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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いいかげんクエスト

いいかげんクエストII

作者: 下書き

前の話はこちらです。

https://ncode.syosetu.com/n4096hk/

「え、普通に嫌なんですけど」

「嫌なんですけど」


 僕の言葉に続いて座敷童子(ざしきわらし)も復唱するように拒否した。


 旅の途中、ふと立ち寄った王国で捕えられた僕達は、藪から棒に王様から「いまから魔王を倒してきてね」という戯言(たわごと)(たまわ)った。

 正にその次の瞬間に口から出ていたのが先の言葉だ。


「光の勇者よ! そなた達なら必ぢゅや魔王を倒し、この世に平和を取り戻すことができるであろう!」

「嫌ですよ」

「あ、噛んだ」


 王様が噛んだのはさておき、真顔で「魔王」とか「光の勇者」とか発音されると聞いているだけて恥ずかしくなるのだが何とかならないものか。この僕の「リアル中学生」という身の上をもってしても恥ずかしいのだから大概だ。

 とは言え、そういう存在が実在する世界だから仕方ないのかも知れないが、ハイテクハイビジョンの世界で育った僕にはどうしても「魔王」とか聞き慣れなくて違和感が凄い。それでも、この世界の常識を(かんが)みれば異端なのは僕達の方だろうから文句を言うのはお門違いなのは理解できる。


 それはともかく、先の話に出てきた「光の勇者」というのは、この僕「柴田(しばた)覚郞(かくろう)」……の事ではなく、連れの座敷童子(ざしきわらし)のことだ。入国審査の時に僕達の素性をアレコレ調べられたのだが、その時に座敷童子が強い光属性を持っている事が判明し、そのまま勇者に祭り上げられたのだ。僕達は故郷に帰りたくて旅をしているだけなのに、迷惑な事この上ない。


 それよりも「光属性とは何なのか?」という話なのだが、これはそのまま「光の力を使うことが出来る」というものだそうで、具体的には、自在に光を灯す事ができるという。

 早速座敷童子に試して貰ったところ、その小さな掌から野球ボールほどの大きさの光の玉が出た。それは実に眩しかったのだが、攻撃力的なものは皆無だった。触れてみても何もなく、ただ光っているだけなのだ。

 光を灯すだけの能力が何の理屈で勇者などと有難がられるのかは不明だ。

 ちなみに僕はといえば「なんか闇属性っぽい」そうだ。なんだそれ。


「しかし、魔王の討伐をたった二人で成し遂げるのはいささか大変であらばっ、……大変であろう。そこで、王国の勇士を一名、旅の伴として遣わそう」

「だから引き受けてませんって」

「ぜんっぜん人の話を聞いてくれないですね」


 また噛んだし。



-/-



 すったもんだの末、結局魔王討伐に遣わされる事になった。


 そして、謎の基準で選ばれた四人の「王国の勇士」の中から一人だけ選ぶ……、というか付いて来てくれるのが一人だけってどういう事なのだろう。

 魔王討伐だなんていう大役を任せるのだから、せめて一個小隊くらい手配してくれても良いのではないのか? 魔王の討伐とは重要な任務なのではないのか? それとも魔王と言うのは名ばかりで実は無茶苦茶弱いのか? だったら討伐しなくても良いだろうし?


 どうにも釈然としないが仕方ない。仕方ないから仕方なく仲間候補を紹介して貰うと、そこにはめくるめく世界が待っていた。


「おっす! おいらはライム! 火属性の戦士だぞ!」

「私はカオス。水属性の僧侶よ」

「ハァイ! モビルモ……アタシはマイスト。人呼んで突風のマイスト! 風をあやつるわ」

「おいどんはバロンでゴワス! 大地の力の化身でゴワス!」


 挨拶をしてくれた順に説明すると、少女、お姉さん、マダムそしてオッサンだ。

 バラエティー豊かなのは良いのだが「魔王討伐の仲間」として考えると何か違う気がする。ともかく、それぞれにヒヤシンス……もといヒヤリングして誰が最も戦力になりそうか確認した。


