい時間掛かるの?」

 マッキーの提案に質問を投じる良藍。

「急ピッチデ作業ヲシタ場合、最短デ5時間弱デユニット換装ヲ完了デキマス」

「……それじゃ、遅すぎるわね……。彼奴らが馬鹿でもないかぎり、同じ空域に留まっている可能性はゼロ」

 確かに、良藍の言う通り、連中が現在空域に滞在し続ける可能性は限りなくゼロ。現在、旗艦からゾロゾロと出てきた一人乗り用の小型飛行機械が無数に飛び交って、おそらく、此方を捜しています。そのおかげで、連中は現在いまのところ留まっていますが、それも時間の問題でしょう。

「──デハ?」

「決まってるでしょ! 現在いま、このふねにある武装だけで、奴等を墜とすのよ!」

「了解シマシタ。ソレデハ、当艦ノ現在ノ武装ヲゴ説明シマス。

 先ズハ、両舷ニ各6門ノ加速粒子機銃ビーム・バルカン

 次ニ、前面左右ニ1門ズツ加速粒子砲ビーム・カノン。粒子カートリッジ数ハ各3ツズツデ、1カートリッジデ撃テル加速粒子砲ノ回数ハ5。詰マリ、加速粒子砲ハ左右合計デ最大30発撃テマス。

 但シ、加速粒子砲ト加速粒子機銃ハ粒子カートリッジヲ共用シテイマスノデ注意ガ必要デス。

 次ニ、実弾ノ電磁加速砲レールガンガ1門。通常弾ガ20発、着弾又ハ設定シタ距離ヲ進ムト爆発スル爆裂弾ガ10発。アー、アト、爆裂弾ヲベースニシタ試作ノ空間跳躍弾ガ1発アリマス。

 最後ニ現当艦ノ切リ札ノ主砲。粒子カートリッジ数ハ9ツデスガ、主砲ヲ1発撃ツノニ粒子カートリッジ3ツ分ノ粒子ガ要リマス。デスガ、ソノ分、主砲ノ威力ハ強大デス」

「……これはまた、弾数が少なめとはシビアね」

 マッキーの説明に良藍は芳しくない言葉を吐きますが、メインモニターに鏡映しになっている彼女の表情はヤル気に充ち満ち、瞳も爛々と輝かせています。

「ま、ようはハズさなきゃいいのよ。あたしのシューティングの腕前を嘗めんなよ、マルメッシャーのクソ共!」

 一人自身を奮起させる良藍。既に彼女の手は火器発射のトリガーを握りしめ、今か今かと待ちわびています。

「成る程、攻撃系はわかりました。防御系は先のバリアだけですか?」

 良藍が先に口にした言葉の通り、攻撃系武装は幾分心許ないです。

 少ない弾を確実に連中へと呉れてやるには照準が確りと定まらないといけません。その為には被弾も覚悟しないといけませんが、防ぐことが出来るならば防ぐことに越したことはありませんからね。

「艦全体ヲカバースルバリアハ現状後1回使用可能デス。

 次ニ大気中ノ魔力ヲ取リ込ム魔導リアクターヲ用イタ部分的ニ展開スルバリアデアレバ、何時デモ展開出来マス。

 ソレト、次元跳躍システム(D.D.)ヲ用イタ空間断絶バリアガアリマスガ、コノ空間断絶バリアハ大気圏内デ使用シタ場合、揚力ヤ通常航行エンジンニヨル空中浮揚ガ出来ナクナリ墜チマスノデ、宇宙空間又ハ地上以外デノ使用ハ推奨シマセン」

 …………防御は部分的なら可能と。

「──それでは、改めて、作戦会議とまいりましょうか────」


 ──空飛ぶ大砲艦のビームの試射現場で起きた不測の事態の調査の為に無数の個人向け小型飛行機を飛ばしていたマルメッシャー教の連中。しかし、暫く経っても何の報告も上がらない事に痺れを切らしたか、無数の小型飛行機は空母を兼ねた旗艦へと帰投していきます。

 そして、最後の一機が旗艦の中へと着艦したのを確認し、ボクたちは動き出します。

 先ずは──、

「──警告と牽制(宣戦布告)の一発目、射撃うちま~す!」

 良藍は睨め付けた照準がターゲットに合った瞬間、握った火器発射のトリガーを引きます。


 ──グヴァゴォオン!!


 電磁加速されて放出された爆裂弾が目にも止まらぬ速さで、敵旗艦のハッチが閉まりかけていた小型飛行機の格納エリアの中へと滑り込むように飛び込み、爆発して火を噴きます。

 これで、敵の小型飛行機の殆どは使い物にならないでしょう。

「──あー、あー、マイクテスト中。よし、──」

 さて、少しご説明しますと、ボクたちの乗るハルマアマル号は、不時着した場所で前以て色々と準備をしてから、空間跳躍機能でマルメッシャー教空中艦隊の真後ろに空間跳躍し、そして、今し方の先制(宣戦布告)の一撃を嚙ましたのです。

 卑怯と言うなかれ。ランテ君──というよりは良藍とサーハ君が、“マルメッシャー教の連中は話が通じる相手ではない!”と強く主張し、その証拠にと“とある事実”を語ってくれました。なんでも、トラバーナの惨劇の折、マルメッシャー教の連中は“教徒ではない”という唯ソレだけの理由で、トラバーナに住まう人々を乳飲み子から齢を重ねた好々爺にいたる老若男女すべてに手を掛けたのだそうです。

 そんな極悪非道な連中に対して奇襲・不意打ちなんて、卑怯でもなんでもないのです。

「──マルメッシャー教の諸君。

 此方、アミークス連合国軍特務隊だ。

 貴公等は直ちに武装を解除し、投降して空中艦隊の一切を破棄されたし。

 さすれば命だけは助けることを一考する」

 光学迷彩を解いたハルマアマル号の外部スピーカーから武装解除と投降を促す良藍の声がマルメッシャー教空中艦隊へと放たれます。

 因みに、良藍が名乗った“アミークス連合国軍特務隊”ですが、実は、良藍とサーハ君は正真正銘のアミークス連合国軍特務隊隊員なんだそうです。二人は証拠の襟章を提示し、その襟章が本物である事をファナが保証しましたので間違いないようです。

 しかし、と言っていいのか──至極当然と言うべきか、返ってきた応えは、

「──我々、真なる民たるマルメッシャー教教徒が、卑劣な手を使わなければ嚙み付く事さえ出来ぬアミークスの駄犬の戯れ言に耳を貸すとでも──?」

「──んなの、端から思ってねーよ。だからな、──」

 予想の範疇の答え。

 その回答に良藍は乱暴な言葉とドスをきかせた声音で、

「──死に晒せ!!」

 連中に最後通告を告げます。

 そして、先制の二撃目。

 最初の不意打ちを受けた直後から、回頭をはじめていたマルメッシャー教空中艦隊。しかし、帆船型軍艦こそ回頭を終えて此方に実弾の大砲を向けてきますが、大砲艦は大きさ故にまだ半回転した程度、旗艦にいたっては初撃のダメージの影響か回頭する予兆さえ見られず。

 そんなマルメッシャー教空中艦隊へと向けて放たれる第二撃目は、

「主砲、砲門ヲ開放。

 粒子ノ加速状況、ホボ最大!

 射線上に障害ナシ!

 何時デモ発射デキマス!」

 マッキーの報告が終わるやいなや、良藍はニヤリと嗤い主砲発射のスイッチを押し込みます。

 そして、


 ──砲門から解き放たれた粒子の奔流が、帆船型軍艦が撃ってきた砲弾を消し飛ばし、空気を焦がしながら突き進みます。


 ──やがて、荒れ狂う粒子の奔流は、漸く回頭を終えて此方を向いた大砲艦の一隻を貫くと、空の彼方で加速器によって付与された保有エネルギーの全てを使い切り、大気の中に混じり消えていきます。


 粒子の奔流に貫かれた大砲艦は通常は見えない向こう側の景色を見せながらスパークを迸らせると、


 ──ドゥガゴォオヲン!!!!


