(9)男子! いざ、コンパへ!
適度に入ってくる小鳩縫製の仕事を難なくこなし、豊は、さと兄幹事のコンパの日を迎えた。
夜7時から始まる「女の子たちとの楽しい語り合いDAY」と題された飲み会は、渋谷のおしゃれな居酒屋で行なわれる。
参加男子はみな、商店街の連中。
さと兄を筆頭に、豊、慎太郎、八百屋の小窪ちゃん、花屋の次男坊でサラリーマンの花ちゃんが集まり、五人仲良く電車に乗って目的の店まで行く予定だ。
さと兄と慎太郎は、すでに仕事を家族に任せ、豊の家に来ていた。
「今日の女の子も結構いいぞ。クラブでナンパした子だけどセクシーでさぁ、
ナイスなボディだったんだ」
さと兄が、鼻の下を伸ばした状態で言った。
「でも、さと兄は、その子しか知り合いじゃねーんだろ? 前みたいのは勘弁だよ?」
慎太郎は心配そうに訊いた。
一度、さと兄がナンパしたという女の子とコンパをしたとき、その女の子以外は、残念な結果だったことがある。
だいたい一番いい女は、見た目カッコイイ・さと兄が持っていってしまう。
「大丈夫だって! 今回は、粒ぞろえ揃えてっから!」
とは、自信満々に言うが、相手の女の子がそう言っているだけで、さと兄は見てはいない。
三人で話していると、玄関から聞こえてきた。
「ゆーたーかーく~ん~」
小学生が友達宅を訪ねたときに言うように、豊の名を呼ぶ花ちゃん。
22歳になっても変わらない。
「おう、入れ!」
茶の間から顔だけを出してまるで自分の家のように言ったのは、さと兄。
「花ちゃんさぁ、玄関でその呼び方やめろよ、いい年して」
毎度のこととはいえ、豊は呆れながら言った。
「なんでさ、いいじゃん? 豊くんの家に来たんだから」
花ちゃんは、五人の中で一番年下の男だが、家が花屋なので昔から「花ちゃん」と呼ばれている。
少し小柄で、かわいらしく、年上の女性にかわいがられている上に、町内の子供たちの人気ナンバーワンでもある。
続いて八百屋の小窪ちゃんが来た。
歳は25歳。
八百屋という元気な客商売としては致命的な、無口で無愛想。
「いらっしゃいませ」の声もほとんど口パクだ。
だが、接客時、本人意識ゼロのまま流し目を送ってしまい、そのクールさが女性のハートを掴み、下はお使いの幼稚園児から上は95歳の地元地主の婆ちゃんまで、隣町からも女性客が、小窪ちゃん目当てに、しがない商店街の一八百屋に買い物に来る。
五人は、時間になり、豊の家を出た。