28.フラグだったんだなって
「あれか?」
ケンジが目を細めながら遠くを見つめる。月明かりが淡く照らす草原の中、3匹のバンデッドウルフの姿がうっすらと見える。
「あたりですね。残りの3匹です」
私が小さな声で答える。暗視の効果で見えているものの、あいつらの黒い毛皮は本当に見つけづらい。さらに彼らは身体を低くして隠れるように動いているため、見つけるのは一苦労だ。なんとか見つけたからここで絶対仕留めてやる。
「最初の一発はよろしくお願いしますよ?」
私がケンジに向かって言う。ケンジは深く頷きながら、銃を構えた。
「任せろ。ここなら当てられる」
そういやここからあの狼共までの距離って結構あると思うんだけどな…当てれるんだ。
ケンジは深く息を吐いて呼吸を整えてバンデッドウルフの一体に狙いを付けた。横目で私がいつでもいけることを確認すると引き金に指をかけ、バンデッドウルフが完全に静止した瞬間を狙った。
再び魔銃から大きな銃声と共に高速で飛来する弾丸が放たれ、バンデッドウルフの頭を撃ちぬいた。
バンデッドウルフの一体が倒れるのを確認した私はすかさず残りの2体へ突進した。
「援護する。安心して突っ込んでくれ」
「最悪私ごと撃ちぬいてもかまいませんので任せますよ」
仲間が撃ち抜かれたバンデッドウルフはさきほどとは違い、2匹揃って遠吠えをし始めた。
「え?急に鳴き始めた?」
「何か分からんがものすごく嫌な予感がする」
ケンジは眉をひそめながら言った。私もその異常な状況に不安を感じる。なんかめっちゃフラグ臭するんだがあれ
「奇遇ですね。私もです」
「急いで仕留めよう」
ケンジが指で右を指すのを確認した私は左側のバンデッドウルフへ接近する。私が近づいても様子が変わることなく吠え続ける。…私こういう系ちょっと見覚えがあるんだよね…これあきらかに”何か”呼んでいるよね?
「クイックスラスト!」
「スナイプ!マグナムショット!」
私とケンジがそれぞれアーツを放った。両者ともになんとか命中して残った二匹もこと切れたようだ。あー怖かった。絶対あれ時間経過でやばいのくるやつだったじゃん
「バンデッドウルフたちの…目論見は止めれたのでしょうか?」
「分からん。でも目標は達成できた。アルバ、ここは尻尾だけはぎ取って帰るのがいいと思うんだが」
うん私もそう思う。あんな露骨なフラグ絶対回収することになる。討伐の証だけあれば十分だよ欲張ったら死
「そうですね。急ぎましょう。さきほどからどうも嫌な予感がして…」
私とケンジは急いでナイフで尻尾を剥ぎ、袋に詰めた。
「よし。帰ろう」
そういうケンジの顔は若干青くなっている。かく言う私ももしかしたら兜が変色して真っ青になっているかもしれない。
「帰りましょう帰りましょう」
二人の震えた声に混ざって遠くから遠吠えのような音が聞こえてきた。
音が聞こえた私たちは思わず身体が跳ね、硬直してしまった。
「…まさか」
「…大きな狼さんがくるだなんて…」
私とケンジが顔を見合わせた後、近くの森からただならぬ気配が近づいてきた。草を掻き分け、障害となる木や枝をへし折りながら近づいてくる音が聞こえる。思わず二人でその方向を見ると、黒と血のような赤が混ざった毛色のバンデッドウルフの3倍はある大きな狼が出てきた。バンデッドウルフの特殊個体ブラッドギャングと呼ばれる大型の狼だ。
「「でたぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
私とケンジは驚愕と恐怖で声を上げた。すぐに背を向けて、慌ててベルミアのある方向へと走り出した。その背後からは怒りに燃えまくる狼の唸り声がする。
「やばいやばいやばい!!よくわからんが親玉みたいなの来たぞ!?」
ケンジが叫びながら振り返る。私は必死に走りながら答えた。
「バンデッドウルフの特殊個体のブラッドギャングです!ギルドの資料に載っていましたが最後に出現したのは10年前って書いてあったんですけどねぇー!!???」
「くそっ!俺こういうとき長く走れないんだがっ…!」
走りながらケンジのほうを見ると確かに息はすでに荒くなり始め、表情も少し歪んでいる。
まずいなこれ!?ここでケンジがこけたりでもしたら間違いなく腹の中だよ!?さすがにここで見捨てるとか100無理なんだが!?
「私は大丈夫ですけどね!!!ケンジさん!!!ちょっと私の分の袋持ってもらえますか!!」
私の言葉にケンジは顔を苦痛に歪ませながら必死に答えた。
「この状況でいう事かよ!俺はもう足もきついんだぞ!」
「なんとか私がケンジさん担ぐんで持っててください!!ここまで来たなら死ぬのもDランクになれないのもどっちも嫌ですから!!」
「”あ”ー”!!分かった!!早く渡してくれ!!」
走る私の腰からバンデッドウルフの素材を入れた袋をケンジに手渡す。彼は魔銃を仕舞ってから、袋をしっかりと握りしめた。
「いいぞ!!」
ケンジがじわじわとこちらへ寄ってきたのでタイミングを計る
「舌噛まないでくださいね!?行きますよ!」
私もケンジへ近づき、両手を構える。
「「せーのっ!!」」
「よいしょおぉぉっぉぉっぉぉ!!」
ケンジをなんとかつかみ、米俵のように担ぎ上げる!
「まじで担いだのか!?」
「力はちょっと自信ありますので!!!」
ケンジを落とさないようにしっかりと持ちながら私は必死に走った。いやほんと私アンデッドで良かった!!疲れって概念なかったらめちゃくちゃまずかった!!!!
だが、走っている最中に私たち二人は気づいてしまった。ケンジが疲労で脱落することは無くなったが、依然としてブラッドギャングは私達の背中を追ってきている。そしてここから逃げ続けても状況が何も変わらないことに
「ここからどうしましょう!?」
「さっき見た感じはベルミアまで1時間は掛かるぞ!?このままだと追いつかれる!」
ちっくしょー!!!放置してたら来るんじゃなくて遠吠えし始めた段階で終わりとか初見殺しにもほどがあるって!!どこのソフトウェアのゲームだよ!!!
クソクソクソクソ!!私だってこんなレース始めてだからどうしたらいいかわかんねぇよ!!一位から落ちた瞬間死が確定する闇のゲームだよ!!