 大爆発を起こして空に散ります。しかも、飛び散った残骸は近くにいた帆船型軍艦二隻の重要部分に直撃したようで、一隻は船体が前後に折れ裂けて墜ちていき、もう一隻も機関部分と思われる箇所で爆発を起こすと墜ちていきます。

「いえ~い、一石三鳥♪」

 普段と変わらぬ声音で戦果を報せる良藍。しかし、モニターに鏡映しに映る彼女の表情は無表情のまま。

 なんともまあ、身の毛も弥立つ状況です。

 さて、開戦の奇襲攻撃で敵の総数を3減らし、一隻は見た限りでは大幅に戦力ダウン。ですが、いまだ実質の彼我兵力数差は八対一と、此方が不利。

「──円くん、ボサッとしてないで、敵が撃ってくるわよ!!」

「──はいはい、分かってますよ」

 ボクは握った操縦桿でふねを操り、敵砲弾を搔い潜ります。

 ──いや~、しかし、不謹慎ながら中学生の時に良藍と一緒に遊びに行った近場の遊園地にあった“星間大戦”というアトラクションを思い出します。それは乗り込んだ座席が最大で横軸縦軸ともに360°回転する二人乗り推奨の4D短編映画兼シューティングゲームで、良藍共々ボクも一時期一緒にハマって、スコアランキングの上位をボクと良藍のコンビ名で占めたときは、流石に遊園地のスタッフさん達も脱帽してましたね~。……おっと、思い出に耽るのはこれくらいにしておきましょう。

 今のところ、敵は大砲艦を中心に横一列に壁のように並び、攻撃は正面からのみという手数が少ない陣形なので、回避はマッキーのサポートもあって楽ちんです。

「──チッ、奴ら旗艦を逃がす気ね……」

 良藍の吐いた愚痴に、レーダーを見てみれば確かに敵旗艦が帆船型軍艦を一隻護衛に付けてこの空域からノロノロと遠離ろうしています。道理で旗艦が先ほど回頭しなかった訳です。

 それで、大砲艦以下残りの帆船型軍艦六隻が通せん坊する為に横一列の陣形をとっているのですね。

「ったく、大将首を含めて殲滅するには、とっとと敵の数を減らさないと。

 円くん、ふねの操縦よろしく!」

「ええ、分かってますよ! 良藍の方こそ、弾数に限りがあるのですから、撃墜した敵への追い撃ちによる無駄撃ちはナシにして下さい!」

 実は先に述べたアトラクションでは、撃墜した敵を画面から消える前に更に撃つとボーナススコアが入る仕様になっていたので、その時のクセが出たら困りますからね……。

「………………わ、分かってるわよ!」

 ──なんですか……、その間は……。……でも、まあ、ちょっと不安ですが、彼女の言葉を信じるとしましょう。

 良藍との遣り取りの間もボクは操縦桿を操作して敵弾を回避する中、彼女もまた敵の砲撃の間隙を突いてレールガンで帆船型軍艦一隻に幾つか穴を穿つと狙い違わず穿った穴の一つに爆裂弾をお見舞いし、──


 ──ドガゴーン!!


 木っ端微塵にして撃墜します。

 ただ残念ながら、一隻目の大砲艦の爆散の時のように他の敵艦を巻き込むことはありませんでした。

「次!」

 敵はいまだに旗艦を逃がす為か、通せん坊の横一列の陣形のままでバカスカと搭載されている砲台から砲弾を飛ばしてきます。

 そして、大砲艦がチャージを完了したようで、前方に開いた大口──ビーム砲の砲門内に加速された粒子の光りが覗き見えます。

「──!? ドデカいビームがくるわよ! アレ、部分バリアで防げる?」

「ハイ、部分バリアハ魔導技術ヲ取リ入レイマスノカラ性質変更スル事デ、加速粒子砲ヲ完全ニ防グ事ガ出来マス。但シ、対加速粒子砲ノバリアハ加速粒子ビーム系以外ノ通常ノ弾ハ素通リシテシマイマスカラ留意シテ於イテ下サイ。

 ソレト、部分バリア展開中ハバリアノ性質変更ハ出来マセンノデ此方モ留意シテ於イテ下サイ」

「了解。じゃあ、とっととバリア張っちゃって!

 敵が撃ってくるわよ!」

 良藍の指示にマッキーは直ぐさま応答し、ハルマアマル号の前方に半球状の光の膜が現れます。

 そして、此方がバリアを展開してから間髪置かず大砲艦からぶっとい光の塊が吐き出され、此方へと凶刃を突き立てんと迫り来ます!

 しかし、その光の塊は半球状の光の膜にぶつかると、まるで裂けるチーズを全方位から引っ張って裂いたかのように光の塊は細い線状の光の帯になって、バリア表面を滑っていくとハルマアマル号の後方の空の彼方へと消えていきます。

「ハン! 残念賞でし──に゛ゃっ!?」


 ──グガァン!


 良藍が敵のビームを防いだ事に息を巻いていると、突如、衝撃がふねを襲います。

「前方右舷上部ニ被弾。直撃デハアリマセンデシタノデ損害ハ無視シテモ問題ナイホド軽微デス」

 どうやら、敵は大砲艦のビーム砲に合わせて撃ってきたようで、そのうちの一発をくらったようです。

「……にゃろっ! 小賢しい真似を!

 円くん、弾をぶつけてきた奴を墜とすわよ!」

「了解」

 大砲艦からのビームが止み、前方を見渡せるようになると、先ほどとは打って変わって横一列に陣取っていた敵艦隊のうちの一隻が抜きん出ていて、その一隻が此方へと接近しながら砲撃を仕掛けてきます。

「あ~ら、なに、もしかして、差しでやろうって言うの?」

 良藍はその出てきた一隻に外部スピーカーはオフにしているので聞こえる訳はないのですが、挑発の言葉を口にします。

 そして、此方に接近中の帆船型軍艦はまるで良藍の挑発の言葉が聞こえてみたいに、接近する速度を上げて一気に近付いてくると、最大火力が出せるふねの側面をボクたちの方へと向けると、


 ──ドドドドドーン!!


 全砲台から一斉に火を噴かせ、此方へ砲弾を飛ばしてきました!

「円くん、撃ってきたふねに船首を合わせたまま上昇回避!」

「了解!」

 ボクは既に操縦桿と姿勢制御パネルを操作して、良藍の指示通りに敵砲弾を回避。

「ハッ。迂闊に一隻だけで突っ込んできたことをあの世で後悔することね!

 これでも喰らいなさい!!」

 接近してきた敵艦の砲撃を回避して、その敵艦の斜め上方の位置からのお返しは、──


 ──ジュヴォヴォー!


 ──二門のビーム砲。それと──


 ──ドグゥワァン!


 ──爆裂弾。

 先ずは、放たれたビームが敵艦の船首と船尾付近の甲板から船底まで穴を空け、トドメの爆裂弾が敵艦の甲板中央に着弾して敵艦を真っ二つにします。

「──これで、五隻目。思ってたより順調ね。この調子でこの場にいる残りを片付けて、敵旗艦を追い掛けましょう!」

 とんとん拍子に敵艦を次々と墜とせて、上機嫌の良藍。しかし、────


「──あ~、もう! 射線軸がズレちゃったじゃない!」

 目測では既に敵旗艦が見えない距離まで逃げると、それまで通せん坊状態だった敵艦隊は横一列の陣形を解いて、攻勢に出て来ました。

 四隻の帆船型軍艦による攪乱と連係によるヒットアンドウェイ。更に、大砲艦による単調ながらのビーム砲。

 此方も応戦はしてますが、やはり多勢に無勢。回避しきれない攻撃を部分バリアで防げば、バリアが展開時の一瞬の隙のうちにバリアが展開されていない方向からの一隻ないし二隻、ときには三隻による砲撃。おかげで幾つもの砲弾の直撃を受けて、ブリッジ内はレッドランプが点滅しっぱなしです。

 そして、時に此方からも反撃を加えますが、先の良藍の愚痴が示す通り、敵の連係によって必中である筈のこちらの攻撃は射線をずらされてしまいあらぬ方向に向かって弾やビームを撃ってしまうという始末。当たっても、現在いまのところ航行に問題が出ない程度の小破が敵艦隊に与えた最大ダメージです。

