番外・晴れた日に(1)
豊と比奈子が恋人同士になり、前田家、志乃、友人、みな大喜びだった……、
たった一人を除いて。
「許さん…。男と付き合うなんてまだ早すぎる! それになんだ、あの天パァ~は!」
「あら、かわいいじゃない、天パァ~。
豊くん顔もかわいいし、比奈子との子供もきっとかわいいわよ~? 楽しみだわ」
「かぁああっ! あいつと比奈子の孫なんていらん! 比奈子の結婚相手はボクが見つける!」
「あなたが見つけるの待ってたら、比奈子、おばあちゃんになっちゃうわよ。
って、その前に、あなたがお陀仏さんよね? あははは~南無南無~っと」
志乃が、両手を合わせ、恒和を拝んだ。
「あのさぁ、私、妊娠してないし…」
比奈子は、二人の会話を呆れながら聞いていた。
二人が付き合い始めて、四ヵ月が経ち、五月の風が気持ちのよい日、豊が、五郎太と恵子を連れて、小鳩家に挨拶に来るという。
朝から、というか、この四ヶ月間、恒和は機嫌が悪い。
志乃は、仕事上お世話になっているということで、何度か五郎太と恵子とは会っているが、恒和は初めて会う。
今日も「天パァ~などには会いたくないので、競艇に行く」と、駄々をこねたが、昨日のレースでスッカラカンになってしまっていて、どこの袖を振ってもお金が無い。
比奈子に言っても貰えるはずもなく、大人しく家にいるが、ふてくされ、パジャマのまま部屋をうろついていた。
「あなた、いいかげんに着替えなさい! みっともない!」
「このまま挨拶してやる!」
「いつもお世話になっているんだから、本当はこっちがご挨拶に行かなきゃならないのよ、
それを前田さんが、わざわざいらしてくださるんですから、ちゃんとしなさい!」
ワイシャツとズボンを持った志乃が、恒和を追いかけまわしている姿を見ながら、比奈子はソファの上で笑っていた。
「ねぇねぇ、なんか、しあわせだなぁ~私」
比奈子の言葉に、二人の動きが止まり、比奈子を見た。
「賛成してくれるお母さんがいて、反対してくれるお父さんがいる。
二人共、私のしあわせを考えていてくれるのが、すっごくよくわかる。
私、生まれてきてよかった。産んでくれた人に感謝してる。
あの人がいなければ、小鳩比奈子はいなかったし、私の一番大切な、お父さんとお母さん、
小鳩恒和と小鳩志乃にも出会えなかった。
私はずっと、これからもお父さんとお母さんの子供で、ずっと離れないで暮らしていく」
そう言った比奈子は、笑ってみせた。
「ひ、ひ、ひーなーこぉぉぉおおお」
恒和は、涙を流しながら、比奈子に抱きついた。
志乃も笑顔のまま、目頭を少し押えた。
比奈子は、号泣する恒和に照れながら、笑った。
「さっ、あなた、着替えましょうね?」
志乃は優しく言った。
「……やだ!」
そこは譲れない恒和・四十八歳。
「なんですってっ!?」
怒りが頂点に達した志乃・四十三歳。
その後、ど突きまわされた恒和は、少しヨレッとなったスーツを着て、精神的にもヨレッとなっていた。