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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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百合短編

つなぎとめるもの

作者: 転生新語
掲載日:2024/03/15

 カズオ・イシグロが書(か)いた小説(しょうせつ)に、『わたしを離(はな)さないで』という作品があったなぁと、私は考(かんが)えていた。社会から見放(みはな)された存在(そんざい)の物語(ものがたり)だ。


 何(なに)かの例(たと)え話(ばなし)を脈絡(みゃくらく)なく、また私は思(おも)い出(だ)し、考(かんが)えていた。こんな話(はなし)だ。『この世界の、社会の何処(どこ)かに、隔離(かくり)された赤(あか)ん坊(ぼう)がいると想像(そうぞう)してください。赤(あか)ん坊(ぼう)は独(ひと)りきりです』。


 そして話(はなし)は、こう続(つづ)く。『誰(だれ)からも存在(そんざい)すら知(し)られていない赤(あか)ん坊(ぼう)がいて、その赤(あか)ん坊(ぼう)が死(し)ぬとしても、社会や世界は関心(かんしん)を持(も)ちません。皆(みな)に取(と)っては、存在(そんざい)しないも同然(どうぜん)だからです。つまり我々(われわれ)は、人権(じんけん)や生命(せいめい)を無視(むし)された時(とき)に、この赤(あか)ん坊(ぼう)と同様(どうよう)に死(し)んでいくのです』。


 こんな内容(ないよう)だった気(き)がする。何処(どこ)で読(よ)んだのかも思(おも)い出(だ)せないような話(はなし)だし、記憶(きおく)違(ちが)いかもしれない。それでも妙(みょう)に納(なっ)得(とく)させられたものだ。




 私という女性一人(ひとり)が死(し)んだところで、何(なに)も問題(もんだい)はないだろう。社会も世界も変(か)わらず動(うご)いていくはずだ。私の恋人(こいびと)である彼女を除(のぞ)けば。


 私といても幸(しあわ)せになれるかは分(わ)からないのに、決(けっ)して彼女は私から離(はな)れようとせず、私を離(はな)そうともしなかった。今(いま)も私は、魂(たましい)の奥(おく)深(ぶか)い部分(ぶぶん)を彼女に掴(つか)まれている。あるいは私が、彼女へ縋(すが)っているのか。暗闇(くらやみ)の中(なか)で、互(たが)いの手を握(にぎ)り合(あ)っている感触(かんしょく)があって、そのお陰(かげ)で私は闇(やみ)の中(なか)へ引(ひ)き込(こ)まれずに済(す)んでいた。


『絶対(ぜったい)に、離(はな)さないで』


 彼女の想(おも)いが、掌(てのひら)から声(こえ)のように伝(つた)わってくる。少(すこ)しずつ意識(いしき)が、はっきりしてきた。脈(みゃく)絡(らく)のない思考(しこう)の中(なか)で眠(ねむ)るのは、そろそろ終(お)わりだと自分(じぶん)の身体(からだ)が教(おし)えてくれる。目(め)を開(あ)けた時(とき)に見(み)える世界は、白黒(しろくろ)で味気(あじけ)ないものかもしれない。でも彼女が彩(いろど)りを与(あた)えてくれるなら、きっと世界の風景(ふうけい)は変(か)わる。




 目(め)を開(あ)ける。病室(びょうしつ)の天井(てんじょう)が最初(さいしょ)に見(み)える。面白味(おもしろみ)のない景色(けしき)で、でも私は目覚(めざ)めることができたんだなぁと実感(じっかん)した。そして見(み)なくとも、ベッドで寝(ね)ている私の手(て)を握(にぎ)っているのが誰(だれ)なのかは分(わ)かる。


「お帰(かえ)り」


 涙声(なみだごえ)で恋人(こいびと)が言(い)う。「ただいま」と私も涙声(なみだごえ)で返(かえ)した。

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