「──かーっ、やっぱ多勢に無勢じゃジリ貧になっちまうよな……」

「そうっすね……。ただ、五隻も墜としたんでやんすから、もう十二分にやったと、オイラは思うっす」

「ああ、確かにオレも武装の乏しい状況でこれだけの戦果は重畳ものだと思うぜ」

「…………あによ、トレジャーハンターさんもランテさんも、何が言いたいの?」

「………………単刀直入に言いやす。戦略的撤退を提案──進言しやす。すでに船体はボロボロっすし、命あっての物種っすよ?」

「そうだぜ、ランテの言う通りだとは思わないか、黒髪の嬢ちゃん?」

 今まで黙して見守っていたガメッツさんとランテ君が、現況を鑑みて良藍に戦略的撤退の提言をします。

 ──ボクとしましても、こうもこっぴどくやり込められて気落ちしているので、ランテ君たちの意見には同意です。

「……………………」

 しかし、ランテ君の提言に良藍は口を噤んで黙したまま、忙しなく動き回る敵艦たちを映し出しているメインモニターをジッと睨み付けます。

 ……。

 …………。

 ……………………。

「……っ、分かったわよ。退けはいいんでしょ?!」

 暫し黙考した後、モニターに鏡越しに映る表情は苦渋に充ちながらも良藍はガメッツさんたちの提言を受け入れ、撤退を決めてくれたようです。

 ボクとしましても、これでホッと出来そうです。

 良藍の回答にガメッツさんとランテ君も胸を撫で下ろし、まだ早いですが安堵の息を漏らします。

「──でもね、最後にあと一隻の大砲艦だけは何が何でも墜とすわよ!」

「ああ、その意見にはオレも同意するぜ。あんな光の塊を撃ってくるのが人知れず空を飛び回ってると思ったら、おちおち枕も高くできねーからな」

「そうっすね。最後の一踏ん張りっす!」

「ええ!」

 良藍、ガメッツさん、ランテ君、そして、ボクと、一丸となってマルメッシャー教の空中艦隊に最後の一矢を報いる為に立ち向かう意思を固めます。

 因みに、ファナとサーハ君、そして、意外にもアイナちゃんは度重なる被弾時の激しい揺れで乗り物酔いに陥ったようで、みな顔を青くしてグッタリと座席にもたれています。

 ──さて、

「円くん、主砲のチャージが出来るまで、回避の方よろしく!」

「はい! 昔取った杵柄の真価、いまが見せ時ですね!」

「トレジャーハンターさん、ランテさん、各々に右と左のビームバルカンの操作を任せるから、五月蝿い帆船型軍艦ハエを近付けさせないようにして!」

「おお! あの“ビビビ……”って飛ぶ光弾をオレらが自由に撃っていいのか?!

 いいぜ、任せな!」

「了解っす!」

 良藍の指示にブリッジ内は色めき立ち、いざ、作戦開始です!

 ──操縦桿を握る手に力がこもります。必ずや、大砲艦を撃ち墜とす為の主砲が発射可能になるまで、躱しきってみせましょう!

 縦横無尽に飛び交う敵の砲弾。一見して、回避は不可能に見えますが、

「──視える! 視えます!!」

 戦いの終わりが見えたことで集中力が増したのでしょう。ボクの脳裏にはどう回避するべきかが手に取るようにわかってしまいます。

 操縦桿を動かして、脳裏に浮かんだ通りに、ボクは敵砲弾の雨の中をハルマアマル号を操縦して潜り抜けていきます。

「オラオラ、邪魔だ邪魔だ、退け退け~!」

「オイラの華麗なるビームバルカン捌きを見るがいいっす!」

 さらに、ガメッツさんとランテ君のビームバルカンによる巧みな牽制が敵艦隊の動きを鈍らせ、先程とは逆に此方が敵を攪乱していきます。

「やるじゃん、トレジャーハンターさんとランテさん。これなら、最初から二人にも火器を任せておけばよかったわ……」

 確かに。ガメッツさんとランテ君の牽制攻撃は的確で、敵が此方を攻撃するのにもってこいのポジションに入る手前でふねの進路を封じるという、絶妙で敵からしたら嫌らしいことこの上ない牽制です。

「ねぇー、ねぇー、コレって、もしかして殲滅なんかもイケるんじゃない?」

「何を言ってるですか、良藍は。

 さっき、大砲艦を墜としたら撤退って言ったばかりじゃないですか。

 まったく、舌の根も……──」

「はいはい、そうでしたねー。

 もう~、円くんったら、昔と違って冒険しなさすぎ……」

「…………冒す危険のレベルが現在いまと昔とでは違い過ぎます。

 そもそも、良藍も分かっていると……──」

「あー、はいはい、それくらい承知してるわよ。

 ホント、円くんは小言が出るようになったよねー」

「……それだけ歳を重ねてきたつもり、ですからね。

 ま、いまの見た目じゃ、つい今し方の言葉の重みはかなり軽く見られるでしょうけれども……」

 ──ホント、良藍はボクと同い年だというのに、いまだに学生気分が抜けてませんね……。やれやれです。

「……円くん、いま、あたしのこと子供だとか思ったでしょう?」

「──いえ、別に」

「……そう」

 ──……いやはや、モニターに集中している良藍にはボクの姿や表情やらはまったく見えないというのに、勘の鋭さはいまだに健在ですね……。

 操縦桿を操り、いまだ雨霰な敵砲弾の飛び交う中を────

「敵からの砲撃が小康状態になったす!」

 ランテ君の上げた報告通り、マルメッシャー教空中艦隊からの攻撃の手数がついさっきよりも、目視でも判るほどに減っています。

「どうせ、さっき迄、バカスカ撃って弾が無くなってきたんじゃないの? これは好機チャンスよ!」

 ランテ君の報告を聞いて、良藍は機を得たりと意気込みますが、

「……なんか、無性にイヤな予感がするぜ……」

 対して、ガメッツさんは敵が何かしらの企みがあるのではないかと警戒感を強めます。

 そして、どうやらガメッツさんのイヤな予感が的中したようで、マルメッシャー教空中艦隊は唐突に次々と出鱈目に砲撃を行うと、発射されたソレ等の砲弾が次々と空中で爆発を起こし、白煙をばら撒きます。

「目眩ましっす!」

 あっという間にモニター越しに映る外の景色は白煙による白に包まれて、ランテ君が言った通り、敵艦隊を目視できない状態──目眩ましされてしまいました。

「チッ、煙に紛れてオレらを一気に叩こうってか?」

 可能性としては大ありですね。相手を煙幕の中に閉じ込めてからの一斉掃射。常套手段の一つです。しかし、

「? どういうつもりでしょうか?

 一斉掃射ではなく、散発的とは……」

 敵は一斉掃射する気配はみせず、先程と同様かそれ以下な少ない手数の砲撃を繰り返してきます。しかし、砲撃が行われるとその衝撃で白煙が大きく動き、その白煙の動きのおかげで通常時よりも砲撃の射線が分かり易く、余裕で躱せてしまいます。

「……まさか、奴等、煙幕に紛れて逃げるつもりかしら?」

 良藍が零した言葉通り、その可能性もあるかもしれませんが、レーダーで敵艦隊の動きを見る限りでは、

「……う~ん……、どうも、敵は逃げるつもりはないかもですね……」

「じゃあ、奴等の狙いは?」

「…………、レーダーで敵の動きを見る限りでは、どうやらボクたちを大砲艦の射線軸上へと誘い込むつもりのようです」

 レーダー上の敵──マルメッシャー教の空中艦隊は一隻がほぼ同位置で目立った動きはありませんが、残りの四隻は目視では煙幕で見ることが出来ませんがレーダー上では忙しなく動き回り、散発的な砲撃を回避する度にハルマアマル号は大砲艦のド真ん前へと近付いており、更に左右から二隻ずつで挟み込むような位置取りも見受けられます。

「──なるほど。大方、連中はあたしたちを大砲艦の真ん前に誘い出してバリアでビーム砲を防いでいる隙を突いて、両土手っ腹に砲弾を有りっ丈撃ち込もうっていう算段ね」

 ──スゴいですね、良藍は。ボクが言った情報から敵の作戦を看破してしまいました。

 確かに、敵の動きは良藍が看破した作戦通り、レーダー上では既に大砲艦の真ん前まで誘き出されたハルマアマル号の直ぐ両脇に二隻ずつの敵艦がピッタリと張り付いています。

 そして、煙幕がありながらも、大砲艦がビーム砲のチャージを終えたことが目視でもわかるくらい前方の煙幕の中に一際明るい光りが覗き見えます。

「マッキー、全体バリアの外側に対ビームのバリアって展開できる?」

「ハイ、可能デス」

「オーケー。んじゃ、敵の攻撃を防ぐ方はそれでいいとして、次に敵が勝利を確信しての総攻撃敢行後、攻撃を撃ち終えてこっちを撃沈したと思い込んでいる油断を突いての反撃なんだけど──、──とりま、正面の大砲艦には主砲でいいとして、問題は左右にいる帆船型軍艦どもよね……」

 そうですね……。このハルマアマル号には基本前方への強打になる攻撃手段はありますが、左右の敵に対しては各六門ずつのビームバルカンはあれど威力的には心許ないです。でも、まあ──、

「帆船型軍艦は木製ですから、ビームバルカンの乱れ撃ちでもなんとかなるのでは?」

「……う~ん、それだと、当たり所がよくなかった場合、墜ちない場合も有り得るわ。確実に墜とすには…………──」

「んなぁ? このビームバルカンってヤツさ、弾を撃ち出す間隔を無くして出しっ放しって出来ねーのか?

