1話 人間の国は天界と違うようです
人間の国。私が想像していた場所とは違っていた。
乾いた土地。灰色の景色。
想像とは違う、その景色は、他の場所へ行けば変わるのかな。私の中の不安が大きくなる。
きっと、村っていうところへ行けば、その不安も無くなるよ。村は、人が住んでいる場所だから、人の住みやすい、良い環境の場所に違いないよ。
でも、村なんてどこにあるのか分からない。適当に歩いて行けば、偶然村に行き着くとかってあるのかな。人間の国はどういう仕組みなんだろう。村は、どれくらいの範囲であるんだろう。
人間の国ではどんな文化が見られるんだろう。
……文化?
あぁぁぁぁ‼︎
忘れてた!
人間の国と天界だと、言葉が違うんだった!
今更、勉強してからまたくるなんてできない。そもそも、転移ゲートくぐって、偶然来れたけど、これ帰りはどうすれば良いのか分からない。同じ方法でいけるのかな。
何も考えずにここへ来た事で、色々と問題が生まれちゃった。でも、そのうち解決できるよ。世の中そういうふうにできているんだから。
「きゃ⁉︎」
誰かが、走ってきてぶつかった。
私は、ぶつかった衝撃で尻餅をついた。地面、思った以上に硬い。
「あ、くま?」
天族は真っ白い羽根。でも、悪魔は真っ黒い羽根。
ぶつかってきた子の背中から、ポトンと真っ黒い羽根が落っこちた。
この子は、私と同じなのかな。
「おれの秘密を知ってタダで済むと思うなよ!」
「おんなじだ」
思わず口に出しちゃった。
「えっ?」
「私、おんなじようなのを付けているの。私は、天族の羽根で、真っ白だけど」
「そんな種族の真似事と同じにするな!おれは、悪魔の第十王子だぞ!」
「そうなの?ごめんなさい。私は、天界に住む、天族のミュニア」
「天族?天族がなぜ、人間の国なんかにいる。まさか、王を探してなどとは言わないだろうな!」
どうしてそこで王が出てくるんだろう。
「違うよ。お姉ちゃんを探しているんだ。人間の国の王女様らしいの。そういう、悪魔の王子様は何しに来ているの?」
「おれは……ミュニアと言ったか。王を探していないなら、敵対するつもりはない。元々偵察のつもりだったが、和平のため、護衛をしてやろう。光栄に思うんだな」
ちょっと上からだけど、なんて言うか、そう見せようとしているだけ感がある。悪い子じゃなさそう。
「うん。よろしくね。悪魔の王子様」
「アディグアだ。そう呼べ」
「アディグア」
「姉を探すのだろう。知っている事を教えろ」
知っている事。何もないけど、良いのかな。とりあえず、お兄ちゃんが話していた内容を
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アディグアに、お兄ちゃんから聞いた話をした。それと、お姉ちゃんに会いたくて、天界から黙って来ている事も。
「で?金は?計画は?地図とか知っているのか?ここがどこかも把握済みか?」
「全部ない」
そんなのが必要になるなんて、考えてなかった。
でも、きっと何とかなるからいっか。
「なぜそれで笑っていられる⁉︎」
「にこにこ笑顔なのが取り柄なの。アディグアは、しっかりしていそうだね。それに、すごい物知りそう」
「当然だ。おれは、悪魔の王子だぞ。そのくらい知らなくてどうする」
王子は、物知りな人って事なのかな。アディグアの言い方だと。なら、王はどれだけ物知りなんだろう。どうして、そんな物知りな人が、天界を去ったんだろう。
「ミュニア、数日間、見知らぬ場所で一人で出かけるという危険性を、じっくりと教えてやろう。理解できるように、じっくり、みっちりと」
じっくり二回言った。みっちりまで増えてる。でも、勉強は嫌いじゃ無いから、この講習も勉強と思って受ければ良いかな。
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講習、一時間以上続いた。こんなにこれだけの話題で話せるなんて。こんなに色々とあるなんて。
ためになったかと言われれば、迷わずためになったと言う。そんな有意義な時間だった。
計画の必要性とかも、ちゃんと理解した。それに、人間の国は、想像以上の危険な場所という事も理解した。
「それをしてなかったから不安だったんだ」
知っていれば、やっていればもっと不安がなかった気がする。
「不安だと思ってたなら、やれよ!」
ご指摘ごもっとも。でも
「そのおかげで、アディグアと会う事ができたって思えば、無計画も良かったのかもしれないよ」
「はぁ……夜は危険だから寝るぞ」
「うん。おやすみ」
講習で、人間の国の夜がどれだけ危険なのかも教えてもらった。魔物とかっていう、凶悪な怪獣が、ウロウロしているんだって。
バレないように夜に出たけど、早朝の方が良かったのかもしれないね。
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朝の人間の国は、天界とは違う。とても、眩しくて、目を瞑りたくなる。
「王女に会いに行くなら、こっちだ」
アディグアについていけば大丈夫だよね。
「そういえば、王を探してないとか言っていたけど、アディグアは王に詳しいの?王はどこへ行ったか知ってる?いつ帰ってきてくれる?」
「……王とその頃の歴史はどれだけ知っている?」
歴史は、勉強したから、少し知ってる。それが、王を知っているかどうかに関係するのかな。
「三大種族の天族、魔族、精霊の時代。各種族、宝剣で王が選ばれた。三大種族を脅かす、強大な魔物を目の前にして、三種族の王は、宝剣を重ね合わせて、同盟の力で浄化した。その後、三大種族の同盟関係は、深くなって、いつまでも、それが続いた」
「ヨジェドは教えなかったのだな。だから、王が帰ってくるなどと言えたか」
アディグアがお兄ちゃんを知っているって事もびっくりだけど、どういう事?王は、帰ってくるんじゃ無いの?
