29.窮鼠猫を嚙むって知ってるか?
いっけなーい!退避退避!
私、アルバ。年齢不詳住所未明!どこにでも居る至って普通の元人間のリビングアーマー!でもある時異世界転生しちゃってもう大変!しかもいきなりでっかい狼さんにも出会っちゃって!?一体私、これからどうなっちゃうの〜!?!?!?
どうにもなんねぇよ!!誰か助けて!助けてください!でっかいストーカーに追われています!ここからでも入れる保険とかって無いんですか!?なんかいきなり獣皮を被ったワイルド系ツンデレヒロインが助けてくれるとかないんですか!?
そうなんだよなぁそんなこと起こるほど世界って甘くないのよね。
「不味いですね…」
私の呟きにケンジが反応し、顔が青くなったような気がする。夜風が冷たく頬を刺し、月明かりが微かに揺らめく中、彼の目には明らかな不安が見て取れた。
「どうした!?まさか疲れが…」
ケンジが心配そうに私を見つめる。
「いえ、疲労は問題ないのですが…速さがたりないんです」
だが足りない、足りないぞ!!。私に足りないものは、それは――
情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ!そして何よりも ―― 速 さ が 足 り な い !!
ちっくしょー!進化して細剣に特化した姿になっても所詮は第二形態!デジタルなモンスターでいうところの成長期!フィジカルがちょっと他のモンスターより高いだけなんだよなぁ!ケンジが居る居ない関係なくスピード不足!
「こんなことならもう少し討伐をやってレベルを上げておくべきでしたね…」
私はつぶやき、ケンジは眉をひそめ、前方の闇を見据えている。
「くそっ…!じわじわと追いつかれてきている!アルバ、俺のことは見捨ててくれ。このままだと二人とも…」
ケンジの声には焦りと恐怖が混じっている。ここで彼を見捨てるわけにはいかない。さすがにそこまで私もざまぁ系に出てくる下種キャラほど落ちぶれてませんよ。
「馬鹿言ってるんじゃありませんよ。さっきも言いましたが二人とも生き延びて昇格試験を受けるのがベストなんです。妥協なんかしてたらそれこそ何も残せずに死ぬだけですよ」
私の言葉に、ケンジは一瞬驚いた表情を見せる。だが、ちらちらとしきりに後ろを見る彼には強い不安を感じさせられた。
「…だが、このままだと…」
かくなるうえは…
「…ケンジさん。一つ質問があります」
私は走りながら口を開く。背中の彼はそれに驚きの表情で答える。
「な、なんだ。こんなときに」
「貴方、相撲は好きですか」
「は?」
ケンジの目がさらに驚きに満ちる。私の言葉が理解できないようだ。
「特に土俵際の駆け引きは…手に汗握りますよなぁ!!」
私は足に力を込めて大きく跳んでブラッドギャングと距離を取る
「うおおぉぉ!?」
ケンジは驚きの声を上げる。私は着地の勢いを捌き、滑りながら後ろへ振り返る。
「ここで迎え撃ちましょう!」
私の声には決意が込められているがケンジには正気を疑っているような様子だ。
「嘘だろ!?どうやったってあんな化け物に勝ち目ないぞ!?」
「生き物なんだからいくらでも殺し様はあります!頭をつぶす。首を刎ねる。脚を落として失血死させてもいいんです。あいつに教えてやりましょう!私たちを狩りに来たのだから、自分も狩られることを覚悟するものだと!!」
ケンジを降ろし、腰から剣を引き抜く。その様子を見てケンジは何かを言おうとしたが、決心したような顔になり、魔銃を構え、私の隣に立った。
「覚悟…できましたか?」
「あぁ…やるだけやってやろう。あいつも経験値にしてやろう」
私たちは共にブラッドギャングに立ち向かう準備を整えた。その瞬間、巨大な狼が私たちに向かって突進してきた。地面が揺れ、唸り声が響き渡る。
「ケンジさん、まずは距離を取ってください。私が時間を稼ぎます」
「分かった」
ケンジが後退し、距離を取ると同時に、私はブラッドギャングと真っ向から対峙した。巨大な狼が低く唸り声を上げ、鋭い牙をむき出しにしている。迫力満点のその姿に一瞬怯むも、私は剣を握りしめて勇気を奮い立たせた。
(すごいな…こいつには何があろうと私たちを確実に殺すというスゴ味がある…!でも…私だってまだこんなところで止まっていられないんですよ…)
「来い!お前の相手は私だ!!」
籠手で剣を少し強く叩いて大きな音を出しながら私はブラッドギャングへと突進した。ブラッドギャングの牙が光りながら私に襲いかかってくる。素早く身をひねりながら、その攻撃を回避しつつ剣を振り下ろした。
「リニアショット!」
剣が狼の脇腹に刺さるが、あまり傷は深くない。少し血が出た程度だった。狼は怯まずに再び襲いかかってくる。私は素早く後退し、次の攻撃に備えた。
硬いな…普通のバンデッドウルフと比べたら皮の固さが段違いだ。腐っても特殊個体ってところか…
「アルバ!」
背後からケンジの声がすると同時に銃声が鳴り、ケンジの放った弾丸が狼の片目を吹き飛ばした。
「ナイスです!」
いいエイムだぁ!視力の半減はでかいぞ。これなら私が潰された方から攻めればあいつはそれにいつも以上に対処しなければならない。
ケンジによって片目を撃ち抜かれた狼は一度苦しそうに頭を振ると、さきほどよりも強いうなり声を上げてケンジのほうを睨んだ。
おっと、そうは問屋が卸しませんよっと。狼に向け、アーツを放ち、注意をこちらに向けさせる。
「ダブルパスート!」
遅れて追撃が起きる突きで狼に傷を付けると軽く唸り、再びこちらに敵意がくる
「あんたの相手は私だと言ったじゃないか。よそ見している暇なんて与えませんよ!」
怒った狼が大振りに爪を振り下ろしてくる。だがそいつは悪手ってやつだぜ?
