(11)コンパ・どうしてここにいる
そのころ、先に着いていた五人の男が居酒屋の座敷に一列に並び、座っていた。
ワクワクとしているのは、さと兄だけで、花ちゃんは紙ナプキンで鶴を折り、小窪ちゃんは姿勢を正し、目を瞑り瞑想に入り、慎太郎はメニューに目を通し、豊はテーブルに伏せていた。
五分ほどして、女子三人が来ると男子五人は、ピシッと背筋を伸ばした。
女子三人は、晶子と比奈子がまだ来ていないので、絹子、空き、澄江、空き、由美子と間を一つ空けで座った。
さと兄と少し頬を染めた絹子が、挨拶を交わし、あとから来る二人は置いておいて、先に自己紹介をした。
さと兄がテーブルの下で、隣の花ちゃんに親指を上に向け合図をし、花ちゃんは隣の小窪ちゃんに親指を立て、小窪ちゃんは隣の慎太郎に親指を立て、慎太郎は隣の豊に親指を立てた。
テーブル下の合図は、その日の女の子の良し悪しの合図。
今回は、全員親指が上向きなので、「今日の女子はOK」だ。
絹子は、さと兄狙いと、最初に宣言しており、澄江と由美子は、物言わず笑顔のまま、他の四人をチェックした。
豊の前には、由美子が座っている。
胸を強調する服を着ている由美子の胸に、豊は軽くうれしい眩暈を起こした。
慎太郎に関しては、鼻血が垂れたため、隣の小窪ちゃんが花ちゃんの折っていた紙ナプキンの鶴を奪い取り、慎太郎の鼻の中に突っ込んだ。
30分ほど遅れて、比奈子たちが到着した。
「こめんなさい。遅くなっちゃってぇ」
テヘッ、という感じで晶子が、かわいく謝り、その後ろには「二コリともしない」比奈子が、
「よっこらしょっ、とぉ~」と、おっさんくさい一言を発し、由美子の隣に座った。
「あっ…BMWの自転車…?」
「…え?」
慎太郎が比奈子を見て言うと、比奈子は慎太郎に顔を向け、豊は斜め前に座った比奈子を見た。
化粧をし、スーツを着ている比奈子を少し直視したあと、豊が大声を出した。
「……ぁぁあああ!? なんでおまえがいるんだよ!」
豊の声に、慎太郎を見ていた比奈子は、顔を豊に向け、全員が豊を見た。
「あっ、天パー…」
落ち着いた声でボソっと言った。
「天パーじゃねーつってんだろ! 天然パーマだ! …そんなことはどうでもいいんだよ!
なんで比奈子がいんだよ」
豊は眉を山にして比奈子に怒鳴った。
「おい、豊、知り合いか?」
「知り合いみたい。彼女、この間、豊の家に来てた」
さと兄が、端の方から訊いてくると、慎太郎が代わりに答えた。
「なんだよ、いつの間に? おまえら」
「そうよ、比奈子、知り合いなら早く言ってよ~」
なんだなんだと、みんなは口々に言い出し、なぜかしら緊張がほぐれだした。
そんなことはおかまいなしに、豊は比奈子を睨みながら言った。
「なんで、ここに座ってんだよ、おまえ……」
「え? コンパに…参加…?」
自分で疑問詞調に言い、首をかしげた。
「……そんなことは、わかってんだよ!」
「私たち、高校の同級生なの、ね、比奈子? でも、豊くんと知り合いなんて、すごい偶然ね?
二人がお友達なんて初耳ぃ。
比奈子一言も豊くんみたいな人とお友達なんて教えてくれなかったじゃない」
由美子は、比奈子の腕を組み、かわいらしく顔を傾け、豊を見て言った。
「待って、由美子ちゃん!
俺と、この『おかめひょっとこの比奈子』とは友達でもなんでもないから、間違えないでくれ」
「あっ、また出た昭和一桁発言。あはっ、おかめひょっとこって、どうよ。相変わらず、古っ!」
「……」
きゃはは、と、鼻と眉間の間にしわを寄せ、笑い倒す比奈子に豊はもう何も言えなくなった。
「もう、比奈子ったら、笑いすぎ。豊くんに失礼でしょ? これでも食べて大人しくしてなよ」
由美子が、比奈子の一番好きな鳥のから揚げを皿の上に置くと、「ぐふふ」っと、緩んだままの顔で、言われた通り、大人しくから揚げを口に運んだ。
「ごめんね、豊くん。この子こんなんだけど、本当はいい子なんだよ。はい、豊くん、どうぞ」
「あ、ありがとう」
由美子は、代わりに謝り、ちょうど運ばれてきた大根サラダを取り分け、豊に渡した。
比奈子と対照的に女らしい行動の由美子に照れながら、微笑みを由美子に向けた。