 出来たら、剣みてーにブンブン振り回して敵のふねを切り刻めると思うんだが……?」

「──!? トレジャーハンターさん!」

「うお!? すまん、黒髪の嬢ちゃん、変なことを言っ……──」

「──いいえ! ナイスアイディアよ!!

 ソレなら、当たり所を気にすることなく墜ちるまで切り刻んじゃえるからね!

 マッキー、ビームバルカンの連射間隔を完全に零にして、出しっ放しに出来るわよね?」

「可能デスガ、粒子カートリッジノ残量ヲ短時間デ使イ切ッテシマイマス」

「敵艦を墜とせるまでもてば結構!

 イケるわね?」

「ハイ、了解シマシタ」

「さあ、奴等を血祭りにあげてやりましょう!!

 対ビームバリアと全体バリアを展開!」

 これはまた、ガメッツさん、トリッキーな案を出しましたしたね。ビームバルカンをビームソードにですか……。

 良藍もガメッツさんの妙案を即採用とは、時間が無いとはいえ、思い切った決断を下しました。

 これが上手く行けば、良藍が言った「空中艦隊の殲滅」に王手になる一大好機。

 はてさて、どうなることやら……。

「──さ~て、マルメッシャー教のクソ共!

 目にもの見せやるわよ!!」

 敵の総攻撃が各種のバリアで防がれている様を映し出しているモニターを見詰めながら、良藍は舌舐めずりをしているような雰囲気で意気込みます。


 体感時間で数十分。実質には十分にもみたない時が過ぎ、全体バリアを叩いていた敵の総攻撃がパッタリ止みました。

 ……

 …………

 ……………………

 ──数秒間、待てど暮らせど次なる敵の砲撃はやってきません。おそらく、先の総攻撃で砲弾を使い切ってしまったのかもしれません。

 即ち──、

「バリア解除!

 ビームバルカン改め、十二の光翼剣トゥエルヴ・アーラ・グラディウス、敵を切り刻みなさい!!」

「おうよ!!」

「やってやるっす!!」

 良藍の号令が轟き、ハルマアマル号を守っていたバリアが解かれ、本来は連続して加速粒子ビームの光弾を撃ち出す砲門からは光の柱──否、ビームソードが姿を現します。左右対称に六本ずつ、計十二本のビームソード。現在いまのハルマアマル号を上から俯瞰したら、光翼を広げる鳥に見えるかもしれまん。故に良藍は先のような呼び名を付けたのでしょう。

 そして、十二の光翼剣は翼という名前とは裏腹に一本一本が砲門の傾きに応じて手指をバラバラに動かすように上下左右に出鱈目に動き回り、いまだ晴れない白煙の中に潜むものたちを切り刻んでいきます。

「──さてと、それじゃお待ちかね、主砲を撃つわよ!」

 良藍が握る火器発射トリガー上部の照準が主砲仕様に切り替わり、オートターゲティングが作動し、攻撃対象をロックオンします。

「さあ、年貢の納め時よ!

 墜ちろ、ウジ虫共!」

 乱暴な台詞とともに良藍は引き金を引き、砲門の中で烈しく渦巻いていた粒子の奔流を解き放ちます。

 解き放たれた粒子の奔流は周囲の白煙を蹴散らしながら突き進み、ついには大砲艦の姿を煙幕の中から引き摺り出すと同時に、貫き、孔を穿ち、そして、──


 ──ドグバゴォオーン!!


 盛大に爆散させました。

 大砲艦の散り際の大爆発は周囲の白煙を吹き飛ばし、此れ迄の間、目視できていなかった周囲の光景を視えるようにします。

 そして、白煙が晴れて見えてきた光景は──、


 ──十二の光翼剣で滅多斬りにされてバラバラになって墜ちていく三隻の帆船型軍艦。


 どうやら、一隻はかろうじて難を逃れたようで、船体の至る所をビームソードで焼き斬られてはいますが、致命的なダメージには至ってないらしく、距離を取った位置で船首を此方へと向けて茫然と佇むかのように滞空しています。

「チッ、しぶといわね……。

 とっとと、墜ちなさい!!」

 良藍は残った一隻に対して、惜しみなく爆裂弾を用いて退路を断つと、ありったけの通常弾のレールガンをお見舞いして、この場に残るマルメッシャー教の最後の空中艦を沈めます。

「……ひえ~、容赦ねーな、黒髪の嬢ちゃんは……」

「そうっすね……。

 しかし、まさか、本当にマルメッシャー教の空中艦隊を潰滅させるとは……──」

「──いいえ、まだよ!

 旗艦とその護衛艦の二隻が残ってるわ!!」

「──ちょっと、良藍、大砲艦を墜としたら、撤退って決めたじゃないですか?!」

「そうだぜ、黒髪の嬢ちゃん。オレたちはマジで十二分にやったんだから、もう、帰ろうぜ? な?」

「そうっすよ、姐さんと兄貴の言う通り、帰りやしょう良藍さん」

「──でも、円くんもトレジャーハンターさんたちも、これは好機なのよ」

「ソウデス! 乙女ノ船体ヤワハダヲ傷ツケタ連中ノ親玉ヲ見逃ス訳ニハイキマセン!」

 ──ワッツ? 戦闘中、被弾しても淡々と状況報告していたハルマアマル号の制御AIのマッキー。そんな彼女が、現在いまは感情を露わにして良藍の追撃案に賛同します。

「その通りよ、マッキー。乙女の柔肌に平気でキズを付けるような下衆げすな輩どもには、例え手を出してはいないといえ其奴らの親玉には、須く報いの鉄鎚を下すべきなのよ!」

 マッキーの良藍への賛同の言い分に、彼女は我が意を得たりと息巻き、高らかに追撃することの重要性を訴えます。

 ……ん、まあ、感情論としては分からなくもないですが、

「──いや、ケンカをふっかけた時点で、ダメージを受ける可能性はあったんすから、それって完全な逆恨み……──」

黙りなさい(プラッシャ)!」

「……はいっす……」

 ランテ君の入れたツッコミの通り、ボクも単なる逆恨みだと思います。が、そんなツッコミを良藍はカドゥール・ハアレツ(この世界)の言葉で一喝し、一蹴してしまいました。

 他に追撃案に意見のある人は──?

 ボクは艦長席からブリッジ内を見渡しますが、ファナ・サーハ君・アイナちゃんの三人はいまだに激しい揺れの酔いから回復しておらず、ガメッツさんは弟分のランテ君が一蹴された事で“あ~、コレ、何言ってもダメだわ~……”と諦めモードで我関せずになってます。

 ですが、現実的に、

「……良藍、追撃するのは、もうこの際反対はしません。が、残弾数はもう残り僅か。敵の旗艦は爆裂弾を小型飛行機の格納庫エリア内に喰らっても、船体には然程のダメージも無かったんですよ?

 そんな堅い相手に残りの弾を撃ち込んでも……──」

 正直、最初の不意打ちで敵旗艦を墜とせないまでも、航行に大幅な支障をきたせると踏んでいましたが、結果は格納庫エリア内を焼き払ったのみで、それ以上の損害は見られませんでしたからね。

「──主砲があと一発分、残ってるじゃない。それでイチコロよ!」

「ソウデス!

