三人姉妹の贈り物
ある領主さまには、三人の娘がいました。一番目はセラ、二番目はリラ、三番目はミラといいます。
小さなころからとても仲のよい姉妹でした。
お母さまは早くに亡くなりましたが、領主のお父さまも娘たちも、民が豊かになるようにと懸命に努力してきました。けれど、お金をほとんど使い果たして、お父さまも亡くなってしまったのです。
姉妹たちは、途方に暮れていました。
財産がないので、将来は三人ともお金持ちの商人や貴族の後妻になるしかありません。年の離れた人と形ばかりの結婚をして、周りから冷たくあしらわれることになりかねないのです。
三姉妹はそろって、幸せな未来を夢見ることがかないませんでした。
そんなある日、この国の王さまが「特別珍しい品物を持ってきた者に金塊を授ける」というお触れをだしました。
孫娘にあたるお姫さまが、めでたく十歳のお誕生日を迎えるので、そのときに二つとないような品物をプレゼントしたいとのこと。
誕生日の日までに王さまの満足するような物をお城へ届ければ、金塊を得ることができるかもしれないのです。
姉妹は三人とも、心のなかで思いました。金塊をいただくことができれば、領地も立てなおせるし、二人はいいところにお嫁に行けるに違いないわ、と。
それぞれ思いやりのある娘たちでしたので、自分だけが後妻に行って二人が幸せになれたらそれでいい、と思ったのです。
早速姉妹たちは、贈り物になるような品を求めてたくさんのお店を探し回りました。けれど、よいと思う品物はどれも高価で、全く手が出ません。
上の姉のセラは森へ行って、何かないか探してみることにしました。すると、一羽の小鳥がくるくると円を描きながらこちらへやってきたのです。
「領主の娘さん、何かお探しですか」
セラは珍しい品物を探していることを話しました。
小鳥は言いました。
「珍しい物なら、長く生きていろんな話を聞いているウミガメさんが知っているかもしれませんね。それはそうと、私の巣には魔法の小皿があります。それなら差し上げられますよ」
その小皿は木のような色をしたありきたりなもので、どんぐりやくるみ、赤や紫色をした木の実がたくさん入っています。不思議なことに、いくらこぼしてもすぐに木の実がもこもこと湧いてきて、再びいっぱいになりました。
「まあ、本当に魔法の品物なのね。でも、これは小鳥さんにとってとても大切な物よね。いただくわけにはいかないわ」
「いいえ、どうかもらってやってください。私たちをいつも守ってくださる領主さまに恩返しがしたかったのです」
小鳥にとって役に立っても、王さまにはどうなのか疑いたくなるような物です。十歳になるお姫さまも気に入るとは思えません。
それでも、小鳥の気持ちを考えて、ありがたく受け取ることにしました。
帰ってきたセラに小皿を見せてもらって、二人の妹は表情を曇らせました。この品物では、やはり王さまが満足しないのではないかと思ったのです。
そこで、真ん中の娘のリラが海へ行って、ウミガメを探してみることにしました。すると、一匹のウミガメがのんびりとした足どりでこちらへやってきたのです。
「領主の娘さん、何かお探しですか」
リラは珍しい品物を探していることを話しました。
ウミガメは言いました。
「珍しい物なら、この港町の大通りで骨董品を扱っているお店に行くといいかもしれませんね。それはそうと、私の休む岩場には魔法の壺があります。それなら差し上げられますよ」
その壺は岩のような色をしたありきたりなもので、きれいな青い海水がたくさん入っています。不思議なことに、いくらこぼしてもすぐに海水がたぷたぷと湧いてきて、再びいっぱいになりました。
「まあ、本当に魔法の品物なのね。でも、これはウミガメさんにとってとても大切な物よね。いただくわけにはいかないわ」
「いいえ、どうかもらってやってください。私たちをいつも守ってくださる領主さまに恩返しがしたかったのです」
ウミガメにとって役に立っても、王さまにはどうなのか疑いたくなるような物です。十歳になるお姫さまも気に入るとは思えません。
それでも、ウミガメの気持ちを考えて、ありがたく受け取ることにしました。
帰ってきたリラに壺を見せてもらって、姉と妹は表情を曇らせました。この品物では、やはり王さまが満足しないのではないかと思ったのです。