 まずは最初に挨拶してくれた少女、ライムさんだ。火の属性を持つ彼女は自在に火を灯す事ができる。それは確かに素晴らしい技能なのだが、いかんせんその火が小さすぎた。その火の小ささを例えるなら「お誕生ケーキに突き刺さったロウソクの火」だ。種火や暗いところでの明かりには使えるだろうが、これを戦力として考えると落第点しかつかない。それでも身体能力は優れているので総合的にはそこそこ戦力になるとは思う。アリかナシかで判定するとまぁまぁアリなのだか、例によって人の話を聞かないのと、喋り方が某有名作品の主人公ぽくて危険な気がしたのであえなく候補から消えた。


 次に妖艶なお姉さんであるカオスさんだが、僧侶だてらに身体能力はライムさんに匹敵する程もあり、肝心の性格も問題なかった。しかも「自由に水を産み出せる」という水属性の特色は、たとえそれらを無しにしても益がある強力な利点だった。なにしろ旅の最中に清潔な飲み水を確保する手間が無くなるのだ。彼女が居れば水の心配が無くなり、水筒で水を運ぶ手間もなくなる事から荷物も減る。道中の負担軽減を考えると彼女以上の選択肢はないと思える。だから、彼女が非常に見目良くしかもナイスバディなのは選考には全く関係ない。関係ないのだ。


 そしてマイストさん。紹介された四人の内三人が女性なのだが、この女性率の高さは何なんだろう。それはさて置くとしても、ハッキリ言って彼女を旅に連れていく選択肢は無かった。何しろ彼女はいわゆる新聞記者だそうで、戦闘経験は皆無なのだそうだ。その身に宿す風属性も大した力はなく、街頭演説する時に少し声を通りやすくできる程度だという。正味の話、「無い」ということで座敷童子とも意見が一致した。


 最後の一人、バロンさんは本業石工(いしく)で兼業護衛兵という壮年の快人物だった。大地の力とはよく言ったもので、何も無いところからポンと巨大な岩石を作り出すのは凄まじいものがある。空中に造り出された岩石がその真下にもたらす破壊力など想像しただけでも恐ろしい。しかし温厚な気性の彼は、普段はその力を使って城壁などの補修を生業にしているそうだ。身体能力については筋骨隆々の見た目通り素晴らしいもので、戦闘経験もそれなりにあるそうなので、この人がついて来てくれると非常に心強いだろう。


 四人から一通り話を聞き終えて座敷童子と協議する。座敷童子はバロンさん推し、僕はカオスさん推しだ。

 小一時間ほどの協議の結果、連れて行く仲間はバロンさんに決定したのだが……、嫌だ僕は絶対カオスさんがいいのにやまにこはねこゎらり! ら



-/-



 そうしてめでたく、魔王討伐の旅にはライムさんが憑いてくる事になった。


「おっす! 魔王討伐までよろしくな!」

「なぜだ!?」

「なんで!?」


 そうだった。王様は「基本的に他人の話を聞いていない」事を忘れていた。今回の敗因はそれだ。多分。きっと。


「よし! じゃあ早速聖剣を取りに行くぞ!」

「えっ!? 聖剣があるの!?」

「あるの!?」


 不本意ながらライムさんに先導されて聖剣を探しに旅立た……なかった。行き着いた先は、王都内の路地裏にある古びた工房で、城から歩いて2分もかかっていない。


 まさかこんな所に聖剣が眠っているのか?

 いや流石にそれはナイだろうから、ここではきっと何か聖剣に繋がる手掛かりを


「おっちゃーん! 聖剣を受け取りに来たぞ!」

「ここにあるの!?」

「あるの!?」


 唖然としていると店主のオッサンが「おう、少し待ってろ!」とか言って店の奥から何かを運んできた。


「ほらよ、バッチリ整備しといたぜ!」

「えええっ!? そんなまさか!? これが聖剣!?」

「これが聖剣!?」


 店主のオッサンが「聖剣」と呼ぶそれは僕達の想像を遥かに超える威容を誇っていた。

 聖剣の中心部には重厚に鍛え上げられた金属の塊が鎮座し、それを支えるように前後に並んだ二つの車輪は深く黒く輝いている。正面の中央部分には大きな宝石が嵌め込まれており、そこから左右に突き出した持ち手はさながら闘牛の角のようだった。中心部にある金属塊の右側面から後ろに跳ね上げられた二本の筒は鈍く光り、そしてそれらをまとめ上げる純白の外装は一種の神々しさを放ち、見るものを圧倒する。

