42.平和(フラグ)なピクニック(追加のフラグ)
屋敷からある程度馬車を走らせたところ。かなり見晴らしの良いところになってきた。ここだったらピクニックには最適だろう。ゴマばっか擦ってそうなトリだって賛同する良い場所じゃないか。
「お嬢様、この辺りはいかがでしょうか」
馬車の中へ声を掛けるとお嬢様は窓から顔を出して辺りを見回している。かわいい。
「そうね。ここにしましょう。」
馬車を止めてドアを開いて二人が出るのを待つ。…こういうときにエスコートってするもんなのかな?でも私って護衛だよね?護衛がそこまでやるのっておかしくない?自重したほうが良さそうだしな…
二人が馬車から離れたので私は私で馬車をきっちりと止めておく。馬ちゃん良い子で待ってるんだよ。…ちゃんと餌あげたからね!?まじで言う事聞いてよ!?
「グッボーイグッボーイ。ごめんそういえばきみ女の子だった。お嬢様が帰るときまでちゃんと待ってるんだぞ」
首回りを撫でてやると気持ちよさそうな顔をしてくれたので心が通じてくれたと信じたい。
「お嬢様~!お茶の用意ができましたよ~!」
「は~い!」
っへへっへへっへへへ。おっと失礼ちょっと耳が幸せになった弊害が。こうしてはいられん早くお嬢様達の元へ向かわなくては。
到着すると絶景が広がっていた。美少女と美女のお茶会だ。素晴らしい。誰かカメラを持ってきてくれ。この光景を写真にして額縁に飾ろう。あ、カメラ無いんだった。
「ほら、アルバもお茶はいかが?とっても美味しいわよ」
「お嬢様。非常に残念ですが今日の私は護衛でございますので」
「む~…そっか」
ほんとごめんお嬢様。さすがにここで私が茶をしばいているとメンツ丸つぶれなのよ。私は栄誉あるティアマト家お抱えの騎士団タイダルナイツの一員。君主の娘を守るときはたとえ何があっても気を抜いてはいけないのだ。
「アルバ様。よろしければお茶だけでもどうでしょうか」
「エリナさんに頼まれては仕方ないですね。主人の願いを聞くのも従者の定めというもの」
「アルバ?」
気が付いた時には私の手にはティーカップが握られていた。なんだよその目は。うるせぇなお嬢様がお茶に誘っていただいたからそれを断るわけにもいかないと思ったんだぞ。決して推しの悲しむ顔が見たくなかったとかではないからな。決して
「…良い香りですね。華やかな香りです」
「アルバにも匂いとかってわかるのかしら?」
「えぇ。人間と比べると薄い程度にしか感じることはできませんが」
「でもわかるのなら良かった!エリナが淹れてくれるお茶は本当に美味しいから!」
ほうほう。紅茶経験の無い私でも楽しめるかな。カップに口をつけると香りと同じ印象の味が広がった。甘い…けど不快には感じないな。なんか…心地よく感じるな…
「…こういった飲み物は初めてですが…とても心地の良いものですね」
「でしょ!わたしも自分でこの味を出そうとしたのだけど、なかなか上手くいかないのよね…エリナに聞いても教えてくれないし」
「ふふふ。使用人の秘密ですわ。お嬢様」
これはうまいなぁ…ハマりそうだ。紅茶ってこんなに美味いんだな…私の記憶だと幼少期に親が飲んでいたのを少し飲んで無理!ってなって今までずっと避けてきたけど…
「ごちそうさまでした。とても良かったですエリナさん」
「おかわりもございますよ」
「さ、さすがに私にも仕事がございますので…」
ダメダメダメダメ!これ仕事!!転生ものでよくあるほんわかする主人公じゃなくてそれを守る従者が私なの!!ちょっと気抜けし過ぎだよまったく。
「じゃあわたしにおかわり頂戴!」
「かしこまりました」
危なかった…エレナさんには人をダメにするオーラ的な何かが確実にある。間違いない。
お嬢様との一時のお茶会を楽しんだ後は私は護衛に徹した。途中何度かお嬢様とエリナさんの悪魔の囁きがあったが何とか耐えることができた。陰キャにはこうもグイグイ来られると恥ずかしくて仕方ないのです。
一時間程度が過ぎた頃だろうか。少し離れた背の高い草むらから何かの気配を感じ取った。
「…?」
「…アルバ様…?」
私の様子に気づいたエリナさんが小声で聞いてきた。
「少し…あの草の生えた場所から何かの気配を感じました。念のため確認してきますのでお静かに」
「…わかりました」
お嬢様に気づかれる前にやりとりを済ませると私は静かに気配のあった場所へと移動した。
誰だぁ?気配的に魔物じゃないかと疑ったんだけど…今はしないな。逃げたか?どうにも胸騒ぎがする。ひょっとして探しに来たのは悪手だったか?
嫌な予感がしたのでお嬢様たちの所へ戻ろうと思った。
「きゃー!」
お嬢様の悲鳴!?いつの間に!?
急いで駆け戻るといつぞやの狼と比べると控え目な見た目をした狼型の魔物が居た。あれは確か…グレイウルフか?
「お嬢様!!」
ここからだと少し遠い…急げよ私!!
腰から剣を引き抜いてアーツを構える。狙うのはお嬢様とエレナさんを囲む3匹の内、私から一番近いヤツ!
「クイックスラスト!!」
私の急接近に気づくことが出来なかった1匹を私の剣が胴体を捉えた。グレイウルフは悲鳴をあげて動かなくなった。残り2!