 火器管制官殿ノ言ウ通リデス。

 当艦ノ主砲デアレバ、アノ巨大ナ空母艦デアロウトモ、撃沈出来マス!」

 武装の残弾数が尽きかけていることを認識させ、追撃の戦果が芳しいものにはならないと悟らせて、已む無く追撃中止へと持ち込もうとしましたがやぶ蛇でしたね……。

「──さあ、総仕上げといきましょう!」


 此方から目視では見えない距離まで遠離ったことで、気を許してか低速で空を進み行く、マルメッシャー教の空中艦隊の旗艦にして空母艦と護衛の帆船型軍艦。

 しかし、彼等には残念ながら、此方には一度でもマーキングした対象であれば超広範囲でも探知可能なレーダーがあるので、いまだ目視できていなくとも、双方の距離がみるみるうちに縮まっていくのがレーダー上で見てとれます。

「さ~て、追い付くと同時に主砲を御見舞いしてやるわ。マッキー、そろそろ主砲の発射準備よろしく!」

「了解デス。火器管制官殿」

 そして、遂に遠目にマルメッシャー教空中艦隊旗艦と最後の帆船型軍艦を目視できる距離に捉えました。

 空が茜色に染まり始める中、満身創痍な空行くふねは、カラダにムチ打ち更なる加速をして、前方を悠然と飛行する巨大空母艦へとその距離を縮めていきます。

「モウ間モナク、主砲ノ有効射程距離圏内ニ敵旗艦ヲ捕捉シマス」

 マッキーの状況報告に主砲発射トリガーを握る手に力を籠める良藍。彼女は照準越しにモニターに映し出されている敵旗艦を睨め付けたまま微動だにしません。

 更に敵旗艦との距離が縮まったとき、漸く、敵も此方の存在に気付き、旗艦を護衛している帆船型軍艦が迎撃する為に進行速度と進行方向はそのままに回頭して此方に一番デカい大砲がある船首を向けてきました。

「はん、気付くの遅すぎ。もう手遅れ、後の祭りよ!」

 そんな、敵の帆船型軍艦の動きを嘲笑いながら良藍は既にロックオン済みの敵旗艦へと向けて、引き金を引いて猛狂う光の奔流を解き放ちます。

 放たれたビームは何ものに遮られることなく、敵の旗艦に裁きの光刃を突き刺さんと突き進みます。

 だがしかし、其れをよしとしない者がこの場にいました。それは、言わずもがな、旗艦を護る為にいる最後の帆船型軍艦です。

 無謀にも──いえ、この場合は、果敢にも帆船型軍艦は旗艦へと突き進む加速粒子の奔流と旗艦の間に分け入り、旗艦を害さんとする光刃から旗艦を護らんと、その身をビームの前に晒し出します。

 ですが、哀しいかな。ハルマアマル号の主砲は金属材質の大砲艦を易々と貫く程の高威力。木製のふねでは防ぐことはおろか身代わりにするならないでしょう。

 そして、ボクが予想した通り、最後の帆船型軍艦は光の奔流に飲み込まれて、一瞬にして跡形も無く焼失してしまいました。

「──ホント、組織に盲信的に忠実な奴って犬死にが好きよね……。哀れに思うわ。

 さて、フィナーレよ!

 さあ、最後を飾るに相応しい、汚い花火を打ち上げなさい!」

 良藍は旗艦を護らんと散った帆船型軍艦に憐憫の台詞を手向けると、何処ぞの悪役が言いそうな台詞を口にします。

 帆船型軍艦を屠ったビームはその勢いを衰えさせる事無く、ターゲットの空母艦へと迫り、そして、──


 ──バヂヂヂィヂヂィヂヂィィイィイイィィ……!!!!!!


 空母艦が展開したバリアによって、侵攻を妨げられて、ついには加えられた全エネルギーを使い切って空母艦に僅かなダメージさえもを与えず仕舞いに消えていってしまいました。

「──ちょっと、バリアが有るとかズル!?

 聞いてないんですけどっ?!」

 ──…………あ~、良藍、敵対者に対して手の内を明かすような事は普通はしませんよ。余程の自信過剰者でもないかぎりは……。

 心の内でボクはそう良藍にツッコミを入れつつも、これから如何したものかと考え倦ねます。はっきり言って、ボクも敵がバリアを使用できるとは想像だにしてませんでしたから……。

 ──さて、どうした──


「これはこれは、誰かと思えば、アミークスの犬ではありませんか?!」


 ──もの……か!?

 此方が更にマルメッシャー教の空母艦に近付いたあたりで、その空母艦は旋回をはじめ、こちら側に向き直ると同時に外部スピーカーを使って、語り掛けてきました。

「おやおやおや? 暫く見ないうちに、随分と見窄らしくお似合いの姿になってますね~」

 嘲りの声音でおちょくってくるマルメッシャー教。

 明ら様な挑発と知りながらも、すかさず良藍は外部スピーカーをオンにし、応答します。

「吠えるな、邪教徒共!

 我々がこの場に現れた意味、分からぬでもない?」

 良藍の応答に、マルメッシャー教は、

「……………………」

 無言を返答とします。

 彼等とて、まさか、突如、何処からともなく現れた敵対者が駆る飛行船に出会し、剰え、旗艦たる空母艦以外の空中艦隊全てを墜とされるとは思ってもみなかったことでしょう。

 ……まあ、此方と致しましても、まさか、歴史の闇で蠢く邪教の皆さん達とバッタリ遭遇するなんて妄想すらしてませんでしたから……。

「は、何も言い返せぬか。なら、これ以上の言葉は無用。

 大人しく、散っていった輩よろしく地獄に墜ちろ!!」

「ほざけ! 駄犬がっ!!

 返り討ちにしてくれるわ!!」

 …………あー、なんというか、これまた何処かで聞いたようなやり取りを皮切りに、ついに最終決戦の幕が切って落とされました。

 さて、片や有効打な武装は撃ち尽くし残る武装も弾数は残り僅かな満身創痍な宇宙船、片や強力なバリアと堅牢な装甲を擁するも空対空の武装は艦載機だけであったようで格納庫エリアを艦載機全機毎潰された現在は攻撃武装を有さない空母艦。

 ──あれ? これって、双方共に詰んでませんか?

 睨み合ったまま、これといった動きを共に見せることなく、対峙し続けるボクらのハルマアマル号とマルメッシャー教の空母艦。

 先に動いた方が負けという状況でもないのに、二隻のふねは無意味に対峙すること暫し。

「……ねえ、どうしよう?

 啖呵を切った手前、スゴスゴと退き下がるワケにはいかないし……」

「…………あー、「どうしよう?」と言われても、如何することも出来ませんよ?」

「だよねー……。……あ、そうだ!

 契約してる精霊たちの力を借りた魔法で──」

「──止めておけ。其方が契約している精霊たちの力を以てしても、あの頑強な空飛ぶ乗物を墜とすには四半日かかるぞ。」

「あ! ベヒさん、起きたんですね」

「ああ、もう間もなく夕刻であるが、おはようだ。」

 どん詰まりの最中、良藍が“武器が使えないなら、魔法があるじゃない”的なことのみなを言い切る前に、分け入ってきた声は、ボクと契約を結んでいる精霊たちの一体──地の精霊ベヒーモスのベヒさん。

 ボクと契約を結んでいる他の精霊たちは、ボクの生活のリズムに合わせて意識の寝起きをしてくれていますが、ベヒさん曰く「それは余程に好かれている証拠」なんだそうです。基本、精霊は人と契約していようと自由人なため精霊の意識が起きているか寝ているかは精霊こじん次第。呼び掛けて、無理に起こすと契約を結んでいても機嫌を損ねて一時的に力を貸してくれないことなど間々ある事なんだそうです。

「……四半日かかるって……、そんなの逃げられちゃうじゃない。

 それに、その勿体振った不遜な言い草はナニ?