そこで、末の妹のミラが、カメの話していた骨董品のお店を探してみることにしました。すると、一軒のお店の前に立ったところで、店番のおばあさんが話しかけてきたのです。
「領主の娘さん、何かお探しですか」
ミラは珍しい品物を探していることを話しました。
おばあさんは言いました。
「珍しい物なら、この魔法の鏡が一番ですよ。私たちをいつも守ってくださる領主さまの娘さんがわざわざ来てくださったのですから、ぜひ差し上げましょう」
その鏡は、銀色にピカピカと輝いていました。細やかな花の装飾も施されています。不思議なことに、姿を映すと、茶色の髪が青くなったり赤くなったり、思うだけで変化します。鏡のなかの着ている服も背景も、映しだされたものなら何でも、自由に色を変えることができました。
これなら、お姫さまも楽しんでくれる気がします。美しいドレスや装飾品がさまざまな色合いに変化したら、きっと素敵なことでしょう。
ありがたく受け取ることにしました。
帰ってきたミラに鏡を見せてもらって、二人の姉も晴れやかな表情になりました。
「この鏡なら、王さまのお心にも十分かなうでしょう」
こうして、ミラは銀の鏡を持って馬車に乗り、王さまの住むお城へと向かいました。
姉のセラとリラは、妹が無事鏡をお城へ届けて帰ってくるのを待っていました。
ところが、数日後にミラから手紙が届きました。
『セラ姉さん、リラ姉さん、ごめんなさい。山賊に魔法の鏡を取られてしまいました。私は無事ですが、もう何もありません。どうしたらいいのでしょうか』
そこで、セラは小鳥からもらった小皿を持って、ミラに会いに行きました。山賊は近くの山にひそんでいるといいます。
セラは、カラスに話しかけました。
「山賊から魔法の鏡を取り返してくださったら、この小皿を差し上げましょう」
カラスは魔法の小皿をつんつんとつつくと、喜んで山賊を探しに出かけました。
そうして、たくさんのカラスたちが協力し合って鏡を見つけ、山賊たちの知らないうちに口にくわえて持ってきてくれたのでした。
「カラスさんたち、どうもありがとう」
「どういたしまして。この小皿はとても役に立ちそうですからね」
こうして取りもどしたセラが、そのまま王さまのもとへ銀の鏡を持っていくことになりました。
セラは馬車に乗り、王さまの住むお城へと向かいました。
妹のリラとミラは、姉が無事鏡をお城へ届けて帰ってくるのを待っていました。
ところが、数日後にセラから手紙が届きました。
『リラ、ミラ、ごめんなさい。海賊に魔法の鏡を取られてしまいました。私は無事ですが、もう何もありません。どうしたらいいのでしょうか』
そこで、リラはウミガメからもらった壺を持って、セラに会いに行きました。海賊は近くの海に船を浮かべているといいます。
リラは、イルカに話しかけました。
「海賊から魔法の鏡を取り返してくださったら、この壺を差し上げましょう」
イルカは魔法の壺をつんつんとつつくと、喜んで海賊を探しに出かけました。
そうして、たくさんのイルカたちが協力し合って鏡を見つけ、海賊たちの知らないうちに口にくわえて持ってきてくれたのでした。
「イルカさんたち、どうもありがとう」
「どういたしまして。この壺はとても役に立ちそうですからね」
こうして取りもどしたリラは、姉と妹を呼びよせました。
「みんなで王さまのところへ参りましょう」
「そうね、三人で一緒に行けば、きっとうまくいくわ」
お姫さまの誕生日はもうすぐです。三人は急いで馬車で出発しました。
ミラは鏡をしっかりと布に包んで、大事に持っていくようにしたのです。
山沿いの町で、カラスたちに会いました。セラが尋ねます。
「この辺りで危険なことはないかしら」
「あの小皿は、いつでも木の実を出してくれるので、ひもじい思いをすることなく暮らせます。そのお礼にお話ししましょう。この町にもうすぐ盗賊たちが訪れます。盗賊のやってくる南の方には行かず、北側から宿を探してください」
姉妹たちは盗賊に遭うことなく一つの町を越え、鏡を持って行くことができました。
海沿いの町で、イルカたちに会いました。リラが尋ねます。
「この辺りで危険なことはないかしら」
