32.花の香りに誘われて
「そういえばアルバ。こんな話知っているか?」
依頼を見に行こうとしたところ、馴染み冒険者に声を掛けられた。相変わらずこんな時間から飲んでるよ。
「なんです?」
私は興味津々で問い返す。
「最近森の中で気を失う冒険者が多いってやつだよ」
「あー…その話なら私も聞きました。先日も1パーティーが運ばれることになってましたよね」
最近何人か気絶した冒険者たちが出てるって話があるんだよね。しかもみんな同じ森の似たような場所で見つかってる。何かあったのかな。
「それなんだがよ…俺が気を失ったことのある冒険者共に話を聞いてみるとよ、どうやら気絶する前に甘い香りがするって言ってたのよ」
甘い香り…その言葉に、私はさらに興味を引かれる。
「甘い香り?」
「あぁ、しかも甘ったるいくらいに感じるほどだ。しかもな?この話にはまだ続きがあってよ…気絶した奴らは全員レベルが下がっていたらしい」
「レベルが…下がっていた!?」
レベルドレインとか怖すぎでしょ。今時のRPGでもそんな禁忌犯さないよ。何?淫魔でもいるわけ?
「レベルが下がるなんてことあるんですか?」
「俺も初耳だぜ?でも実際に気絶したやつらは俺が聞いた限りだと全員下がっていたぜ。つっても、1とか2ぐらいなんだけどな」
下がるレベルは低いとはいえ…変だな
「恐ろしい話ですね。1から2程度とはいえ確実に戦闘能力は下がります。もしこれが偶然ではなく意図的に引き起こすことが出来れば…」
「おいおい。怖いこといわないでくれよ。あ、そうだ。さっきギルマスがお前のこと探してたぞ。時期的にこの話じゃないか?」
「やだなぁ…そんなとこ行くの…まあ断るわけにもいきませんし…ありがとうございます。」
「おう。気を付けろよ。調べ終わったら俺にも聞かせてくれよ。せっかく目を付けた面白そうな話だからよ」
冒険者に別れを告げ、ギルドマスターを探す。こういうときは…
受付を見ると相変わらずの忙しさだ。今はまだ落ち着いている時間帯とはいえ5人ほど冒険者が待っている。その中の一部には覚えもある。さて、今日も振られるのかなと思いながら私も列に並んで順番を待つ。
「次の方~」
おや、気づいたら順番が回ってきたようだ。振られて落ち込む集団を横目にクレハさんへ話しかける。
「あら、こんばんわアルバさん。お勤めご苦労様です。」
あの人数を捌いたにもかかわらず明るい笑顔が崩れていないクレハさん。あの人たちは泣いてもいいんじゃないかな。私はその笑顔に癒されながら答える。
「こんばんわ。こちらこそお疲れ様です。日が落ちる時間になってもクレハさんは人気ですね」
「もう慣れましたので。それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」
うーんこの気にも留めない感じ。まぁいいや。クレハさんはかわいいけど私からすると恩人だからね。そういう目では見れない。
「ついさっき他の方からギルドマスターが私を探しているとお聞きしまして」
私が要件を伝えると、少し考えこんだあと、思いついたかのように明るい顔になった。
「あぁ!そうでしたそうでした。ギルドマスターがお呼びです。少々お待ちください」
クレハさんはカウンターの奥へ向かっていった。
さて、どのくらい掛かるかな。暇だしあの人たちと話して待ってようかな。
私はカウンターの前から近場のテーブルで酒を片手に泣き崩れてる集団へ声を掛けた。
「今回もダメだったんですかー?」
「「「「”全”滅”だ”ぁ”-”!!」」」
酒のせいなんだか涙のせいなんだか両方なのか、そろいもそろって声がガラガラになってる。草
「相変わらず諦めが悪いですねー!」
「うるせぇ!俺たちの憧れの人なんだぞ!」
「俺たちだって頑張っているじゃないか!」
「少しくらい惚れてくれてもいいだろ!」
「「「そうそう!!」」」
仲いいなほんとに
「一番惜しかった時はどこまで行ったんですか?」
「「「また時間があればお誘いしてくださいね~!!」」」
あぁ。脈は無さそう。
「アルバさん!」
おやこの聞き覚えのある声は…
後ろへ振り替えると、学生服からこの世界の住人らしい服装へ変わったマサトくんがいた。