 これが聖剣! いや、これは聖剣と言うよりも、


「そう、これこそが『聖剣オカサーファーTGZ-75』だ」

「これバイクじゃん!」

「バイクじゃん!」


 妙にでかいのを除けばどこからどう見ても立派なモトクロッサーだった。

 聖剣のイメージからかけ離れた物体の登場に思わず突っ込みが口から迸ったが店主のオッサンは怯まない。


「エンジンは4ストローク空冷直列4気筒DOHCインタークーラー付きツインスクロールターボだ。排気量は本来749ccだが、一気筒死んでるから今は560ccくらいか? 出力は、故障していなけりゃ9000回転で100馬力超を叩き出すハズだが……、まぁその内直してやるから安心しろ。サスはハイドロを組んであるから車高も調整し放題。ブレーキはドラム&ディスクのハイブリッド式採用で制動力はピカいちだ。ECUは最新の(おつ)80(ハチマル)プロセッサーをオーバークロックして積んである。ソフトも現車合わせでチューニングした。ああ、もちろん一気筒死んでる前提で調整してあるから安心しろ。主砲はまだ積んでないが、これも最新の62ミリ機関砲『マキビシブラスター62』を用意してある。どうだ、こんなモンスターマシンは他にないぞ」


 突っ込みどころが多すぎてどうにかなりそうだが、とにかくこの世界での聖剣はバイクの事らしい。店主のオッサンは「コイツならツール・ド・フランスで爆勝(ばくしょう)できる」とかほざいているがそりゃそうだろうよ。

 座敷童子が「レギュレーション違反で失格ですよ」とかモノローグに突っ込みを入れてきたが例によって以下略。


 もはや真面目に考えると脳がオーバーヒートする可能性が出てきた為、僕も座敷童子も心を無にして話を進める事にした。

 ひとまず、聖剣(オカサーファー)に座敷童子を乗せてみる。


「おう、地面に足が届かんな」

「ペダルにも届かないな」

「足が届いても運転できる気がしないのですが」


 結局、聖剣(オカサーファー)は僕が運転することになった。そして座敷童子は僕の後ろにしがみつき、ライムさんはサイドカーに着席した。


「サイドカーはおまけだ」

「サイドカーとか初めて見たわ。てか、なんか一気に恥ずかしい感じになったんだけど」

「落ちそうで怖いんだけど」


 座敷童子には気合を入れてしがみついて貰うしかない。

 そしてオフロードバイクにサイドーカーを括り付けるのは新しいかもしれない。



-/-



 聖剣(オカサーファー)を手に入れた後は、テキトーに武器防具を見繕ってから旅に出た。その際、武器がトンファーしか売ってなかったり、ライムさんが買ってきた「革のドレス」がどう見ても黒革のボンデージだったりと色々と難点はあったが、心を無にした僕達にはその程度は屁でもない。

 無論、ライムさんが美少女なのであれば良かったのだが、残念ながら微少女……、いや何でもない。


 そして肝心の目的地である魔王城の場所だが、王都の北側にある谷を越えた先だという。その距離は歩いてざっと6時間だ。非常に近い。もはや聖剣(オカサーファー)に乗っていけばあっという間だろう。

