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(39)イブに集う1

24日、比奈子は「かえで学園」で、豊は「居酒屋・お春」で、それぞれクリスマスパーティをしていた。

かえで学園は小さい子供が多いため、5時からクリスマス会が始まった。

案の定、人気は志乃扮するサンタクロースに集中し、トナカイの恒和は、男の子たちにいじくられていたが、それなりに楽しんでいた。

子供たちが寝静まり、大人が後片付けを全て終えると10時近くになり、小鳩家三人が自宅に着くころには、11時を回っていた。


「明日の夜は、親子三人のクリスマスパーティーだ! 楽しみだなぁ」

恒和は、サンタクロースの衣装が入った袋を、横目で見て言った。

衣装を着て、志乃と比奈子に毎年プレゼントを渡す。

去年は、志乃にブランドバックを、比奈子には、大きなキリンのぬいぐるみだった。

そのキリンは部屋に飾ってあり、遊びに来る友達は100%の確率で驚く。

恒和はお給料を貯めるのではなく、賭け事で儲けたときの分はみんな貯金し、クリスマスとお誕生日には、そのお金で二人にプレゼントしていた。

よって、プレゼント格差は年毎に変わる。

一番ひどい年のクリスマスプレゼントは、志乃には洗物をするときのゴム手袋、比奈子にはクマのマスコットが付いたヘアピンだった。

比奈子が小学三年生の時である。

この年「僕は厄年だったからしかたがない…」と言い訳したが、当時、恒和は33歳であったが、33歳は女の厄年である。

何につけても適当に生きている男・恒和である。

だが、今年は、すごい。

秋に当てた万馬券、人生最高の額だった。

志乃には、カシミヤのコートとイタリア製のスカートスーツ。

比奈子には、ブランド物の高級腕時計。

もちろん二人には、25日までプレゼントの中身は内緒だ。

恒和は25日を待ち望んでいる。




          ☆☆☆☆☆




クリスマス・イブだと言うのに、全然クリスマスらしくない居酒屋「お春」の座敷では、比奈子を除いた9人が集まっていた。

「比奈子ちゃん、別のパーティ行ってんの? 抜け出して来ればいいのに」

さと兄が言った。

「比奈子はね、毎年の恒例のパーティでご両親と一緒だし、大勢が集まる大切なパーティだから抜け出すわけには行かないの。終わったら、こっちに来るようには言ってあるけど」

絹子が落ち着いた声でさと兄に言うと、さと兄は、「はい、わかりました」と小さく答えた。

女子4人と豊以外は、「かえで学園」のことを知らない。



時間が経つにつれ、酒の量も増えていく。

「豊と由美子ちゃんて、一ヶ月に何回くらいしてんのぉ? エッチ!」

さと兄の質問に、豊は、飲んでいた焼酎を噴出しかけた。

「さとる、あんた何訊いてんのよ! ばか!」

絹子に頭をひっぱたかれた。

「さと兄、下ネタやめろって、いつも言ってるだろ? 女の子もいるのに」

花ちゃんにも言われ、大人しくなった。

豊も由美子も笑っていたが、この二人に男と女の関係などあるはずがない。


「豊って、比奈子ちゃん以外の女の子と話す時って、静かに話すよな?」

慎太郎の言葉に男子みんながうなづいた。

「そうだよね、比奈子ちゃんとはケンカみたいな、っていうか、

 オレたちとつるんでるときと同じ感じだけどさ、由美子ちゃんたちといる時って、

 ボソボソって感じか?」

豊自身、自分では全く気が付いていなかった。

「由美子ちゃんたちといる時が普通なんだよ! 

 比奈子は、あいつは、女じゃなくて男に近いだろ!? おまえらと一緒みたいなもんだし」

ぶっきらぼうに言ったが、内心はあせっていた。


「由美子ちゃんの前では覆面か! クールに決めちゃってさ、あははは」

「じゃ、比奈子ちゃんの前では、素 なんだ? そのままの豊か」

慎太郎とさと兄に言われた。


「素が一番いいよ…」

小窪ちゃんがやっとつぶやくように喋った。


「でも異性の前では、気取っちゃうっていうのがあるからさぁ、

 由美子ちゃんもこいつの本性見抜いておいた方がいいぜ。

 変なやろうだから、早めに他の男に乗り換えた方が良いかもよ~」

さと兄が、由美子に向かって言うと、「おまえがいうな!」と言う感じで、みんながさと兄を見た。

由美子はニッコリ微笑んで言った。

「女の子も同じかも、でも仮面を被るのは女の子の方が上手かもよ?」

「そうね、時に仮面は大切だけど、ありのままの自分を出せる異性って、

 赤い糸で結ばれてるのかもしれない!」

晶子がチラリと豊を見た。


「赤い糸かぁ~、私の糸は誰と繋がってるのかしらぁ」

絹子が誰を見るわけでもなく、どこを見るわけでもなく溜息交じりに言った。

「ぁあ!? ちょっと、待って、絹子ちゃん! オレだろ? オレとの赤い糸」

さと兄が真剣に言ったが、絹子は、シラけた顔をした。

「さとると私は、おうど色の糸よ!」

「おうど…? 黄色い土と書いて黄土色と読む、あのおうど色か!? き、汚い色じゃないか!」

おうど色に対して失礼な、そんなどうでもいい説明をし、ギャーギャー騒ぐさと兄の話など聞かず、豊は一口チューハイを口にし、考えていた。



俺…、比奈子と言い争ってあいつが憎まれ口たたいても、全然憎くなくて、

「天パー」って、仕事場に来てくれるのが楽しみで…待ち遠しくて…

今日は、かえで学園だ、ってわかってるけど、それでも……いつもみんなが集まってるのに、

あいつだけいないと、誰と一緒にいるのか、すごい気になるし…

なのに俺は、由美子ちゃんと付き合ってる…

何フラフラしてんだよ、俺!!


「うわぁぁあああ! くそっ!! ちょっと、酔い覚ましてくる!」

いきなり大きい声をあげ、立ち上がり、みんなが見守る中、店を出た。


「どうしたんだ? あいつ…」

男四人が心配そうに顔を見合すが、女四人は、目配せをし、お互い軽くうなづきあった。



絹子の携帯が鳴り、出ると比奈子だった。

家に戻って来たが、まだみんな居るようなら、「これから行く」と言うと、「比奈子ちゃんが来るまで待っています!」と、絹子から携帯を取り上げたさと兄が言い、電話を切った。


「おい、早く豊に知らせ……なくても…いいよな…うんうん、関係ねーよな」

慎太郎が、店を出て行った豊に知らせようとしたが、由美子がいることに気が付き、慌てた。

「そーだよ、なんで豊くんに知らせんだよ~、あははは~あは……ハァ…」

「よ、酔っ払っちゃってんじゃねーぞ、慎太郎~、バカだなぁ~」

花ちゃんとさと兄がカラ笑いをしたが、脇の下は汗をかいている。


「豊へのクリスマス・プレゼントだよな、サンタさんからの……」

ボソボソっと言う小窪ちゃんの口を、慎太郎の手が塞いだ。

だが、聞こえていた女四人は思った。

『小窪くん、ロマンチストなのね…ステキ!』






* 無口な男がたまに喋る…、これほどかっこいいことはない *


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