「おや、マサトくんではありませんか。こんばんわ」
「アルバさんこんばんわ。何か話してたみたいですけど…?」
あぁ…うん
私は例の集団を指さしながら答える。
「いえ…気にしないで…いや、気にしないであげてください。いつものことなので」
「?」
マサトくんは分かっていない様子だが、私は気にせず続ける。
「そうだ。マサトくん。もし、近いうちに森に行く場合は気をつけてください。最近、あそこで気絶して運ばれる冒険者が多くなっていますので」
「森でですか?わ、分かりました。気を付けておきます」
私たちが話していると、足音が聞こえ、クレハさんが戻ってくるのが分かった。
「お待たせしました。ギルドマスターが部屋でお待ちしております」
マスターの部屋ね。了解しましたっと。
「分かりました。ありがとうございます。それではマサトくん。くれぐれも…ですよ」
「はい!あ、クレハさん」
「あら、マサトくん!こんばんわ。今日はどのようなご用件で?」
「えっと…」
クレハさんと顔を合わせると、顔を赤らめながらモジモジしているマサトくん
おやおやおや、おやおやおやおや、おやおやおや ふぅ~ん?なるほどね。お邪魔虫はさっさと居なくなりましょうか。
「それでは私はこれで、お二人ともごゆっくり~」
「ちょ、アルバさん!?」
私の言葉に顔を赤くするマサトくん。意外とかわいいところもあるじゃないか
「ギルドマスター。アルバです」
ドア越しに声を掛けると中に入れと帰ってきた。では遠慮なく
「失礼します」
部屋に入ると、机にはいつも以上に書類が山積みになっており、その向こうにはギルドマスターが険しい表情で座っていた。彼の顔には疲労の色が見える。
「見るからに忙しそうですね」
ギルドマスターは深いため息をつき、重々しい声で応えた。
「あぁ…ここのところの問題でな…調査に何人か向かわせたがことごとく眠らせて帰らされる始末だ。」
「聞くによるとレベルが下がるとのことで」
「…誰から聞いた?」
一瞬ギルドマスターの目が鋭くなった気がする。
その問いに、私は一瞬ためらいながらも答える。
「いつも依頼掲示板の近くで果実のエールを飲んでいる」
「…あいつか、最近嗅ぎまわっていると聞いていたがもうすでにそこまでか」
ギルドマスターは顔をしかめ、少しの沈黙の後に呟いた。
おっとこれできる限りシークレットなやつだな?そりゃそうか
「まさかお前が他の冒険者に言ったりだなんてしてないだろうな?」
ギルドマスターの声には、鋭い警戒心が含まれていた。
「ヴェ!ナニモ!」
「そうか」
「ただあくまで森で気を失う人が増えているから気を付けましょうねぐらいまでは言ってますよ。何も知らないで行かれるのも困りますし」
「…ならいい」
ふぅ、話すだけでプレッシャー効きまくる…
「本題に入ろう」
ギルドマスターは真剣な表情で切り出した。
「はいな」
「お前にはその原因を調査してもらいたい」
「…ちなみになんで私なんですか?」
「お前には状態異常は効かないだろう?」
「あー。了解です」
そりゃ確かに私の出番だわな。
「何か事前の情報とかってありますか?」
「そうだな。まずはこの地図を見てくれ」
ギルドマスターが広げたのは、南部にある森の大まかな地図だった。その地図を見て、私は驚きを隠せなかった。
「南の…アカシュの森じゃないですか。もしかしてここが?」
「あぁ、ベルミア近くの森といってるが、実際はここだ」
「アカシュの森というと…この時期だと木の実が良く生っていますよね?それと関係が…?」
ギルドマスターは首を横に振った。
「恐らくそれとは関係がないだろう。何らかの偶然だと考えられる」
運が無いなぁ私らも
「偶然ですか…まぁ起っちゃったものは仕方ないので調べますか…」
「頼めるか?」
「ギルドマスターの頼みとあらば断わるわけにもいかないでしょう?お受けしますよ」
ギルドマスターは頷き、書類の山に再び目を落とした。
ギルドマスターの執務室を出たあと、クレハさんや他の冒険者に調査に行ってくることを伝え、私はアカシュの森を目指した。
そういえばユニークアクセスが100人超えてました。興味を持ってくれた画面の前の皆さん。ありがとうございます。