 そんな訳で、只今は絶賛聖剣(オカサーファー)に乗って爆走中だ。


(むぅす)んだバイクで(はァし)りだすぅー」

「うわあああやめてくれ!」

「JASRACが来るからやめてくれませんか?」


 ライムさんが怪奇な歌を口ずさみ始めたので咄嗟に制止の言葉を叫んでしまった。

 座敷童子の突っ込みは最早いつものアレだからスルーだ。


「なんだ? おめぇら、この歌を知らねぇのか?」

「いや、知ってる……ような気がするけど」

「知ってるか知らないかとかじゃなくて、とにかく歌わないでくれませんか?」


 JASRACもそうだが、それでなくても何故かはわからないが歌わせてはいけないような気がする。


「この歌はな、ある勇者がその若さから溢れ出す心の叫びを真っ直ぐに叩きつけた伝説的な歌なんだぞ」

「や、だからそれは何となく知ってる……ような気がするんだけど」

なろうの利用規約(世界の掟)に反するかもしれないので、ホントにやめてくださいね?」


 心の叫びをそのまま歌に……、と言うとアレだ、うまくハマれば人の共感を呼びまくる名曲になるけれど、一歩間違えれば黒歴史になるやつだ。


「よっしゃ! 知らねぇなら仕方無ぇ! おいらが歌ってこの素晴らしさを教えてやっぞ!」

「いや、だから、その歌知ってるって!」

「あー! もう! だから歌っちゃダメです!」


 二人がかりの制止もむなしくライムさんのワンマンショーが開催されてしまった。

 目を閉じて朗々と歌い上げているが、その歌声はなかなか素晴らしい音痴さ加減だ。

 ハッキリ言って耳が腐りそうなので最早これまでと判断し、左手の親指部分にあるボタンを押し込んだ。これは聖剣(オカサーファー)からサイドカーを切り離すためのボタンだ。緊急用だと説明されたが、今正に緊急であるからして使いどころは妥当だろう。


 直後に聖剣(オカサーファー)の後部辺りでバキッと破裂音がした。恐らくは聖剣(オカサーファー)とサイドカーを繋ぐジョイントが外れたのだろう。ライムさんの方を振り向くと、ちょうど聖剣(オカサーファー)からサイドカーが離れていくところだった。折しも丁度崖っぷちを爆走中だったのが幸いし、切り離されたサイドカーと、それに乗ったライムさんはそのまま崖から落ちていった。

 視界から消える最後の瞬間まで彼女は熱唱していた。


 彼女の前途の多幸を願ってこれを贈ろう。


 光明真言(こうみょうしんごん)

 おん あぼきゃべ以下略


 成仏せえよ。



-/-



 大きな大きな犠牲を払いながらも、魔王城にたどり着いた僕たちはついに魔王に相まみえた。

 魔王は黒光りする全身鎧を装備した巨漢だった。

 相対すると、顔まで覆い尽くした兜の奥から、鋭く反響する声が響き渡る。


「よくぞここまでたどり着いたでゴワス! しかし、ここが貴様らの墓場でゴワス!」

「あの……、あなたバロンさん、ですよね?」

「ですよね?」


 率直に問うと、ビクゥ! と魔王の肩が跳ね上がった。


「ちがちがちがちががっ! ちがちががが違うでゴワス! おいどんはバロンなんて知らんでゴワス!」

「落ち着いてください。動揺が声に出ちゃってますよ」

「語尾がバロンさんですよ」


 なんとバロンさんが魔王だった。

 魔王なのに男爵(バロン)とは中々の濃さだ、等と考えているとピタリとバロンさんの動きが止まった。


「よく考えたら別にバレても問題なかったでゴワス」

「切り替えが早いですね」

「おなか減った」



-/-



 落ち着いたバロンさんに話を聞くと、一切の経緯(いきさつ)が明確になった。


 なんでも、今ある王国から独立して新しい国を創る事になり、バロンさんがその新しい国の王様になるのだという。


 まぁまぁ衝撃的な話だ。 と言っても所詮他人事(ひとごと)なので「あーそうなの」程度の反応しかできないが。


 しかし、ナゼ独立するのかといえば、現国王一派が長期にわたって面白政治を続けているせいで国内各所のアレやコレやがハチャメチャなのが原因だという。

 思い返してみると、確かにあの王様をピラミッドの頂点に据えた国ならそこそこやヴぁいのかもしれない。数分間しか会っていないので厳密な判断は出来ないが、人の話を全く聞かないあの感じが常なのであれば相当なものだろう。


