33.アカシュの奇妙な花
ベルミア南部の森、別名アカシュの森。ベルミアは周囲の平原の先にある森に囲まれているが、その森をベルミア森林と呼んでいる。ベルミア周囲の地域は比較的危険度が少なく、新米の冒険者が育つには適した環境だ。しかし、南部にある森は一味違う。
生えている木は他と変わっており、アカシュと呼ばれるその木は樹皮が青みがかっており、葉も青がかっている異様な木だ。アカシュの木になる実はとても甘く、一度に多くの実がなるため、求める者が多い。しかし、アカシュの森は他よりも迷いやすく、実態がまだわかっていないところもある。また、過去には危険な魔物が通ったという記録もある。
「今回は何が起こったんですかね…前にはレッサーリングが群れで町を襲ってきたとかありましたけど」
アカシュの森へと近づくと、森の入口には薄霧がかかり、異様な静けさが漂っている。風が吹くたびに青い葉が揺れ、不気味な影を作り出す。私はその静寂の中で、武装したギルド職員の姿を見つけた。彼らは私の到着に気づき、手を振って合図する。
「お疲れ様です。例の原因調査に来たアルバです」
「お待ちしておりました。さっそくですが、この森の奥に原因となるものがあると予想しております。我々もさらに詳しく調査を進めようとしたのですが、近づけば近づくほど香りが強くなり、調べることが出来ない状況です」
彼の言葉に、私は周囲を見渡した。職員の中には顔色が悪く、疲れた様子の者もいる。甘ったるい匂いが充満しているのがわかる。
わかる。甘ったるいにおい嗅ぎ過ぎたら具合悪くなるよね。
「においがきつい…ここからでもまだ甘い匂いがする」
「私もちょっとさすがに気持ち悪くなってきたかも…」と、別の職員が顔をしかめながら言った。
「…とまあ。このように森に入らずとも体調に影響を受ける者もいます。アルバ様であればこのような状況下であっても支障をきたすことなく調査できると考え、ご依頼いたしました。」
軽く匂いを嗅いでみる。うん。私からだと軽くしか感じないね。多分私の五感は劣化してるてきなヤツだと思うからね。行けると思う。
「私にはあまり匂いを感じ取れませんからね。大丈夫だと思います」
「もし何かあればこちらのマジックアイテムをお使いください。私たちの元へすぐに戻れるようになっています」
職員からクリスタルのようなひし形のマジックアイテムを受け取り、私はアカシュの森の中へ足を踏み入れた。
森の中は一層青く、異様なほど静かだった。木々が密集し、薄暗い光が差し込む中、青い葉が揺れるたびに不気味な影を作り出している。鳥の鳴き声もなく、ただ風が木々を揺らす音だけが響いていた。
相変わらず不気味な場所だ。青い!視角でも気持ち悪くなりそうだ!!
数分歩いた後、森の中はさらに暗くなり、光がほとんど差し込まなくなった。青い葉の間から漏れるわずかな光が、地面に奇妙な模様を描き出している。風の音も一層不気味に響き、森全体が生きているかのような錯覚に陥った。
しばらく進んでいると、突然、目の前に奇妙な光景が広がった。目に見えるほどのピンク色のモヤを吐き出している花が、周囲の木々の中にぽつんと咲いていた。その花は他の植物とは異なり、鮮やかなピンク色で、一見すると美しいが、その光景はどこか不気味でもあった。
「なんあれ」
私は花に近づき、その香りを確かめると、強烈な甘さが鼻を突いた。まるで蜜のような濃厚な香りが、辺り一面に充満している。
「あっっっっっまッ…!?ちょっと待て、私ですらかなり匂いがきつく感じるって…絶対これが原因だろ…」
私は慎重に花を観察し、その奇妙なモヤが周囲の空気を包み込んでいるのを確認した。花の中心から絶え間なくピンク色のモヤが湧き出し、それが原因で冒険者たちが気絶していたのかもしれない。
あー…あれかな。ガスみたいな?風に乗ってこれの薄くなったやつが飛んできて具合悪くなってアボン的な。しっかし一体なんのために…
ふと感じる違和感
あの花こっちの方角向いてたっけな?
咲いている花を見ると先ほどと比べると咲く方角が変わっている気がする。まるでこちらを見ているような…
近づいて花の後方に移動し、様子をうかがう。今のところ特段変わった様子はない。相変わらずピンク色のモヤが出ている。気のせいだったのかな
あれ?こっち見てね?
目を離した一瞬のうちにまた花の向きが変わっていた。180°反転やぞ。気づかん方がおかしいわ。
この花…何か…やばい…!
こいつ明らかに魔物だろ!!!あれか?眠らせて吸収するってタイプだな?残念だったな!私に状態異常の類は効かないんだなぁこれが!!
「どういう意図かは知りませんが…私たちに被害を与える誰だろうと…私の永遠の絶頂をおびやかす者は許さない決して確実に消え去ってもらいましょう!」
剣を引き抜き、奇妙な花を切り払った。
「キュイイイイイイイイ!!」
花を切った瞬間、聞くに堪えない悲鳴が木霊した。
「うぅぅぅるっっっさ!?」
なんだこいつ急に叫びだしてきて!?マンドラゴラかなんかかよ!?
花の悲鳴が消えると、私はその花を拾い上げてじっくりと観察した。花の切り口からは、青緑色の液体が滴り落ちている。花自体はまだ鮮やかなピンク色を保っており、その美しさと不気味さが共存しているようだった。エイリアンかな…?
「さて、これをどう処理するか…」
私は一瞬花を置いて考え込んだ。その間に、花の一部が微かに動き出していたことには気づかなかった。突然、花の茎が伸び、私の手首に絡みついてきた。
「ふぁっつ!?なになになになに!?」」
花は素早く動き、私の腕に巻き付いてきた。茎はまるで生き物のように動き、私の腕に食い込んでくる。その瞬間、私は体内の力が徐々に吸い取られていくのを感じた。
「うぉぉぉぉぉぉ!?力が抜ける!なんか吸われてるぅ!?」
私は必死に花を引き剥がそうと試みたが、茎は頑丈で簡単には離れてくれない。さらに、花の中心から新たなピンク色のモヤが湧き出してきた。
「くっそこいつしつこいな!いい加減に離れやがれぇぇぇぇぇ!!」
茎を掴んで全力で引き抜こうとしてもビクともしない!くっそ!魔力とかその他もろもろを吸い取られている感じがする!ふんぐぐぐぐぐぐぐぐ!!
「このやろう…!さっきからチューチューしやがって、負けるかぁぁぁぁぁ!!!」
私の体から外へ流れ出ていく物を意識で捉えると、それを掴んで私の方へ流れるように引っ張った。
「人様の力吸い取ってのうのうとデカくなってんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬう!!なんで掴めたか分からないけどこのまま全部引っこ抜いてやらぁぁぁ!
私に流れる力を奪い返していると、突如流れてくるものが変わった気がする。何か活力がそのまま流れ込んでくるような…
「なんだか知らないけど、てめぇも瞬殺!」
入ったれオラァァァァァァ!!!流れてくるものを掴んで、思いっきり引き抜いた。
その瞬間、花の茎はバキバキと音を立てて切れ、私の手から離れた。。花の本体は力を失い、地面に落ちてピンク色のモヤも消え始めた。あーびっくりした。危うく干からびるかと思った。干からびたのはあっちの方だったぽいけど。
「ひとまず…問題解決?ギルドに報告しないと」




