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(44)聖なる…夜?1

豊はタクシーに乗り込み、比奈子の家の向かったが、途中で行き先を自分の家に替え、タクシーを降り、玄関のドアを勢いよく開け、茶の間をドタドタ走り、二階上がり、自分の部屋の机の中からラッピングされ、リボンがついた長細い箱を手にした。

「ハァ…」

渡せるはずがないと思いながらも、比奈子のために買っておいたクリスマスプレゼント。


茶の間でケーキを食べていた五郎太と恵子、浩司と浩司の彼女は、豊の様子に何事かと、階段の下で二階を見上げていたが、またバタバタと豊が急いで降りてきた。

「どうしたんだ!? 豊」

五郎太たちの目の前を通りすぎ、玄関へ一目散の豊。

「おやじ、ごめん! 俺、前田クリーニング店を捨てるかもしれない! ごめん!」

振り向きもせず、そう言いながら豊は、慌てて家を出て行った。


「なんなの? あの子…」

「いや、わからん…家出するのか!? あいつ!」

「兄ちゃんが前田クリーニング店継がないんなら、ボク、継いでもいいよ? アイロン好きだし」

「私もクリーニング屋さんの匂い好き!」

浩司と浩司の彼女の言葉に、五郎太と恵子は顔を見合わせ、笑顔になり、豊かのことはさほど心配もせず、四人でまたこたつに入り、ケーキを食べ始めた。



豊は大通りまで出て、タクシーで比奈子の家に向かった。

小鳩家のチャイムをピポピポ押しまくると、インタホーンから志乃の声が聞こえた。

カメラに映っている豊にちょっと待つように言い、志乃が玄関のカギを開けた。

「どうしたの? 豊くん、今日は由美子ちゃ、」

「比奈子! 比奈子いますか!?」

豊に体をブンブン揺さぶられながら、そう訊かれた志乃は軽い眩暈の中、二階を指差した。

豊は、急いで駆け上がり、志乃もふらつきながら、あとに付いた。


リビングのドアを開けると、まだサンタクロースの衣装のままの恒和が、皮と白いスジを丁寧に綺麗に取ったみかんを、口に入れようとしているところだった。

恒和は豊の姿を見て、みかんを持ったまま固まった。


「お父さん! 比奈子さんは誰にも渡しませんから! 俺がもらいます!」

怒鳴るように言ったあと一礼すると、豊の後ろにいた志乃が豊の肩を指先でトントンと叩き言った。

「比奈子は自分の部屋にいるわよ。あっち」

と、にこやかな顔で、廊下の一番奥の部屋を教えた。


豊は、比奈子の部屋に猛ダッシュし、ボーっとしていた恒和は我に返り、ソファから立ち上がった。

「な、な、なんなんだぁぁああ!! あいつぁぁぁああああ!!

 ぼ、僕はあいつのお父さんではない!! なにが、お父さん! だ!」

憤慨丸出しで、自分も比奈子のところに行こうとしたが、志乃に首ねっこをつかまれた。

「あなた、娘のしあわせを邪魔する気なの!? 」

「な、何ィ!? あいつは何しに来た!」

「プロポーズじゃないの?」

「はぁぁあああ! 許さん! 比奈子が危ない! 待ってろ、比奈子!

 今、お父さんが助けに行くからー!」

「あなたはここにいていいから!!」

また比奈子の部屋に行こうとしたが、志乃に連れ戻された。




豊は、比奈子の部屋をノックすると、返事も待たずにドアを開けた。

「う、うわぁ!」

ドア横に置かれている大きいキリンに驚いた。


クリスマスのスティックキャンデーを銜えたまま、振り向いた比奈子は、目をパチパチさせ、椅子から立ち上がった。

「……な…に?」

真剣な表情の豊は、比奈子の方に歩いてくると、そのまま比奈子を抱きしめた。

「見合い相手となんて、好きじゃないヤツとなんて結婚するな!」

力を込めて抱きしめた。

「なになになに、なんの話?」

「小鳩なんて捨てて俺と逃げよう! 俺も前田クリーニング店捨てるから! 

