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(19)デートなのに、比奈子の話?

比奈子から電話をもらった翌日、豊のところに由美子から連絡があり、

「お友達から始めましょう」的な感じになり、豊は比奈子に言われた通り、日曜日の映画に由美子を誘った。


女子と並んで映画を観るのは、大学生の時以来の豊は、少々緊張していた。

弟・浩司からもらったチケットは「ココ・シャネル」の物語。

高校生には渋すぎる…、浩司は何の興味があってこの映画を観ようとおもったのだろうか…

などと豊は、考えていたが、映画の中盤から居眠りをしてしまった。

豊のお好みではなかった。



「なんか比奈子が好きそうな映画だったね?」

映画を観終え、外に出てきた由美子が豊に言った。

「ん、そうだな、あいつ、縫製の仕事って言っても一応ファッション関係だしな」

もし、比奈子と来ていたら、映画館で眠りこけていた自分は、張り倒されていただろうなぁ、

などと豊は思った。


食事をする場所を探しながら、由美子と歩いていると、すれ違う男80%が、由美子の胸をチラ見していく。

今日の服装も胸を強調したものだ。

やっぱ、由美子ちゃんの胸、目立つよなぁ…、すげぇよなぁ。

由美子ちゃんの胸がポンポコ山だとしたら、比奈子なんてきっと、ポンポコ山の滑り台か、砂地…みたいな感じか?

ポンポコ山とは豊が通っていた小学校の敷地内に作られていた人工の山だ。


「豊くん!?」

由美子の胸を見てニヤついていた豊は、由美子の少し冷たい声に、我に返った。

「あっ、ご、ごめん…。あっ、この店にしよう!」

と、慌てて、目の前にあったイタリアンの店を適当に指さした。




「だけどさぁ、仕事の様子見に来たとか言って、

 初めて来た家で、柏餅二個食って帰って行ったんだぜ、あいつ」

軽くワインを飲みながら、豊は比奈子との出会いなどのことを、由美子に話した。

「なんか、比奈子のこと話してる豊くん、楽しそうだね?」

由美子が首を少し横に倒し、かわいらしく笑いながら言った。

「え? あ、べ、べつに…俺は」

豊は慌ててカラマーリのフライを口に押し込んだ。


「うふふ、豊くん、おもしろ~い。でも、私も比奈子のこと大好きだから許せる」

「え?」

豊は顔を上げ、ニッコリと笑っている由美子を見た。


「比奈子は、サバサバしすぎているくらいサバ子ちゃんなんだけど、すごく良い子なの。

 高校生の時、学内でも人気者で、女子校だったんだけど、モテてたよ~。

 バレンタインデーもすごかった。だけど、本人はなぜ自分がモテるのかわかってないみたいでさ

 チョコ沢山もらえてラッキーくらいにしか思ってなかったんだ。

 そんなところも、かわいいでしょ? 比奈子」

由美子は豊に教えてあげるかのように、比奈子との思い出話を続けた。


高校一年のとき、同じクラスになり、それからずっと友達だという。

比奈子は、勉強はそんなにできるほうではなかったが、性格が面白いというか、変わっているというか、何に対しても物怖じせず、口は悪いが誰とでも仲良くなれる素質を持っていた。先生に対してもタメ口で、校長にも気に入られていて、校長室に入り浸ってソファでくつろいでいた。

意地の悪い教頭にはダメだしをよくしていたが、卒業式の日、教頭は比奈子の卒業に涙していたという。その涙が、もう虐められなくて嬉しいという涙なのか、比奈子との別れが淋しいと言う悲しみの涙なのか、誰もわからない…


由美子の話す比奈子の学生時代の様子に、豊はあんぐりと口を開け聞いていたが、途中で、今と何も変わっていない比奈子を思い出し、笑いながら聞きいった。

お互いのことなど話さず、「比奈子話」で初デートは幕を閉じた。


「まだ早いから送ってくれなくても大丈夫」という由美子と、駅で別れ、別々の路線の改札を入り、豊は、電車の中でも比奈子の高校時代を想像し、可笑しさのあまり一人ニヤついてしまい、隣に立っていた女性には変な目で見られたが、地元の駅まで堪えた。


由美子は由美子で、電車の中で首をかしげた。

「あれ? 今日は豊くんとの初デートなのに、比奈子の話ばっかしてたなぁ。どうしてぇ?」

と、そのことは置いておき、とりあえず、比奈子に報告のメールを打った。


『無事、初デート終了~! 豊くん、良い人だった。また会う約束したよ!』


リビングのソファに寝転びながら、父・恒和の「本日の競艇の話」を聞かされていた比奈子は、由美子からのメールを受け取り、携帯を開いた。

「今日は1-4狙いで行ったんだけどさぁ……、お父さんの話を聞いてくれよぉ~。」

比奈子が携帯に目をやると、恒和が拗ね始めた。

「はいはい、ちょっと待ってよ…」

由美子からのメールの内容を読んで、返信した。


『初デートお疲れ~! 天パーの心はすでに由美子のモノか!? 次のデートもファイト!』

送信……。


軽い溜息と同時にパタンと携帯を閉じ、顔を上げ少し目を細め、恒和を冷めた目線で見て言った。

「それで、1-4狙いで行って、全部摩っちゃったわけでしょ!? いつものことじゃん」

「……そ、そーんなんだけどさ、でもね、今日はね―――――」

恒和は、比奈子に媚びるような目で続きを話しだし、比奈子は、呆れながらも、いつものように最後まで話を聞いてあげた。





豊が家に着くと、茶の間で浩司がテレビを見ていた。

「あ、兄ちゃんお帰り~」

「ただいま…」

「映画、どうだった!? 比奈ちゃん喜んでた? ココ・シャネルゥ~」

浩司に訊かれた。

「え? 比奈子?」

「うん、比奈ちゃんと行ったんでしょ?」

「ちがうよ? なんで比奈子なんだよ」

そう言いながら豊は自分の部屋へと向かった。


「ぁあ? なんだよぉ…、僕のこづかい返せよ…」

浩司は、豊と比奈子がデートできるように、自分の少ないお小遣いで映画のチケットを買い、

「自分は行かなくなった」と嘘をつき、豊に譲ったが、兄思いの弟の作戦は失敗した。






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