表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/52

(6)初お邪魔、前田クリーニング店2

「おっす! 豊!」

「なんだ、慎太郎かよ。どうした?」

勝手に作業場に入って来たのは、豊の幼馴染で同級生の慎太郎だ。

高校を卒業と同時に、酒屋を営んでいる実家を継いだ。

暇があれば、年齢の近い商店街の青年団の連中とつるんで集まっている。


「配達中~っていうか、おばちゃんは? 店にいないの珍しいじゃん? 

 あれ? おっちゃんもいない…」

「あー、今、どーしようもねー客が来てて、二人して茶の間に行ってる。で、なに?」

「ふ~ん、そう。あっ、来週の土曜日、コンパだってさっ。

 さと兄が、おととい行ったクラブでナンパした子と意気投合したみたいでさ、

 コンパが決まったって。配達の道すがら、ついでに、それ伝えに来た」


さと兄とは、商店街の青年部に所属する豊より二つ年上の米屋の息子・さとると言い、遊び人だ。

二ヶ月に一度の割合で、商店街の若い独身を募り、コンパを開いているが、だいたいが、さと兄が話を持ってきて幹事をしている。

小さい頃から兄貴分のさとるには、豊も慎太郎も必ず誘われ、『絶対参加』を余儀なくされていた。


豊は作業の手を休めず、愚痴った。

「また飲み会かよ…、この間なんて、さと兄ってば一番いい女と先に帰っちゃうし、

 俺なんて、ヘベレケに酔っ払った女押し付けられて、家まで送ったら終電なくなっちゃうし、

 真逆の方角からタクシーで帰ってきたんだぜ」

「その女のとこ泊まってくればよかったじゃん。まぁ、豊は案外真面目だからそれは、無理か」

「真面目とかそんなんじゃなくてさぁ、タイプじゃなかったんだよ! その女!」


豊と慎太郎が話している間、茶の間では、比奈子、五郎太、恵子が和気藹々とお茶とお菓子を食べながら語り合っていた。

「へえ~、比奈ちゃんは、一人っ子なんだ」

「いいわよねぇ、娘がいるって。おばちゃん、うらやましいわ」

「そうだな、うちなんて男三人だもんな。花もなんにもありゃしないな」

五郎太と恵子は、女の子の比奈子をうらやましがった。

比奈子は、言葉使いや態度は大きいが、顔はかわいらしく、話していると性格のおもしろさも増していく。


「でも、うちのお母さんは、私が男みたいな性格だから、

 なんで、男に生まれなかったのかって、今でも嘆いてる」

比奈子は、出された柏餅をパクつきながら言った。

「あら、比奈ちゃん、顔かわいらしいじゃない? 

 女の子がねじりハチマキっていうのは、初めてみたけど。ほほほ」

「やっだぁ、おばちゃん、かわいいなんて言われたことないよ~。なんか、うれしいしぃ」

きょほほ、と笑い、二つ目の柏餅に手を伸ばした。

五郎太と恵子は、そんな比奈子を嬉しそうな顔で見ていた。

思う心は一つ!

『比奈ちゃんを、長男・一男の嫁にぜひ!』


比奈子たちがのん気に話している時、豊もまたのん気に慎太郎と話続けていた。

「あっ、そうだ。店の前の看板に自転車がチェーンで繋がれてたぞ? お客さんのか? 

 すげーよ、BMWの自転車だぜ!」

「はぁ? 看板に?」

豊は慎太郎と急いで、店の外に出た。


「な、なんだよ、これ!?」

「前田クリーニング」と書かれたスタンドタイプの看板に寄り掛ける様に、看板の足の部分と自転車の車輪部分がごっついチェーンで留められていた。

自転車が勝っているかのように、だいぶ年季の入っている看板は、倒れそうだ。


「ふざけんなよ、比奈子…」


舌打ちをした豊は、呼び止める慎太郎を置いて、店の中に入り、茶の間に直行し、ふすまを開け、比奈子に怒鳴った。


「比奈子! テメー何考えてやがんだよっ!」

三人は一斉に豊を見た。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