「アルバ!」
「アルバ様!」
「二人とも私の後ろへ!」
そのまま残りも仕留めれると思っていたけど腐っても魔物。私から距離を取って体勢を整えたようだ。小癪な狼め。
どうする。以前の狼狩りとは違う。私の後ろには戦うこととは無縁の女性が二人いる。攻めたら負ける。確実に襲ってきたところを返り討ちにして
殺す
「お嬢様。ご安心ください。こういうときのために私が居るのですから」
できる限り優しい声を掛ける。お嬢様の様子を見るとかなり不安なことが分かる。エリナさんの方はお嬢様ほどではないが不安そうだ。私がついていながら…守るべき方々を不安にさせてしまうだなんて…
だがそうなったのもこいつらが襲い掛かってきたのがすべて悪い!!
「よくもお嬢様とエリナさんに…犬風情が…なんという所業だ!万死に値する!」
私が叫ぶと同時に片方が飛び掛かってくる。それに合わせるように剣を突き出し口ごと貫く。すぐさま引き抜くともう片方が走ってくる。
「ドレインシード!」
手から種を生成し、向かってくるグレイウルフへ飛ばす。種が命中するとすぐに根を張り始めていく。これであいつは無力化できた。
「フンっ!」
突っ込んできたグレイウルフを横へ蹴飛ばす。種が当たったとはいえあの勢いはどうしようもないからね。ああするのがいいと思った。
「アルバ様!右です!」
言葉に反応して右側を向くと、仕留めたと思っていた方がまさか起き上がってくるなんて…だが…
「シャープエッジ!」
鋭い斬撃が最後のグレイウルフに命中し、今度こそ動かなくなった。
「…よし。お嬢様、エリナさん、ケガはございませんか?」
「う、うん…」
「大丈夫です。ありがとうございますアルバ様」
ふ、ふぅ…お嬢様は若干顔が青くなってるけどケガとかは無さそうだ。これでお嬢様の顔にケガの一つでもあれば申し訳なさで100回自害した後に他の騎士団員やレギルス様に53万回殺されていたかもしれない。
「申し訳ございません。このような事態を未然に防ぐために私がついておりながら…」
「い、いいのよアルバ。この通り私は無事だから。ね?ね?」
ほんと情けない…お嬢様みたいな人には血も見せてはいけないのに!!さきほどからお嬢様が倒れた狼をちらちらと見ている。その歳だと相当ショッキングだろうに…
「エリナ…その…今日はもう帰りましょ?」
「…はい。お嬢様」
あぁもうほんと申し訳ない。自害せよと命じられたらノータイムで自害するレベルで申し訳ない。お嬢様の大切な休みが…
「お嬢様。一足先に馬車へお戻りください。私はグレイウルフ達の処理をしてきますので」
お嬢様はコクリとうなずくと重たい足取りで馬車へと戻っていった。
行きの時のお嬢様と比べると思わず心が痛む。仕方なかったとか言われるかもしれないけど私は自分が許せんぞ。
あぁぁぁぁぁ…一生の不覚…ここは華麗に私があいつらを倒してお嬢様にかっこいい!!だけで済ませるのがお約束なのにぃぃぃ!!!怖い思いさせるとか従者失格だ…
…もういいや…さっさとこいつら片付けて帰ろう…
手で軽く土を掘ってへこみを作りそこへ死体を投げ込む。仕上げにドレインシードを追加で何個か植え付け、土を被せる。よしこれであとは綺麗さっぱり消えるだろう。帰る。
馬車に戻ると馬が悲しそうな顔をして待っていた。きみも分かる?お嬢様が怖がってるのが。
「帰りもお願いするよ。帰りは…行きのときよりもゆっくり目にね」
馬と馬車を繋ぎ直し、屋敷の方向へ走らせる。
「ねぇ…アルバ」
「どうしましたか。お嬢様」
「やっぱり…アルバってすごいのね。魔物なのにわたしたち人間と仲良くするなんて」
あぁもう声からして辛そう!!!ごめんねぇぇぇぇぇぇ!!!お嬢様!!私の実力不足なんだ!!!
「そう…ですね。一般的にはやはり魔物と人間は争う関係でしょう」
「…わたしね。本で人と竜が仲良くするって物語が好きなの」
「それでね。アルバのことを見たときに魔物も話せばわかりあえるって思ったの」
「でも…いざ顔を合わせるとすっごく怖くて…」
あああああそうだよねそうだよね!普通はそうなるよね!!!私が異常なだけなんだよおおおおおおお!!!!!!
「お嬢様。確かに魔物と人は違う存在かもしれません。ですが、魔物も人も同じこの世界に生きるもの同士でございます」
え、エリナさん!?
「先ほどのグレイウルフとは分かり合うことが出来なかったかもしれませんが、この先それが会う魔物とまったく同じとは言い切れないですよ。…アルバ様のように、人であろうと関係のないと考える変わり者がきっと居ますよ」
う、ううぅ…エリナさん…夢を…夢を諦めさせないでくれてありがとう…大丈夫絶対見つけるから!!お嬢様と仲良くできる子見つけるから!!!!でっかい猫ちゃんだろうともふもふでもなんでも!!!
「そう…かしら…そうよね。まだ決めつけるには早いものね」
後ろを向けないけど、お嬢様の声色が明るくなってきた。良かった。エリナさんナイス過ぎる。
「そうだ!アルバ!あなたと仲良くなった人たちのことを教えてくれないかしら?」
お、いい切り替えしですね。いいでしょう存分に語ってあげましょう。
「かしこまりました。そうですね…ではまずは私に剣を教えてくださった師匠からお話いたしましょう」
「アルバに剣を教えた人!?気になるわ!」
「そうですね…あれは私が目覚めたころ…」
私は出会った人たちのことを話しながらも手綱を軽く振って馬車のスピードを元に戻した。
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