「……天族の王は、天族の策略により翼を奪われた。天族に蔓延した呪い。それを、全て王の責任であると、天族は、王を自ら、処刑した。天界から、翼を奪い、落とした」
「じゃあ、王は」
「魔族の王と精霊の王が、瀕死だった天族の王を助けた。魔族と精霊の国で、天族の王を匿った。助かったとは言え、天族が、彼女にした事は消えない。あんな、華奢で儚い少女に、天族がどれだけの傷を作ったのか。それは、天族として育ったのなら知っておくべきだ」
お兄ちゃんが王の話をしたがらなかったのは、そんな理由があったなんて。
天族がした罪の重さに、私は関係ない。そんな言葉が出そうになった。
でも、私だって、天族として育った、生まれた時期が違えば、その場に居合わせたかもしれない。ううん、もしかしたら、転生前にいたのかもしれない。
だから、そんな責任逃れの言葉は飲み込んだ。
「……天族の王と魔族の王と精霊の王の結末も、知らないだろう。あれは、天族の半数が知らない。聞きたいか?」
「うん」
「天族は、魔族の国を攻め落とそうとした。元々、仲が悪かったから不思議な事はない。天族が大軍で魔族の国へ来た時、魔族の王は一人で天族達の前に立った。天族の王と、他の魔族達を一人で守るために。魔族の王は、天族達とある約束事をした。自らの命と引き換えに、魔族達、そして、愛する天族の王と精霊の王に手を出さない事」
「……」
「天族はそれに応じた。応じるしかないだろう。魔族の王は、応じなければ、一人で天族を全滅させると宣言し、それをできるだけの力を見せつけたのだから。それに、王が消えれば、魔族は自然と消えるとでも思ったんだろう。魔族の多くは、平和を望み、戦いを嫌ったから」
「……」
「魔族の王は、天族の姫にとって、精神的支えだった。その大切な存在を失った天族の姫は、魔族の王の亡骸の元へ行き、一晩中泣いた。精霊の王は、天族の姫を娶った。ただ、一日だけ。その後、天族の王と精霊の王は、魔族の王の後を追った」
言葉が出ない。私、そんな事も知らずに、王がなんでいないんだって言っていたんだ。王は、いるわけないよ。だって、そうしたのは、他でもない、私達天族なんだから。
天界での居場所を奪っただけじゃなくて、王の大切な存在まで奪っていたんだ。
「ヨジェドは、王を守ろうとした。だが、王の頼みには逆らえなかった。自分優先しろとの、王の最後の命令には」
「……王は、優しい人だったんだね」
「優しいというかレベルではない。おれも、何度かあの時代に話した事がある。魔族と天族の争いに、各所に回って謝罪して、復興活動にも協力して、裏切られたと悲しんでも、恨みはしない。怒りはしない。甘いものが好きで、可愛らしく、魔族にとって、大切なお方だ」
『今の天界は、とってもきれいだね。イェリウィヴァも、この雰囲気を気に入ってる』
『お前はどうなんだ?』
『甘いものいっぱいはなしだよ?』
『なんだか、きらきら』
……分かっちゃった。
前に天界で、遊んでいた時に会ったんだ。
その時、思わず声をかけちゃって。
『そうだよね。きらきらって私も思っていたんだ。こんなところで、同じ感性の人に会えるなんて』
私がそう言ったら、彼女は
『ふみゅ。そうなの。きらきらなの。きらきらすき?』
って、笑って聞いてくれた。