(29)比奈子、お見合いへ行く1
「うげっ! 僕よりカッコイイじゃないか!」
恒和は、ムッとし、見ていた写真をテーブルの上にバンッと、置いた。
「あら、あなたよりカッコよくていいじゃない」
志乃は、コーヒーカップを置き、換わりに写真を手にし、隣に座っている比奈子と見直した。
「まだ、比奈子に見合いなんて早いんじゃないのか?
それに、こんな男に「お父さん」と呼ばれたくはない!! 僕は反対だ!
だいたい比奈子の結婚相手は、お父さんみたいな――――」
万が一「お父さんみたいな男」が、この家にもう一人増えたら、この『小鳩縫製』はどうなるのか、
比奈子と志乃は考えただけで、気を失いそうになるというか、そうなったら笑うしかないと思った。
誰も聞いていないのに一人、「比奈子の未来の婿」について語る恒和を丸々無視し、比奈子は志乃に訊いた。
「何着ていけばいいの?」
「ん? 見合いって言えば、着物じゃないの? 成人式のあるじゃない、あれにしなさい」
志乃は、のん気に言った。
近くに住む、志乃と仲が良い、吉田のおばちゃんが、比奈子に見合い話を持ってきた。
比奈子が20歳を超えると、いろいろと見合い写真を持ってきては、志乃を困らせている。
志乃も比奈子にはまだ結婚は早いと思っているし、比奈子には、自分で好きな人を見つけ恋愛してもらいたいと考えている。
比奈子は比奈子で、両親が気に入った人なら誰でもいいと思っているため、「吉田のおばちゃんがうるさいから、比奈子お見合いしてみる? いやだったらいやでお断りするし」志乃に言われ、比奈子は一度お見合いをすることを決めた。
相手の男性は、菊池則政、28歳。
有名私立大学を卒業し、有名広告代理店で働いている見た目もカッコイイ、頭も良い男だ。
実家は、父親と長男が建築のデザイン会社を経営しているが、次男の則政は跡を継ぐ必要もなく、自由に生きている。
小鳩家の条件、婿養子でも構わないと言う。
「比奈子、断りなさい。こんな男けしからん! 特に顔が…」
比奈子と志乃は、まだブツクサ言っている恒和をチラリと見たが、また無視した。
「でね、もしお見合いするなら、お会いする日なんだけど、
今月はこの菊池さん仕事で忙しいんだって、だから来月半ばの日曜日になるらしいわ」
「ふ~ん、いいよ、私はいつでも」
「おっ! そうだ! お父さんが付添い人で付いて行けばいいんじゃないか!
なんで気が付かなかったんだ」
「あなた、何考えてるの!
お見合いは二人だけで会うことになってるの、あなたが付いて行ってどうするのよ。
どうせ、ろくでもないことしでかすのわかってるんですからね!」
志乃に言われ、恒和は、むくれたまま静かになった。
話し終え、自分の部屋に戻った比奈子は、見合い写真をそのまま机の上に放り投げた。