表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/52

(35)女四人の思い

日曜の昼、「かえで学園に行くから」と、来なかった比奈子を除いた女四人は、渋谷のカフェで

ランチをしていた。


「由美子、豊くんの家族に紹介されたんだって?」

晶子が訊いた。

「そうよ。その日さぁ、比奈子のお見合いの日で、豊くんのお母さんに着物着付けてもらってた

 比奈子と偶然あったんだけど、お見合いのこと豊くん全然知らなかったみたいで、びっくしりて

 た」

由美子は、サラダのレタスにパクついた。


「それで? 由美子は、真剣に付き合ってんだ、豊くんと」

澄江に訊かれた。

「んなわけないじゃん。私に興味ない人とどうして付き合うのよ」

眉間にしわを寄せ、唇を尖らせ由美子は三人を見た。


「ぇえ!? じゃぁ、遊びなの!?」

「どういうこと?」

「豊くんが由美子に興味がないって?」

矢継ぎ早に三人に言われた由美子は、ほくそえんだ顔で問い返した。

「ねぇ、みんなは、何も思わないの?」


「「「何を?」」」

「比奈子と豊くん見てて!」

四人は顔を突合せた。


「思う…すんごく思う!」

絹子が手を上げて言った。


「私もわかってる! でも由美子が豊と付き合い始めたから、それでいいのかと思ってた」

晶子が、言った。


「私も気がついてる。比奈子、いっつも普通に、由美子と豊くんに接してるけど、

 時々せつない顔すんだもん…こっちまで悲しくなっちゃうくらい」

澄江はそう言うと、食事の手を休めた。


「本当はね、私も―――――――」

由美子が、姿勢を正し三人に話しだした。


コンパで初めて会ったとき、由美子が豊を気に入ったのは事実だ。

比奈子に確認をとると、「自分は豊のことなんて好きじゃない」と言った言葉を信じ、

比奈子にキューピット役を頼んだ。

とりあえず、豊と付き合うようになった由美子は、デートを重ねていくうちに、豊の心が自分にないことに気がついた。

男経験豊富な由美子の直感だ。


『なぜ、豊くんは自分と付き合っているのか』疑問だった。

目的は私の胸? とも思ったが、体の要求もない。

毎回会うたびに、比奈子の話をすると豊は、楽しそうに笑うが、由美子の身に起こったことを話すと普通に受け答えをしてくれる。けど、本当に普通に世間話を聞いている感じだった。

豊自身も話すことといえば、比奈子が前田クリーニング店に来たときの話をする。

由美子も比奈子の話をすること自体、億劫でも面倒臭いとも思わない、楽しく話せるが、比奈子を語る豊のうれしそうな姿を見ていると可笑しくなった。

由美子は気がついた。


『豊くん、比奈子のことが好きなんだ』

『豊くん、比奈子への自分の気持ちに気がつかないまま、私が「付き合ってほしい」と言ったことで、「とりあえず」的に付き合ってしまったのね…豊くんのお馬鹿…』


由美子は、会うたびに比奈子の話しばかりをし、豊の反応が面白く、遊んでいたのもあるが、

「早く気づけよ! 鈍感豊!」と、苛立ってしまうこともあった。

最近、比奈子の見合い話で落ち込み、自分の気持ちに気づき始めている豊だが、

勇気がないのか、突っ走れない。


由美子は、比奈子の気持ちも確認しようと、遠まわしに豊の話をふったり、メールでデートの結果報告をしたりして様子を見ていた。

メールの返事も、会話の中の言葉も、由美子と豊の恋を応援している内容だった。

比奈子も豊を気になっていると確信したのは、豊をかえで学園に連れて行き、比奈子の出生のことを話したと聞いた時だ。

かえで学園のことを知っているのは、友人でも由美子たち4人とわずかな人だけ。

そんな簡単な話でもないし、何年も付き合いのある人間でもない豊に話すということは、余程、豊のことを信用しているんだと、思った。




「豊くんは、たぶん、私にも悪いと思ってると思うんだ。

 比奈子のことが好きと気がついたから私と別れたい、なんて言える性格じゃないし」

由美子は、困った顔をした。

「じゃ、由美子が豊くんを、振ってあげるとか? 一番簡単じゃない?」

澄江が言ったが、由美子が首を振った。


興味もない自分と付き合っている豊をいっそのことフッてしまおうかと由美子も最初考えたが、

振られたからといって、すぐに比奈子に告白するような豊でもない。

へたをすれば、一生言い出さない可能性も無きにしもあらず。

比奈子も「由美子のことが好きなのに振られた豊」と考えてしまい、豊の本当の気持ちなんて知る事もないだろう。


「だからね、比奈子のことを考えると、私が振られなきゃ、意味がないのよ!」

わかってくれるかしら、みなさん…と、腕の上に胸を乗せるような感じで腕を組み、由美子は、三人の顔を見ていったが、三人の視線は、うらやましげに、胸にいく。 


「それで、いつくらいに振られそうなの? 由美子は」

「あと、もうちょっとなんだけどね」

絹子に訊かれ、由美子が問い返したが、澄江が眉をゆがめて訊いた。

「でもさぁ、もしも、豊くんが由美子を振らなくて、ズルズルこのまま付き合っていくようなことに

 なったら?」

他の二人も心配そうな顔で由美子を見た。


「んん? まぁそれはないと思うの。豊くんが比奈子への募る想いを我慢しきれなくなって、

 私を振るのは、クリスマスあたりかな? 作戦は一応考えてあるし。

 だいたいさぁ、この由美子さまのバストを見ててもホテルにも誘わないんだよ? 豊くん! 

 今までの男では考えられない人種よ、ちょっとおかしんじゃないの?」

ぐふふ…と笑った。


「豊くん、それだけ比奈子が好きってことかな?」

「比奈子もさぁ、恋には奥手だからねぇ。まぁ、そこがかわいいんだけどね」

「じゃぁ、比奈子の恋の行方は、由美子にまかして、私たちは見守りましょう~」


「任せてちょーだい!」

四人でアイスティーのグラスを持ち上げ、乾杯した。






* 女同士、本当の友情は、仲間がしあわせなら、自分もしあわせになる *




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