(20)男五人・居酒屋で…
平日の夜、仕事を終えた五人が地元の居酒屋に集まった。
一応上下関係はあるこの五人。
一番年下の花ちゃんが、みんなにビールを注ぎながら訊いた。
「さと兄、絹子ちゃんと付き合ってんでしょ?」
「ぁあ? 付き合ってるわけじゃないけど?」
さと兄が、こぼれそうになったビールの泡をぺロッと舐めた。
「だって、あれから会ってるんだろ? 何回か」
慎太郎はうらやましそうな顔をした。
「会ってるよ、でもあと二、三回かもな」
「どうして?」
「絹子ちゃん、ナイスバディなんだけど、××××あんまり上手くないんだよなぁ」
「また下ネタかよ、さと兄…。それしかねーのかよ」
呆れた顔で豊が言った。
この男は、こういうヤツだ。
中学生のころから26歳になる今まで、泣かした女は両手両足の指を足しても全く足りない。
「あっ、そういえば、豊は、この間、由美子ちゃんと二人で会ったんだろ?」
さと兄に訊かれた。
「ん、まぁね。映画観て、飯食っただけだけど」
「おまえ、由美子ちゃんにするの!? 比奈子ちゃん、どーするんだよ」
「なんで、比奈子が出てくんだよ! あいつは関係ねーだろ」
そう訊いてきた慎太郎に、豊は箸袋の紙をくちゃくちゃと丸めて投げたが、慎太郎はキャッチし言った。
「んじゃ、オレ、比奈ちゃんもらっちゃおう!」
「え?」
慎太郎が投げ返した箸袋は、豊のおでこに当たり、膝の上に落ちた。
「そうだよな、慎太郎、比奈子ちゃんのこと、かわいいって言ってたもんな」
さと兄が、チラリと隣の豊を見た。
「オレ、今度、デートに誘う! どこに行こう~」
慎太郎がご陽気に言った。
「あ、ラブホの割引券やろうか? この間、絹子ちゃんと行ったとこだけど、結構よかったぜ」
さと兄はそう言うと、長財布を後ろポケットから出し、割引券を取り出そうとしたが、豊は、丸まった箸袋を伸ばしながら、静かに言った。
「比奈子、男いるらしい…から、慎太郎、無理だ」
みんなが豊を見た。
「比奈子ちゃんってフリーじゃないのか?
絹子ちゃん、比奈子ちゃんに男がいるなんて言ってなかったぞ?
五人とも特定の彼氏はいないって、聞いたぞ?」
「本人が言ってたから、いるんじゃねーの? なんか年下の若い男だってさ」
豊は目を少し泳がせ、ビールを一口飲んだ。
「年下って…比奈子ちゃん22だろ?」
「相手は、19、とか20?」
「それか、高校生の彼氏とか!?」
「愛に…年齢は、関係ない…」
やっと小窪ちゃんが喋った。
「なんだよ、オレ、告くる前に振られてんじゃん…、ちぇ~、ダチョウでも食お!」
慎太郎が、残念そうな声で言い、ダチョウ肉の竜田揚げに手を伸ばした。
ダチョウ…の、ヒナ…。
豊は、慎太郎がおいしそうに食べるダチョウの竜田揚げに目をやった。
「っていうか、なんか豊くんも、元気なくない? 比奈子ちゃんは関係ないと言いながら」
花ちゃんが、俯いている豊を覗き込みながら言うと、豊は、花ちゃんの顔を手で覆い、後ろに倒した。
「ばーか、なに言ってんだよ。俺は由美子ちゃんと付き合うの! あ、俺これ、もーらいっと!」
皿の上に一つ残っていたから揚げを摘んだが、一瞬動きが止まった。
比奈子とから揚げを奪い合ったコンパのときを思い出したが、頭をフリフリ、我に返り、から揚げを口に入れた。
そんな豊の様子に、四人はお互い目を見合わせた。
「まっ、じゃぁ、豊と由美子ちゃんの前途を祝って乾杯でもするか」
さと兄が、豊にビールの入ったコップを手渡し、五人はグラスを鳴らし、一気に飲み干した。
豊は酔っ払ったまま、自分の部屋のベッドに寝転がり、横向きのまま何を見つめるわけでもなく、少し一点を見つめ、目を閉じた。
ダチョウの竜田揚げや、から揚げを見ただけで比奈子を思い出す。
由美子の胸を見ても、比奈子のことを考えていた。
自分でもわからない比奈子への気持ち。
「俺はあの胸のデカイ、女らしい由美子ちゃんと付き合うんだから。
比奈子には男がいるし…っていうか、関係ねーんだよ!
から揚げもダチョウも! 比奈子も!」