表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/52

(1)天パーvsハチマキ1

「おい、豊、次はどこだ?」

「んーと、二丁目の『小鳩縫製』さん」

「二丁目だな? この町にも縫製工場なんかあったんだな? 住宅街なのにな」

「うん、俺も知らなかった。

 なんか、親子三人とパートの人三人とでやってるらしい。

 おやじさんは、競馬、競艇好きであんま働いてないらしけどね?

 奥さんが働き者で、娘さんと一緒にやってるらしい」

「どっからそんな個人情報仕入れたんだ?」

「たばこ屋のおばちゃん」



前田クリーニング店経営・前田五郎太と次男の前田豊・24歳は、ミニバンで隣町までやって来た。

「前田クリーニング店」は、個人経営の普通のクリーニング店だが、駅前近くにチェーン店のクリーニング店がオープンし、このご時世とも重なりお客も減り、顧客確保のため二人で、定休日を利用し、サービス券を配りながら各家を回っていた。

個人客だけではなく、クリーニング以外の「洋服プレス仕上げ」を必要とする縫製関係の工場も回り、大型注文も確保したいところだ。


車のスピードを落とし、目的の縫製工場を探した。

「ここかなぁ」

豊が指をさした一軒屋は、看板など無く、ただ、表札に『小鳩縫製』の横に家族の名前が記されているだけだ。


「なんか、ちっさい工場じゃん? っていうか、普通の家だよ?」

「家族経営だから、こんなもんじゃないのか?

 うちだって小さいクリーニング店だ。人様のところをそんな風に言うんじゃない」

父親らしいお言葉だ。


二人は車を降り、『小鳩縫製』のチャイムを鳴らした。

「は~い、開いてるから勝手にどーぞ!」

女性の声がし、二人は、言われた通り勝手にドアを開け、中に入った。

「なんか、無用心じゃね?」


ドアを開けると、すぐにミシンや裁断台、事務机が置かれてある30畳もない仕事場があり、少し離れたところに二階へと続く階段がある。

工業用ミシンの音が聞こえている。

小鳩家は、一階が仕事場で二階が住まいになっていて、住宅街の中にある一軒屋だ。


前田親子二人が、中に入ると、中年女性から声を掛けられた。

「ご用件はなんでしょうか?」

五郎太は、ちらしを渡しながら、「プレスの依頼があれば回してほしい」旨を伝えると、中年女性は、一番奥の事務机に座っていた若い女性の所へ行き、伝えた。


若い女性は立ち上がり、五郎太たちのところに来て言った。

「悪いけど、うち、プレス出してるところ決まってるから、ごめ~ん」

タオルのねじりハチマキを頭に巻いて出てきた、言葉使いを知らないこの女、

小鳩比奈子・22歳、ここの工場の一人娘だ。

服飾の専門学校を出て、母親の手伝いをしている。

大人しく黙っていれば、ちゃんとかわいい女だ。


「仕事は丁寧にさせていただきますし、お値段の方もお勉強させていただきます。

 全部をうちにとは言いませんので、お願いできませんか?」

腰を低くして言った五郎太に、比奈子は冷めた声で訊いた。

「いくら?」

「はい?」

「お勉強してくれるんでしょ? シャツだったら、プレス一枚いくら?」

五郎太は、ポケットから小型の計算機を出し金額を押し、比奈子に見せた。


「はぁ? これじゃ、今出してるところと変わんないじゃない。

 やっぱこれくらいにしてくんないと。どう? こんくらいならお宅に出すけど」

と、五郎太から計算機を奪い、パパッと数字を押し、見せた金額は、五郎太の示した金額の二分の一だった。

「いやいや、これは、ちょっと…」

「んじゃぁ、帰って!」


な、なんじゃぁ~この女!

こっちが下手に出ていれば!


黙って五郎太と比奈子の会話を見ていた豊だったが、上から目線でもの言う比奈子に苛立ち始めた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