表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/52

(14)眠さに勝てず…

「……さん、お客さん…?」

豊の肩を誰かが、叩いていた。

「お客さん? 終点ですよ、降りてください?」

薄目を開けると、目の前に帽子を被り、制服を着た人がいる。

「へっ……?」

頭がよく回らない。

瞬きを数回繰り返してから、その人を見た。


「お客さん、終点なんですけど」

「終点? 終点!?」

「はい! 終点です! この電車は車庫に入りますので、すばやく下車お願いいたします!」

予定では、渋谷から数個先の駅で降りるはずが、二十数個目の終点駅に着いていた。

横を見ると比奈子がもたれかかっていて、今だ熟睡中だ。

駅員に謝り、比奈子を起した。


ボーっとした顔のまま、豊に引きずられながら電車を降り、反対側のホームに行こうとしたが、駅員に残念そうに言われた。

「渋谷行きの最終は、今しがた発車いたしました」


「ぇえ!? どーすんだよ、俺たち…」

豊が比奈子に答えを求めた。

「タクシーで帰る…」

「馬鹿か、いくらかかると思ってんだよ」

「ここどこ…?」

ここは、隣の県だ。

とりあえず、駅にいてもしょうがないので、改札を出た。


「電話…しとけば? ご両親心配してんじゃねーのか?」

豊が言った。

「あ、うん、大丈夫。もう寝てる時間だし…、豊は?」

「俺は、別にいいよ、男だし。うちも寝てると思う」


比奈子の家は、昔から放任主義と言えば、放任主義。

一度深夜三時過ぎに帰宅すると、翌朝、志乃に言われた。

「比奈子、夜中帰って来るんなら、朝帰って来なさい! あなた、バタバタうるさいから」

と、言われ、夜遊びになるときは、朝帰りをすることも多い。

父・恒和は心配するが、母・志乃は、「お母さんは、比奈子を信じてるから!」と、全く心配せず、近所の目も気にしない。



駅のロータリーで突っ立ったまま、辺りを見回していた豊が、訊いた。

「比奈子、おまえいくら持ってる?」

「え? 500円…どうして?」

「500円!? なんじゃそりゃ! 財布見せろ!」

比奈子の財布の中身を見たが、本当に500円玉が一つだった。

「子供か、おまえは…」

呆れたように言った。


「俺だって、カラオケ代立て替えて、あと4000円くらいしかねーんだぞ?」

「どうすんの?」

「あそこ泊まるよ」

豊が指を差したところは、駅前のビジネスホテルだ。

「カードあるし、部屋二つ取ればいいだろ?」

「うん、わかった。眠いし…」

そう言いながら、お酒の酔いと、疲れで何かに頼って歩きたい比奈子は、何のためらいもなく自然に豊の手を繋いだ。

豊は、戸惑いながらもそのまま、ビジネスホテルへと歩き始めた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