再びケンジの魔銃が火を噴き、狼の右前腕を撃ち抜いた。狼は突然の激痛に怯むがそれを見逃す私じゃあない。すかさずその傷口へ攻撃をする。
「その腕置いていきなよ。ライトスラッシュ!!」
私の剣が狼の右前腕を切断し、狼が悲鳴を上げて倒れる。よし、ここでさらにもう一発!
「まだまだ!クレセントエア!!そして――」
倒れた狼へ向かって走り、剣を構え、空中へ向けて切り上げる。
「そして…空中版のアキュラシーストライクだぁぁぁぁ!!!」
私は空中から倒れた狼へ向けて落下の勢いを利用し剣を突き立てる。剣が狼の背中に深く突き刺さり、血が飛び散る。握っていた剣に柔らかいものを刺し、硬い物に突き当たったような感覚が伝わる。
「刃が骨まで達した感覚!!仕留めた!!」
剣をぐりぐりとさらに奥へねじ込むと狼は動かなくなった。
「…やったか!?」
ケンジが魔銃を降ろし、こちらへと近づいてくる。私は剣を引き抜こうとしたが、刃が骨に深く食い込んでいて動かない。
「…ちょっと待ってください…この剣、抜けないんですが…かったっ…」
私は剣を引っ張りながら、必死に動かそうとするが、刃がしっかりと骨に引っかかっているのかまるで抜ける気配がしない。ケンジが心配そうに見守る中、私の背筋に冷たい汗が流れるような感覚が走る。
「大丈夫か、アルバ?」
「えぇ、あとは抜くだけなんで………っくそ、ほんとに抜けないな…なんとか剥いで引き抜くしか…」
その瞬間、狼が再び動き出した。私の心臓が一瞬止まったかのように感じる。狼の目が再び光り、怒りに燃える視線が私に向けられる。
「嘘だろ…!?まだ生きている…!」
ケンジが驚愕の声を上げる。私は剣を必死に引き抜こうとするが、狼の動きが激しくなる。剣が抜けないまま、私は狼の猛攻にさらされる。
「まっっっずぃ…!?おわッ!」
狼が私を振り落とし、残った片方の腕で私を押さえつける。
押さえつけられたあと狼の様子を見ると何をするか察してしまいこの後にどうなるか恐怖した。顔があったら病人と同じくらい真っ青になっていたと思う。
「あぁ…うっそでしょそれマジでいっっっっっっ!?」
なんと狼が私に向かって噛みついてきた。鎧を噛み砕くつもりとかどんな脳筋だよ!狼の鋭い牙が私の鎧に食い込み、金属が軋む音が響く。鎧の一部が噛み砕かれ、私の体が壊れていく感覚が走る。
なんとか拘束から抜け出そうとしても体はしっかりと押さえつけられていて身動き一つできそうにない。
「くっそ!。普通こんな鎧を嚙むとか思わないでしょうが!不味い不味い不味い!!ケンジさん!!助けてください!!」
私は必死に叫びながら、狼の牙がさらに深く食い込んでくるのを感じる。ケンジが魔銃を再び構え、狼の頭部に向かって狙いを定める。
「いい加減に…しろ!」
ケンジが引き金を引くと、魔銃から放たれた弾丸が再び狼の頭部に命中した。脳天を撃ち抜いたのか、苦しむ素振りなく再びその巨体を地面に倒れ込む。
「アルバ!大丈夫か!?」
「…し、死ぬかと思った…」
「お前身体が…」
「…え?もしかして結構やばくなってます?実は腕が今両方とも動かなくて…引き摺りだしてもらえませんか?」




