(15)部屋がない!?1
「ェェエエ!? そんなぁ…。本当にないんですか?」
「申し訳ございません。本日は団体のお客さまが入っておりまして、
かろうじてダブルのお部屋が一部屋空いているだけでございますがっ!」
フロントに「お客さん、部屋一つ空いていて、ラッキーでしたね」くらいの勢いで言われた。
「やーよ、私。なんで豊と同じ部屋で一晩も過ごさなきゃなんないのよ!」
酔いが少し薄れてきた比奈子は、豊を見ながら訴えた。
「俺だってイヤに決まってんだろ? おまえみたいなのと同じ部屋なんて、寒気がする!
あーやだやだ、さむさむ~」
「ちょっと、寒気って何? 私のどこが寒いのよ」
夜中なのでロビーに人気は全くないが、フロント前でケンカを始めた二人を、フロント係が、首を捻りながら見ている。
「おまえがカラオケやで寝ちまうから、こんなんなったんじゃないかよ!」
「はぁ? 電車で一緒に寝ちゃって、ここまで私を連れて来たの誰よ!
天パーのくせして眠りこけてんじゃないわよ! 役立たず!」
「テッメェー、天然パーマは、今は関係ねーだろうが!」
「……あのぉ」
「「なに!?」」
もめている二人に、フロント係が、少し不思議な顔つきで尋ねた。
「あの…、このようなことをお聞きして良いのかどうか…、
えー、お二人は、ご夫婦とか恋人同士とか…あのぉ、そういうご関係では、」
「「ないです!!」」
声を揃えてきっぱりと否定した。
「なんで私がこの天パーと」
「なんで俺がこのすっとこどっこいと」
言葉は違うがハモった。
息は、ぴったりだ。
フロント係は、納得できない顔で、また言った。
「しかしですね、お二人は…手を、」
「「手!?」」
「はい、手をずっと繋いでいらっしゃいましてですね…」
豊と比奈子は、一度顔を見合わせ、顔を下にし、自分たちの手に視線を向けた。
確かに繋いでいる。
一緒の部屋を嫌がりもめていて、夫婦でもなく、恋人でもないのに、なぜ、手を繋いだままなのか、フロント係には不思議でしょうがなかった。
立ち入ったこととは思ったが、聞かずにはいられなかった。
「「……」」
二人は、パッとすぐに手を放し、睨み合ったまま数秒が過ぎた。
「で、いかがなさいましょうか? お部屋…」
この辺には、他にホテルはないと言われ、結局このホテルに泊まるしかなく、あきらめて泊まることにした。