 アンタなら、魔法一発で仕留められるって言うの?」

「無論だ。それに吾だけでなく、吾の契約者である円と同じく契約をしている風の精霊たち(シルフルズ)もあの程度の空飛ぶ乗物を墜とすのは造作も無い。

 ……ただし、見渡せる範囲の周囲に甚大な被害が出ててしまうがな」

「……流石に、それは……ってか、自然の化身の精霊が自ずから自然環境破壊するような真似しちゃっていいの?」

「ふむ、()()は許容の範囲だ」

 ──ヱー!? “見渡せる範囲の周囲”って言ってたよね、ベヒさん。それで、()()って……。

 ボクは良藍とベヒさんのやり取りを聞きながら、胸中でそうツッコミつつ、引き続き二人のやり取りに耳を傾けます。

「…………あー、魔法一発でアレを墜とせるなら、アレだけを墜とす──若しくは周囲の自然環境への被害を出来るだけ抑えるってこと出来ない?」

「出来る出来ないで判断するならば、出来る」

「本当!? じゃあ──」

「──しかし、現実的には不可能だ」

「? ……それって、どういう意味?」

「単純な話、そのようなご都合主義的な魔法を行使するには魔力がてんで足りん。

 例をあげると、今し方、其方が言った“空飛ぶ乗物だけを破壊する”という魔法を行使する場合、要する魔力は、常人の約三十倍の魔力を保持できる其方が丸々二人分の魔力が要るのだ。

 ましてや、吾と契約している円は常人の域。

 そのようなご都合主義的魔法の行使は至難どころか現状では絶対に無理不可能だ。

 よいか? 魔法はご都合的な性能や性質を盛れば盛るほど、魔法を行使するのに要する魔力が跳ね上がる。

 逆に最初からあるデメリットをそのままにすれば、常人でも強大な力を有する魔法を行使は可能なのだ」

「……ふ~ん、そうなの。残念。

 んじゃ、自然環境に大規模な被害を出さずに奴等を墜とす手段は……──」

「…………其レナラ、無イコトモ無イデス──」

 ベヒさんの魔法についての講説に、都合のいい事などそうそう無いと悟った良藍が何かを決断しようとした、まさにその時、横手からマッキーが口を挟みます。

「ホント?!」

「ハイ。此カラ、私ガ献策スルハ、所謂、最後ノ最後ノ最終手段」

「最終手段?」

「ソウデス。

当艦ノ部分バリア展開システムノ要“魔導リアクター”ヲ意図的ニ暴走サセテ、換装ユニットヲ犠牲ニシテ脅威ヲ排除スル──即チ、自爆デス」

「……自爆か……、そうね、もう、それくらいしか確実に奴等にダメージを与える方法は……なさそうね。

 あー、でも、此方こっちの主砲を易々と防いだバリアが邪魔よね。

 バリアの所為で自爆を決行しても、“ダメージを殆ど与えられませんでした”じゃ目も当てられないわ。

 何か……そう、あのバリアを無力化……──いえ、このふねが突っ込めるだけの穴でも空けられれば……──」

 マッキーが提案した“特攻じばくこうげき”を即断で採用する良藍。

 まあ、大概にして“最終手段”と聞いて思い浮かぶのは“死なば諸共な自爆攻撃”。

 まさか、現実にて、その自爆攻撃をやることになるとは夢にも思いませんでしたが……。

「──あ、あの、良藍さん」

「ん? あによ、ランテさん」

「これは、“もしかして”の話っすが、()()()()()なら、局所空間転移で敵のバリアを空間転移に巻き込んで“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?”」

「──!?

 マッキー、ランテさんが今言ったことって──?」

「可能デス」

 マッキーの肯定の返答に、俄に色めき立つ良藍。

「──そう、奴等のバリアに穴を空けられるのね。

 なら、やらない手はないわ!」

 そして、

「──マッキー、空間跳躍弾の扱い方を教えてちょうだい」

 そうと決めた良藍の行動は早く、彼女はマッキーに空間跳躍弾の扱い方の詳細な内容を聞き、作戦を立案し、作戦内容の最終確認をすませると、

「──さあ、今度こそ、正真正銘のフィナーレよ!」

 此れ迄、無為に睨み合っていたマルメッシャー教の空母艦を獲物を狩る猛獣の如き目で見詰める良藍。

 ボクは良藍の指示を脳内で反芻し、意を決めて操縦桿を倒してふねを前進させます。

 先ずは、ゆったりとした速度で、レールガンの残弾──通常弾数発と爆裂弾二発を相手が()()()()()()()()()()()()()()()に撃ち込みつつ近付いていきます。

「ムハハハハ……!

 無駄だ無駄だ!

 その程度の弾丸など、このバリアの前では無意味よ!!」

 敵の嘲笑に構わず、ハルマアマル号は前進を続けます。

 そして、空間跳躍弾以外の最後のレールガンの弾──二発目の爆裂弾がマルメッシャー教空母艦のバリアにぶつかって爆炎を撒いて、一時的に敵の視界を奪った瞬間、──狙い違わず──


 ──本当の本当にレールガン最後の一発──


 ──空間跳躍弾を解き放ちます!


 ──レールの間を電磁力に因って超加速され、射出された弾は目にも止まらぬ超高速で飛翔し、マルメッシャー教の空中空母艦が展開するバリアに接触した次の瞬間、着弾点を中心とした一定範囲内の空間を強制的に転移をさせます。

 空間跳躍弾に因って、強制空間転移を起こした空間はまるでマイクロブラックホールのような黒の球体の如き様相を呈した次の瞬間には元の正常な空間に戻り、そして、

「さあ、ファイナルストライクよ!!」

 良藍の最終攻撃の号令の下、見事なまでにマルメッシャー教空母艦のバリアに空いた穴を目掛けて、ハルマアマル号は最後の力を振り絞って急加速し──

 ──ヅガガン!!

 バリアに空いた穴を潜って、マルメッシャー教空母艦に衝突します。

「──おのれ! 駄犬の分際で小癪な真似を──」

「ハッ、小癪で結構。

 我らは貴様等のような、分かり合うことは疎か隣人としての妥協をさえも受け容れられない許容の狭き害悪を排除するには如何なる手段をも用いるに躊躇いは無し!

 ──さて、此処で貴様等に問おう。我らは汝等を守る強固な障壁に穴を穿ち、こうして当て身に打って出た真意、解るか?」

「…………!? まさか、自らを爆弾とする気か?!」

 良藍の挑発に、数瞬、黙考し、解に辿り着いたマルメッシャー教は驚愕と共に畏怖の混ざった声音で、良藍の問いに対する解を口にします。

「ご名答。見事、正解した汝等には“帰還不可な地獄への旅路”を贈呈しよう。因みに、受け取り拒否及び返品は受け付けておらぬ故、悪しからず」

「ぐぬぬ……。たかが駄犬風情が崇高なる選ばれし民である我等を愚弄しおって!

 赦さぬ! 赦さぬぞ!!」

「フッ。誰が貴様等などに赦しを乞うものか!

 それより、よいのか?

 我と悠長に言葉を交わしていて?

 もう間もなく、貴様等は粉微塵ぞ?」

「…………、おのれ、又も我等を侮辱するか!」

 怒りの沸点が低いのか、良藍の更なる挑発でキレるマルメッシャー教。どんな人物像なのか迄は分かりませんが、歯がみしているだろうことは想像出来てしまいます。

「マッキー、作戦オペレーション決行よ!」

「了解シマシタ。

 自爆攻撃(コード:ファイナル)決行シークエンスヲ開始シマス。

 コアブロックヲユニットカラノパージヲ実行。

 ユニットカラノコアブロックノパージ完了。

 自爆攻撃(コード:ファイナル)実行ノ準備開始。

 自爆攻撃(コード:ファイナル)ノ実行ニハ艦長マスターノ承認ガ必要デス──」

 「自爆攻撃(コード:ファイナル)の実行を承認」

 ボクは自爆攻撃実行を承認します。

艦長マスターノ承認ヲ確認。自爆攻撃(コード:ファイナル)ノシークエンスヲ続行。

 自爆攻撃(コード:ファイナル)ノ実行ヲコアブロック空間転移後、3セカンド後ニ設定。

 設定完了。自爆攻撃(コード:ファイナル)、イツデモイケマス」

「──なに!? 空間転移だと!?

 ……そうか!

 最初の不意打ちは、そういう絡繰りだったか──」

 おや? どうやら外部スピーカーをオフにし忘れていたようで、ボクたちのやり取りをマルメッシャー教に聞かれてしまっていたようです。

「──だが、絡繰りを知った以上は逃さん!!

 現マルメッシャー教教祖ウキョソ様よりお預かりし、この空中空母のバリアは単に強力な防御力を誇るだけでなく、魔法を阻害する効果もあるのだ!

