番外・小窪ちゃんの恋はデンジャラス(2)
「オレ…さぁ」
「「「「何何? 小窪ちゃん!」」」」
居酒屋・お春で、さと兄、豊、慎太郎、花ちゃんと飲んでいた。
オレが、口を開くと、四人全員がオレの前に顔を突き出し、オレの次の言葉を待っている。
これもいつものことなんだ…
オレが、「オレさぁ…」と言っただけで、みんなは興味深げな顔でオレを見る。
「どうしたんだ? 小窪ちゃん? 何を話したいんだ?」
そう言った左側に座っているさと兄を、チロッと見た。
「だから、その流し目でオレを見るな…。心が…揺れる…」
さと兄に言われたが、意味がわからない。
「で、何なんだ? 小窪ちゃん?」
秋に結婚を向える予定の豊が、オレの目の前で、目をパチパチさせた。
「うん…、オレ…、気になる人が…」
そこまで言うと、
「「「「ぇぇぇえええ!?」」」」
四人が一斉にオレから離れ、
「「「「えええぇぇぇ!?」」」」
と、また近づいてきた。
「誰!?」
「どこの子!?」
「近所の子か!?」
「僕たちの知ってる人!?」
矢継ぎ早に訊かれた。
「誰…だかわかんない。どこの子…かもわかんない。近所…なのかもわかんない。
みんな…も…たぶん、わからない人だと…思う」
俯いたまま、ポツポツ言うと、肩に力が入っていたみんなが、深い溜息と共にダラリとなった。
「誰だかわかんない子を、好きになったのか?」
「…うん」
豊に訊かれ、うなずいた。
「どこで見たんだよ、その子」
慎太郎に訊かれ、オレは、「和菓子の君」のことを、みんなに話した。
「ん~、じゃ、名前はおろか、話したこともなく、ただ見てるだけなんだ…?」
「それも、『和菓子屋くらもと』に入って出てくるときだけ…?」
「今度はいつ来そうなの? その女性」
「毎日、来てるわけじゃないんだろ?」
オレは、
「うん…」
と、だけ答えた。
「ねぇねぇ、どんな人なの? その人」
花ちゃんに訊かれた。
「…色白」
「「「「へぇ~」」」」
「か、かわいい…」
「「「「ぉお~」」」」
「いつも、スーツ着てる」
「「「「ほぉ~」」」」
「包容力…? が、ありそう」
「「「「ふぅ~ん」」」」
「たぶん…、オレより、ちょっと…年上、だと思う…」
「「「「年上の女か!!」」」」
色白でかわいくて、いつもスーツを身につけている包みこんでくれるような年上の女性…
四人の想像は、膨らむ。
「キャリアウーマンかぁ」
「でも、年上っぽいんだろ? 結婚とかしてんじゃないの?」
豊が言った。
えっ? 結婚?
オレは、考えもつかないでいた。
彼女が既婚者? かもしれない。
オレが肩を落すと、「よけいなことを言うな」と、豊がさと兄に頭を叩かれていた。
「困ったなぁ」と、言いながらも、四人は「どうしたらいいのか」と、相談し始め、オレは、ただ聞いているだけだった。
「とりあえず、今度、くらもとに来たときに、声をかける」
「なんて?」
「……くらもとの団子、うまいですか? オレも好きです! 団子も君も!」
「んなこと、できるわけねーだろ、小窪ちゃんが!」
「だよな、できてたら、今頃こんなとこで悩んでねーって」
結局、良い案も浮かばず、五人で俯き、家路に着いた。
誰か何か悩みがあると、五人が一緒に悩むんだけど、何の対策もないまま解散になる。
いつものことだ。