 経緯はともかく、そういうわけで、今は現王国の国民として生活しながら秘密裏に移住の準備を進めているのだそうだ。

 まずは、それなりの人数が生活できる拠点を作っている最中なのだという。

 そして「魔王」などと名乗っている理由は、そう名乗っておけばビビッて攻め込んで来ないだろうと考えてのことらしい。

 そんなので大丈夫なのかと思うが、実際に効果があったようで、僕たちがこの国に到着するまでは何のちょっかいも出されなかったそうだ。


 纏めると、結局コトの次第は王国内の内輪揉めでしかなく、部外者である僕と座敷童子が首を突っ込むような問題ではない。


 そういう訳で、魔王(バロンさん)の討伐は中止とし、僕たちはバックレる事にした。


「じゃあ僕らは行きますね」

「ラーメンご馳走様でした!」

「達者で旅を続けるでゴワス」


 さぁ旅立とうと聖剣(オカサーファー)に跨りスターターを蹴ったところで謎の声がかかった。





「ハァイ! お久しぶりね!」





「あれ? マイストさん?」

「マイストさんだー」


 気が付くと背後にマイストさんが立っていた。


「ええと、マイストさんも移住するんですか?」

「移住するんですか?」

「まさか衛兵バロンが魔王だったとはね。驚いたわ」


 その声と共に、ざわりと風が吹き抜けた。


「気を付けるでゴワス! マイストは王国の裏組織の人間でゴワス!」

「え? 何? 裏組織?」

「なんか嫌な予感が」


 辺りを見れば、薄く巻き上がる砂塵が僕たちを取り巻き始めている。

 そして、その中央に立つマイストさんが頭上に杖を翳しながら叫んだ。


「ウィンド・(うず)!」

「これは!? 風の力!?」

「すごいです! 渦巻いています!」


 マイストさんの声と共に、渦巻く風が強さを一段増した。


「うおお! すごい砂埃だ!」

「ゴーグルは!? ゴーグルありませんでしたっけ!?」

「私の風は、まだまだこんなもんじゃないわよ! 次の段階を見せてあげる! ウィンド・(うず)! 3.1スリー・ポイント・ワン!」


 更に強さを増した風に吹かれて、右目に激痛が走った。


「ぎゃあああ! 目にッ! 砂がッ!」

「あああ! こすっちゃだめですよ! おめめパチパチして!」

「まだまだ上があるというのに他愛もない! ウィンド・(うず)! 95(ナインティーファイブ)!」


 背後からバロンさんの絶叫が聞こえてきた。


「おいどんの(かぶと)……、カツラまで飛んで行ったでゴワスー!」

「あああっ! バロンさんが!」

「たたみかけるわよ!! ウィンド・(うず)! 98(ナインティーエイト)!! ……からの! SEセカンド・エディション!!!」


 容赦なく降り注いでくる砂塵に巻かれながらもなんとか聖剣(オカサーファー)にしがみ付いて居るのだが、もはや目を開けることもかなわず、頭を腕の間に伏せた隙間で辛うじて呼吸をしているだけの状態だった。

 風と砂塵の奏でる騒音は濁流のように僕の聴覚をもぎ取っていく。だが、そんな中でもマイストさんの声はハッキリと耳まで届いてくる。


「そろそろお終いにしましょうか! ウィンド・(うず)!! Meミレニアム・エディション!!!!!」

「……!」

「……?」


 その時、風が凪いだ。



-/-



「流石に、一時はどうなる事かと焦ったな」

「ギリギリだったでゴワスな」

「しくしく……。 まさかVMM32ドライバーがクラッシュするだなんて……」


 マイストさんが手にしていたVMM32ドライバー()は、彼女の風の力を増幅するものだったらしい。それががポキリと逝ったお陰で助かった訳だ。

 彼女は今バロンさんによって岩石の棺で拘束されている状態だ。顔だけ見えるようになっているのは彼の優しさなのか、それとも厳しさなのか。


「全身がジャリジャリで非常に不愉快です」

「バロンさん、風呂貸して貰えませんか?」

「ああ、いいでゴワスよ」


 言いながら座敷童子が紫外線でマイストさんの額を焼いている。


「やめて! じわじわ熱い! じわじわ熱いわ!」

「光属性って結構色々出来たんだなぁ」

「確かに、赤外線や紫外線、X線に、果てはガンマ線まで出せるなんて驚きでゴワス」


 試してみたら出来た、とは座敷童子の言葉だが、どうかガンマ線はやめてほしい。


 流れる雲を見上げながら、長い長い溜息を吐き出す事になった。



-/-



 その後、彼らがどうなったのか? それはまた、いつか機会があれば。

例によって当短編は、「思いついたは良いが使い道の無いネタ」の墓場です。

筆者が普段からどれだけ下らないことを考えて生きているかが良くわかりますね。

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