 貴様等をバリアの内に完全に取り込んでしまえば空間転移による離脱も出来まい!」

 マルメッシャー教がそう吼えると、敵空中空母艦のバリアが包み込む範囲を広げ、空母艦に激突して密着しているボクらのハルマアマル号を、バリアの内側へと完全に取り込んでしまいました。

「ふははは……!

 所詮は駄犬。

 我々に勝てる筈など万に一つも無いのだ!

 貴様等はこのまま我々の極秘拠点に連れ帰り……──クッヒッヒッ……後は言わずもがな、だ」

 下卑た笑いを上げながら勝利宣言をするマルメッシャー教。

 だがしかし、彼──いや、彼等は致命的な勘違いをしています。

 ボクらのふね──ハルマアマル号は空間転移をする際に用いているのは()()ではなく、前文明時代の超高度な科学技術。

 ──即ち、()()()()()()()()()()()()()()()では、ボクたちの()()()()()()()()()ことは出来ません。

 因って、

「──目出度いな貴様等は。

 我らのふねの空間転移機能が魔法由来のモノと信じて疑わぬとは、実に浅慮よ。

 汝等のその自らの浅はかさを悔やみながら、逝け!」

 勝利を確信していい気になっていたマルメッシャー教に、良藍は侮蔑の籠もったことばを贈りつつ手で作戦実行の合図を出します。

 そして──

「──な、なん──」

 ──マルメッシャー教の驚愕の声は途中から途絶え、外部を映し出していたメインモニターが空間転移時特有のホワイトアウトを起こすと、次の瞬間にはボクたちを乗せたハルマアマル号のコアブロック兼脱出用シャトルは地上に戻ってきた時に不時着した地点へと空間跳躍ジャンプを完了します。

 そして、カメラビットから送られてくる『バリアに包まれたマルメッシャー教の空母艦と自爆の時を待つハルマアマル号のコアブロックから切り離された換装ユニット』の映像を注視すること──


        ─3─


       ──2──


      ───1───


 バリアの内側で閃光が瞬き、紅蓮の炎が荒れ狂います。しかも、バリアに因って空間が閉鎖されていることで爆発エネルギーはバリア外部に漏れることなく、バリア内の全てのモノを舐め尽くしていきます。

 やがて、マルメッシャー教の空母艦のバリアが消失すると、バリア内で熱せられた空気が開放と同時にバックドラフトを起こして二次爆発を起こし、その衝撃波がカメラビットとカメラビットが映し出している周辺の森林の木々を激しく揺らしました。カメラビットからの映像はそこで途絶えましたが、別のカメラビットが最終決戦の場になった空域へと到着すると、焔と黒煙を纏った空母艦の残骸が森へと落ちていく光景を映し出します。

「どんなもんよ!

 あたしらの怒りの鉄拳!

 思い知ったか!」

「……はは、マジで、マルメッシャー教の空中艦隊を潰滅させちまったぜ!」

「……奇蹟っすね~。たった一隻且つ心許ない武装だけで、あれだけの戦力差を覆して全艦撃沈させてしまったっすからね~」

 勝利の雄叫びを上げる良藍。次にガメッツさんが俄には信じられないといった感じの声音でマルメッシャー教空中艦隊との戦いの結果を口にし、ランテ君もまたこの度のマルメッシャー教空中艦隊を全滅させた事を“奇蹟”と称します。

 ボクもガメッツさんやランテ君と同じく、終わってみればよくもまああんな無茶苦茶な戦い方で生き残るどころか敵を掃討してしまうとは、自分たちでやっておきながら、現実味に些か欠けを感じます。

 ですが、兎にも角にも人知れず蠢いていた脅威を無事排除できた事は、自ら望んだものでないにしろ僥倖といえるでしょう。

 さて、戦闘中は余裕も無く殆ど気に掛ける事が出来ませんでしたが、被弾した際の揺れで乗り物酔いをしてしまった三人は大丈夫でしょうか?

 先ずはファナですが、彼女はいまだに少し顔が蒼いですが、見る限りでは大丈夫そうです。

 次に高所が苦手なサーハ君はというと、……あー、顔面蒼白で見事なまでにグッタリしてます……。

 そして、最後にアイナちゃん。彼女は先の二人とは異なり、顔に青みはなく一見酔いが治まっているかのように見えます。が、

「おーい、騎士の嬢ちゃん、生きてるか~?」

 シートベルトを外して席を立って、みんなの無事を確認するガメッツさんが声掛けと共に軽くアイナちゃんの肩をポンと叩いた次の瞬間──、

「──オボロロ……!」

「ギャアアァーー!!

 何、コンソールノ上ニリバースシテルンデスカッ!?

 精密機器ナンデスカラ、染ミ込ンデ故障ガ起キル前ニ即刻拭キ取リ掃除シテクダサイ!!」

 ──うわ~、ヒサンですね~……。

 ボクは一部始終を見なかった事に悲鳴を上げて慌てふためくマッキーの声を聞かなかった事にして、気紛れに茜色に染まりきった空を映しているメインモニターに目を向けます。すると、

「!? “アレ”はアミークス連合国の空軍でしょうか?」

 夕焼け空をバックに、アミークス連合国軍の紋章の入った旗を掲げた少なく見積もっても大隊規模の団体さんが、ボクたちとマルメッシャー教の空中艦隊がやりあった場所に向かって飛んで行く様がメインモニターに映し出されています。

「……はあ~、幾ら新設出来立てほやほやで初の実戦とはいえ連合国軍の空軍が、今頃、ご到着とか遅すぎよ。

 あたしたちが、どれだけ骨を折ったかも知らないくせに……」

 ボクと同じく、メインモニターを視ていた良藍は愚痴を零します。

 しかし、人里離れた場所でドンパチをしているのを発見して、態々、大隊まで編隊してやって来たのですから、「そう言うものじゃない」と良藍に言いたいところです。

 が、精神的疲れが今になって一気にどっと押し寄せてきて、ツッコミを入れる気力も空っぽです。

「んあ? 姐さん、良藍さん、なんか最後尾の飛行船と天馬騎士の数騎がオイラたちの方に降りて来やすよ!」

 ランテ君の上げた声に、億劫ながらも顔を上げてメインモニターに再び目を向けると、確かに彼の告げた通りマルメッシャー教の帆船型軍艦の半分ほどのサイズの飛行船が一隻、天馬に跨がったフル装備の騎士を数騎伴って空から降りてきてます。

 しかも、降りてきて近付いてきたから判ったのですが、降りてきている飛行船にはアミークス連合国軍の軍旗の他に此処──フンドゥース王国の軍の軍旗をも掲げられています。

「……あー、これって、ボクたち、外に出て彼らが降りてくるのを待っていた方がいいかもしれませんね。

 変な誤解を受けて、ややこしい事にならないように」

「そうっすね」

「……それでしたら、わたくしも参りますわ……」

「ファナ!? 大丈夫なんですか?」

「はい、気分はまだ幾分優れませんが、問題はありません。

 それに我が国の軍旗を掲げているということは将官があの飛行船には乗っているというこですので、わたくしが同席した方がよろしいかと」

「そう、分かった。それじゃあ、ボクとファナ、あとは……──」

「あたしも外に行くわ」

「では、ボクと良藍とファナが降りてきている飛行船の出迎えに行きますので、ランテ君とガメッツさんはサーハ君たちの介抱を頼めます?」

「了解っす」

「おうよ、任せときな」

 ボクと良藍は席を立ち、いまだ気分が優れず若干フラつくファナを支えながら、ハルマアマル号の外へと向かいます。



 ──あれからの経緯を述べますと、やはりというかファナの言った通り、アミークス連合国軍の軍旗と一緒にフンドゥース王国軍の軍旗が掲げられていた飛行船にはフンドゥース王国の軍人──元帥さんが乗っていて、この国の王女のファナと国と深い関係のある宗教の御子と世間では認識されているボクが出迎えた事に面白いくらいに狼狽していたその様相は、その場での笑いを堪えるのに苦労しました。

 それから、ファナと元帥さんの取り計らいでボクたちへの事情聴取は後日に改めということになり、ボクたちはそそくさと帰路に就くことに相成りました。

 一旦、ハルマアマル号は元居た造船所ドックに立ち寄り、ランテ君たちのフォトン・モービルと牽いていた幌馬車を回収し──ついでに、コアブロックだけになってしまったハルマアマル号を別のユニットとドッキングさせて──、そのままハルマアマル号に乗って我が家へと帰り着きました。