 一緒に逃げて、二人で暮らそう」

「……?」

逃げる、という意味がさっぱりわからない比奈子は、豊の腕の中で少し考えたが、やっぱり意味がわからない。

だけど、一つわかったことは、豊の腕の中は暖かいということだ。


忍び足で二人の様子を覗きに来ていた志乃は、目を細め、うれしそうな顔で、開いていたドアをそっと閉めリビングに戻った。


「豊…? 今日は由美子と一緒なんでしょ? 由美子はどうしたの!?」

「別れてきた」

「はぁ?」

少し、体を離した比奈子は、怪訝な顔で豊を見上げた。


「俺は比奈子が好きだから、由美子ちゃんとは別れた」

「ちょ、ちょっと、由美子の気持ちはどうなんのよ!

 由美子のこと泣かすとか、そういうことするんなら、許さないわよ」

「由美子ちゃんに言われたんだ、比奈子が好きなら結婚相手から奪え、って…」


豊はもう一度、比奈子を引き寄せて言った。

「だから奪いに来た。俺以外、誰とも結婚させない」

「ゆたか…」

と、余韻に浸っていたが、比奈子が体を離し、訊いた。

「ねぇ、私の結婚相手って、誰のこと? 見合い相手って…」

「見合い相手と無理やり結婚させられる、って、政略結婚だって、由美子ちゃんが教えてくれた」

「見合い相手と…? 政略結婚!?」

比奈子は、思い出したくもない十一月の見合い相手の名前まで思い出してしまった。


「……由美子…謀ったわね…」

その頃、由美子は、料理など一口も食べていない出坂町雄に、数万円のレストランのお会計をさせたあと、コンビニの二つで三百八十円のケーキを買い、町雄のワンルームマンションで楽しく過ごしていた。



比奈子は、見合いの話は、見合い当日に断り、結婚の話なんて一つもないことを説明した。

「マ、ジ……?」

「うん、だから豊は、大切な前田クリーニング店を捨てなくていいから!」

「ぇぇ~…、あっ、そうだ、これ」

少し顔を引きつらせつつ、豊は、左ポケットに突っ込んできたプレゼントを出した。


比奈子が、リボンを解き、包み紙を外し、中を見ると、ホワイトゴールの細い鎖に、ハートが5個並んでいるトップのかわいらしいネックレスだった。

選ぶのに数時間掛かった。

「俺が選んだから、比奈子が気に入るかわかんないけど…」

豊は、照れた顔を下に向けた。


「ありがとう…」

比奈子が嬉しそうにネックレスを見ていると、豊がネックレスを手に取り、比奈子の首に付けた。

「へへっ、似合う?」

「うん。……あっ」

二人で照れていると、豊は、右ポケットのプレゼントも思い出し、取り出した。


「これ…も」

「もう一個あるの?」

比奈子に訊かれ、豊は由美子との話をした。

「……だから、これは、比奈子が一番ほしいものだって…由美子ちゃんが言ってたけど、

 これ、どうするの?」


比奈子は、それを受け取り、中身を見た。

「う、うわぁ~、これ! ほしかったぁ!! あ~ん、由美子ちゃん、ありがとう!」

比奈子は、豊ではなく由美子の家の方角に体を向けてお礼を言った。

「それ、そんなにどうするの?」

中身は、「某ハンバーガー店のギフト券二万円分」だ。

かえで学園の子供たちが、ハンバーガーが大好きなのだが、人数が人数なだけに、たまにしか買ってあげられないため、ギフト券はどんなプレゼントよりうれしい。


豊は複雑だ、ギフト券の三倍の値段のネックレスより、ギフト券を喜んでいる比奈子を見て、多少ではなく、多多のショックを受けた。




「比奈子…?」

豊は、真面目な顔で比奈子の目をまっすぐ見た。

「好きです! 俺と、付き合ってください…、け、け、結婚、前提…で!」

「うん!」

おもいきり首を縦に振り答えた比奈子を、抱きしめた。


ニンマリとした顔が戻らない豊だったが、思い出したかのように、顔を青くした。

「あっ……すごく、ヤバイ!

 俺、比奈子のお父さんにもう一度ちゃんと比奈子とのことお願いしに行かなきゃ」

「会ったの?」

「リビングにいて、比奈子を貰いに来ました発言して、俺、そのままこの部屋にきたから」

「そう…?」

比奈子は首をかしげた、恒和の性格なら絶対、豊を捕まえにこの部屋まで追いかけてくるはずなのに、どうして来ないのか…、不思議だ。

とにかく、「リビングに行こう」と、二人は恒和と志乃がいるリビングに向かった。




* 遠回りしても、好きな人にはちゃんと「好き」だと伝えよう…うまくいく…場合も…ある *


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