2話 私、分かっちゃいました
私は、何も知らなかった。きらきらって笑っていた女の子が、天族の王だったんだ。
あの女の子は、天族の王は、何を思って、そう言っていたんだろう。
「……ここへ来る時に挨拶へ向かったら、甘いものを土産として欲しいと言っていた」
「……」
「城下町へ行こう。姉に会いたいんだろう」
「……うん」
「あー、アディグアいたー!」
「転ぶから走んな」
「ふきゃ⁉︎」
あの時の、女の子。どうしてこんなところに。
「アディグアにお届け物なの。お急ぎでって事だから、可愛い生き物がおまかせされた」
「ありがとうございます。姫様」
「ふみゅ。あの時のミュニアなの」
「それ言うなら、あの時の天族なのだろ」
覚えていてくれた。ちょっと話しただけなのに。あれ?名前言ってたっけ?
「あ、あの」
「ヨジェドが心配してたの。過保護すぎって無視してきたけど。お外には自由に出れば良いと思う。でも、最後には、笑顔で戻ってきてあげて?あっ、でも、ヨジェドってミュニア大好きだから、恋人とか連れてきたら卒倒しちゃうかも」
「君が、一日だけ僕と結婚したって話も、現実逃避していたくらいだ。それが、永久だとなれば」
「面白そうだな」
「妹離れのために恋人を連れ帰るって手もあるかもしれないね」
楽しそうに話している。こうなれるまでに、どれだけの時間を要したんだろう。
「……みゅぅ。今こうして笑っていられる。それが全てだよ」
「そうだな。散々怒られたが、今こうして笑えてるんだ。だから、何の関係もない、今の天族が気に病む必要はない。ただ、それを覚えて、受け継いで、そんな事にはならないようにすれば良いだけだろ」
「って一番の被害者達が言ってんだから、気に病む必要ないんじゃない?」
「お前も入ってるだろ」
「僕は、あれのおかげで一日だけ結婚できたから」
「なら俺もだな。魔族の国にいさせる名目で結婚したから」
「……一番の幸せ者なの。大好きな二人といられた。みんな幸せなのぉ」
この人達は、今を生きているんだ。私も、過去の、自分が知りもしない事を気に病んでないで、今を生きるんだ。
当事者達が、天族を守ってくれた王が、幸せを望んでいるんだから。
「私、お姉ちゃんに会ってきます!絶対、絶対会ってきます!」
「うん。あの時の事を聞いて、そんな良い顔ができるなら、君の出自の秘密を知っても大丈夫そうだ」
「ふみゅ。きっと大丈夫なの。全部なんとかなっているんだから」
「そうだな。アディグア、頑張れよ。元魔族の王として、応援してる」
「……はい。話に聞いていたより、少々難しそうですが、精一杯やらせて頂きます」
「ふみゅ、次に会う時、良い報告ができる事を願うの」
「次会えるのがいつになるか分からないから、事前に祝いの品を用意したんだ。ちゃんと、それを使えるようになりなよ」
祝いの品って何か祝い事あるのかな。事前にって事だから、今後あるんだよね。
「二人とも、また今度ね」
次会う時、絶対に笑顔で会う。次は、宮殿で堂々と会えたら良いな。
そんな時が来てくれれば良いな。
「アディグア、お姉ちゃんに会いに行こう。案内頼める?」
「……ミュニア、城下町へ行きがてら、話がしたい。おれとミュニアの大事な話だ」
「うん。アディグアの話、聞きたい」
アディグアの話が、まさかこんな事だとは思わなかった。
ただ、城下町へ行くだけなのに、距離が分からなくなった。