 予定の約半分の日数ほどで帰ってきたボクたちに、メイド三姉妹は気が緩んでいたのか「ただいま」とボクたちが帰ってきた直後は驚きはしましたが、直ぐにボクたちの分の夕食を用意してくれたりと、普段通り甲斐甲斐しく世話をしてくれます。

 そして、────

「────はあ~、生き返る~。本当、今日一日は色々な事がありすぎましたね~……」

 ──ランテ君たちが発見した宇宙船に乗ってちょっとした宇宙旅行したり、宇宙旅行から帰ってきたらマルメッシャー教なんて邪神を崇拝している連中とドンパチしたり、出来事の数としては二つだけですが、どちらも内容が濃すぎでした。

 温泉掛け流しの我が家のお風呂に浸かりつつボクは今日という日をしみじみと振り返ります。

 そして、ふと、ガラス張りの窓の外の夜空に視線を向けると其処には、カドゥール・ハアレツの最大の月──ナルンラグが紅々と月光を放っています。

 ボクは徐に湯船から立ち上がり、肢体を紅き月光に晒しながら、こうして遠くから見ると神秘的な紅い月に無意識に手を伸ばします。

 その行為に意味などありませんが、自然と紅き月に向かって出した手は、その手の平の内に紅き月を収めんと最大限に手を広げます。

「──いや~、今日は冷や汗搔きまくりだったぜ……」

「そうっすね。何度も肝を冷やした所為で凍えそうっすよ」

「でしたら、温泉で温まるのが一番です」

「そうだな!」

「そうっすね!」

 ──ガラガラガラ……。

 おや? もう来たようですね……。

 勝利祝いの宴の続きとして、お風呂での“月見酒”。

 参加者はボクと男性陣のみ。

 良藍は見た目以上に精神的疲労があったようで、宴の直後に欠伸をしながら寝室へ。

 アイナちゃんはいまだに船酔いが抜けないようで、帰ってきてからずっと自室に。

 ファナは、マルメッシャー教とのドンパチの事後処理で、フンドゥース王国の元帥たちに同行しているため、おそらく暫くは別行動。

 ボクは湯浴み着をサッと身に纏い、更に多めに持ち込んでいた酒類の瓶のフタを開けて、彼らが湯船に到着するのを待つとします。




 ──今宵の月見酒はどんな味がするのでしょう─────




 そんな、少し気取ったことを心の内で呟きながら、ボクは一足先に一人、月見酒を始めます──────────





  ★☆★☆★エピローグ☆★☆★☆



 ──さて、宇宙旅行の帰りに邪神を崇拝する連中とドンパチをやらかしてから、早一ヶ月。

 ドンパチに関するボクたちの事情聴取は意外な程にアッサリとしていて、数日ほどアミークス連合国軍の関係者がボクたちの家へと訪れての簡単な聴き取りだけ終わりました。

 ただ、その代わりなのでしょう。連合国軍の特務隊に所属している良藍とサーハ君に、ノジカ・シティにある連合国軍本部への出頭命令が下りました。

 そして、出頭命令に応じてノジカ・シティにまで出向いた良藍とサーハ君は、詳細な事情聴取や現場検証やその他諸々の処理等で約一ヶ月ほど軍務に拘束され、家に帰ってきたのはつい一昨日のことです。

 かなりの激務だったようで、帰ってきたサーハ君はノジカ・シティの連合国軍本部に出向く前よりもほっそりと痩せて見えました。そんな彼を心配して、現在いまはメイド三姉妹の一人──メドちゃんが付きっきりで、サーハ君の疲れを癒すため健気に頑張ってます。

 そして、良藍もまたボクと離れていた所為か、帰ってきてから夜はずっとボクの傍にベッタリ。

 因みに情報として、良藍はアミークス連合国軍特務隊を退役──地球へ帰る算段がついたため──したそうです。

 さてと、それはそれとして、ハルマアマル号を得たことで、躊躇していた遠出の旅も日帰りで行けるようになり、ボクたちの日常は以前より、より充実したものになりました。

 ちなみに『レストラン・フシェ』でのウェイトレス業は現在も続けています。

 ──コンコンコン。

 ん?

 玄関エントランスホールに設けられた応接間兼居間で、食後のお茶を嗜んでいたボクの耳に来客を告げる玄関のノッカーを叩く音が届きます。

 はて? いったい誰でしょうか?

 ランテ君たちや、此処──ルニーンで出来た知り合いであれば、ノッカーを叩いた後、挨拶と共に当たり前のように玄関の扉を開けて家の中へと上がってくるのですが、此度の来客はノッカーを叩いてから、此方の応答があるのを待っているみたいです。

 そうなりますと……、知り合い以外でお客が来るのは王室関係の仕事をしているファナだけですが、彼女から今日仕事関係のお客が来ることは聞いていませんので、……はてさて……、お客様は何方でしょう?

 ──ま、出てみれば分かることですから、出てみるとしましょう。

「はーい、少々お待ちください!」

 ボクは玄関外にいる来客に聞こえるよう大きな声で応答します。

 そして、座っていたソファから立ち上がって、玄関前まで行き、

「お待たせしました。何方様でしょうか?」

 玄関の扉を開けて、来客を出迎えます。

 そして、玄関の扉を開けた先、そこに居たのは、

「──まあ♪ 円サマ、御自らお出迎えしていただけるなんて恐悦至極に存じます。あ!

 し、失礼しました。お久し振りです、円サマ♪

 あたくし、来ちゃいました♪」

 この国──フンドゥース王国の第三王女アイリア・ツスラ・ヌスハ・キュルメーラことアイリ。

 ただ、おかしなことに彼女は中身がパンパンに詰まったボストンバッグのような手荷物一つで只一人。

 普通であれば、最低でも護衛の一人や二人付き添っているものですが、見渡せる範囲にそれらしき人物の人影が見当たりません。

 それに、アイリの恰好も王族然とした豪奢な衣装ではなく、所謂、街で見掛けるような普通の衣服というカジュアルな出で立ちです。

「……えっと、その「──来ちゃいました♪」というのは……?」

「はい、あたくし、父上のお言い付けがどうしても承服できず、家出してきてまいりましたの。」

 ──はい? 家出? って、──


「──ええーっ!?」


 アイリのバイタリティ溢れる行動にボクは度肝を抜かれます。

「円様、そのような大声を上げられてどうなされたのです?」

 どうやら、ボクの上げた驚愕の声を聞きつけたようで、ファナが玄関へとやって来ました。

「あら、まあ!

 お姉様、お久し振りです。遊びに来て下さるのなら、連絡の一つでも入れていただければ、もなてしの準備をしておきましたのに……」

「久し振りね、ファナ。

 あたくし、お父様に反目して家出してきましたの。」

「はい?

 ……あ、あの、お姉様、お父様に反目とは? どういう────」

 アイリの言葉に戸惑うファナ。

 それもそうでしょう。なにしろ、久し振りに顔を合わせた姉が“父親──国王に反目して家出”して来たのです。戸惑ってしまうのも至極当然でしょう。

「あたくし、この度、王室を出る事にしましたの。

 ですが、お父様が「王室を出るのなら、一子だけいいから貴樹君と子作りしてからにしなさい。」って仰有ったのです……」

「──まあ!?

 貴樹君と子作り、ですか?!」

「──そうなの。

 あたくし、貴樹とはこれからも良き友人としてありたいのです。

 それになにより、あたくしの“身も心も、すべては円サマのもの”。

 いくら、お父様の言い付けでも、円サマ以外の御方には柔肌を晒すつもりはありませんの。」

 熱い想いを語る姉の姿勢に、ファナはその真摯さを受け取り、

「…………分かりました。一先ず、詳細なお話しは中に入っていたしましょう」

 アイリを家の中へと誘います。

「ありがとうございますわ、ファナ。」

 顔を上げたアイリの表情は晴れやかに綻びるや、

「円サマ、これからご迷惑をお掛けする事が多々あるかもしれませんが、末長く、あたくしを貴女様のお側に置いて下さいましね♪」

 そうボクに挨拶をして、彼女はボクたちの我が家の中へと足を踏み入れていきます。



 ──こうして、家出してきたフンドゥース王国第三王女のアイリが我が家に居候する事になりました。

 はてさて、この先、どうなることやら?────





        ──To be Continued.


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