「あの壺は、いつでも海水を出してくれるので、きれいな水の中で暮らせます。そのお礼にお話ししましょう。この町にもうすぐ大雨が降ります。土地の低い西の方には行かず、東側から宿を探してください」
姉妹たちは雨の被害に遭うことなくもう一つ町を越え、鏡を持っていくことができました。
こうして、お姫さまのお誕生日の当日に、無事王さまの住むお城までやってくることができたのです。
「お姫さまの十歳のお誕生日おめでとうございます」
三人は丁寧にお祝いの言葉を伝えると、王さまにきれいな銀の鏡を差し出しました。
「この魔法の鏡なら、お姫さまが喜んでくださるのではないかと思います」
鏡を手にしたお姫さまのことを思い浮かべて、姉妹たちは語ったのです。
「これはなかなかの品物だな」
年老いた王さまは、白いものが混じったひげを生やしており、優しいまなざしをしています。
三姉妹が持ってきた贈り物には大変満足そうでした。
「実はこれまでに九つの珍しい品物が集まっていて、そなたたちのものが十番目になる。どれも金塊を与えたいほどのすばらしい物ばかりだ」
王さまは、姉妹たちの鏡も褒めてくれました。
「このような物を手に入れて、供の者も連れずに娘だけでここへ来るのも、大変だっただろう。どういったいきさつでここまで来たのか、いろいろ話を聞かせてほしい」
そこで、娘たちはお金がなくて困っていたこと、供の者もいなかったため、自分たちで贈り物を探した上で持って行ったこと、領地の小鳥とウミガメとおばあさん、さらにカラスやイルカにも助けてもらったことを、素直に話しました。
話を聞き終えると、王さまは問いかけます。
「この銀の鏡は孫娘の誕生祝いにふさわしいものだと思う。しかし、一つの金塊を三つにうまく割ることはできない。誰に与えればいいのだろうか」
セラは、はっきりと答えました。
「鏡を見つけたのは、下の妹です。ミラに与えてくださいませんか」
ミラも、はっきりと答えました。
「私が盗まれてしまった鏡を取りもどしてくれたのは、二番目の姉です。リラに与えてくださいませんか」
リラも、はっきりと答えました。
「その前に盗まれた鏡を取りもどしてくれたのは、一番上の姉です。セラに与えてくださいませんか」
王さまは何か考え込んで、もじゃもじゃしたひげをさすります。
やがて、試すように質問しました。
「それなら、誰か二人に与えるとしたらどうだろうか」
セラは、きっぱりと答えました。
「私が金持ちの家にお嫁に行きますので、他の二人に金塊を与えていただけませんか」
リラも、きっぱりと答えました。
「いいえ、私が金持ちの家にお嫁に行きますので、他の二人に金塊を与えていただけませんか」
ミラも、きっぱりと答えました。
「いいえ、私が金持ちの家にお嫁に行きますので、他の二人に金塊を与えていただけませんか」
王さまはにこやかな笑顔を見せました。
「実は金塊は三つある。十個の品物はどれも十分なものだったから、珍しい品を三つ選ぼうと思案していた。だが、考えを改めようと思う」
ゆっくりと、王さまは告げます。
「これまでの九つの品物を持って来た者はみな、孫娘へのお祝いよりも、品物が金塊に値することを言い張ってばかりいた。十歳の姫が贈り物として嬉しく思うかどうかを、これほど気持ちを込めて話した者はいなかっただろう。三人とも深い思いやりの心を持っていることもよく分かった。その心に、私はもう一つの金塊を与えたいのだ」
「えっ?」
驚く姉妹たちに、王さまは続けて話しました。
「品物を手に入れるのも持ってくるのも、家来たちがすべて行なった者ばかりだった。そなたたちのように、自分で探し、助けてくれる者と出会い、知恵と勇気と絆でここまで来た者はいなかった。その力に、私はもう一つの金塊を与えよう。孫娘にもこの三つの贈り物のことをよく話して聞かせるつもりだ。よって、そなたたち三人にそれぞれ金塊を授けようではないか」
その言葉に、姉妹たちは手をとりあって、大きな喜びを分かち合うのでした。
こうして、三つの金塊を手に入れた三姉妹は、その金をもとに領地を立てなおすことができました。それだけではなく、誰もお金持ちの後妻に行かずにすみましたし、領地も民も豊かになりました。
のちには、三人ともそれぞれ素敵な人と結婚して、幸せに暮らしたとのことです。