表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その決闘(デュエル)の後始末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/223

その決闘(デュエル)の後始末 Ⅰ

 イヤル・ライザックは、オッタのゴールを見届けると薄い笑みを唇に浮かべ、満足気な表情を見せる。だが次の瞬間、拡声器から告知(アナウンス)された勝者【クラウスファミリア(クラウスの家族)】の名に、唇から笑みは消え、険しい表情のまま、上に向かう回廊へと踵を返した。怒りすら見せるその表情に、人々は道を開け、イヤルは人の輪の外へと足早に消えて行く。


 チッ!


 心の中で激しい舌打ちを繰り返し、やりきれない悔しさは募るばかりで消化出来ない。

 イヤルの中で今回の決闘(デュエル)は、【ノーヴァアザリア(新星のアザリア)】と【ライアークルーク(賢い噓つき)】の代理戦争の様相を呈していた。


 そしてまた負けた。


 何を見誤った?


 足早に歩きながら、心の中は曇ったままで、視界は地面を踏みしめる自身の足だけを映し、周りの世界から自身を隔離する。

 50万ルドラなど、どうでもいい。【ノーヴァアザリア】に負けたという思いが、イヤルを激しく苛立たせ、暗然とさせていた。


「イヤルじゃねえか?」


 負傷した男を背負う、いかつい男を一瞥だけして、イヤルはそのまま上へと向かう回廊へ足早に消えていった。


「なんでぇあの野郎、無視しやがって⋯⋯」


 脛をへし折られたボリスを背負うエルンストは、イヤルの態度に眉をひそめる。


「あいつ、何をそんなに急いでいるんだ?」


 ズキズキと痛む後頭部を押さえながら、ロージーもイヤルの消えた回廊へと振り返る。魔力切れ(マインドレス)状態のクレールは、イルに肩を借りながらおぼつかない足取りを見せ、肩を貸しているイルのこめかみも赤黒く腫れていた。

 満身創痍のパーティーは、やっとの思いで15階緩衝地帯(オアシス)へと辿り着き、フラフラになりながらも、勝利を確信している足取りは重くはなかった。痛みに顔をしかめながらも、心持ち良くゴールを目指す。


(けっ!)

(どの面下げてー)

(C(クラス)に⋯⋯)


 【レプティルアンビション(爬虫類の野心)】に向けられる突き刺す視線に、エルンストは眉をひそめる。怒りや拒絶、卑下する視線は、パーティーの思惑を外れ、だれもが【レプティルアンビション】を遠巻きに覗き、関わろうとしなかった。

 

 勝者として称えられるはずでは?


 自分達にとっては異常とも思える状況に、エルンストは焦燥に駆られていく。遠巻きに注がれる怒りを孕む冷たい視線に、自分達の思惑は大きく外れたのではないかという疑惑が、頭をもたげ始めた。


「おい、ねえちゃん、治療師(ヒーラー)がいるんだろ? 【クラウスファミリア(クラウスの家族)】にやられたんだ。こいつを頼む」

「承知いたしました。あちらに控えておりますので、どうぞあちらへ」


 エルンストはギルドの職員(エルフ)を捕まえ、口早に伝えると職員の指差す方へと向き歩き始めるも、すぐにその足を止めた。


「なぁ、ちなみにだ。勝ったのどっちだ?」

「【クラウスファミリア】ですけど⋯⋯?」


 今さら何を言っているのだとばかりに首を傾げる職員の言葉に、エルンストは茫然と立ちすくむ。


 あの状況で兎が負ける? そんなバカな⋯⋯。


「おい、適当な事言ってんなよ。なんで負ける? オレ達が負ける訳がねえ!」

「⋯⋯そうおっしゃられても、【クラウスファミリア】の勝ちですよ」

「兎があの小僧に負けたってのか? そんなものインチキだろうが!」

「インチキ? あ! なるほど。いえ、兎人(ヒュームレピス)の方が先にゴールしました。ですが、先にアイテムを届けたのは【クラウスファミリア】です」

「はぁ?! 兎の野郎、アイテムをパクられたクセに、先にゴールしたってのか!!」


 口泡を飛ばし、まくし立てるエルンストに、職員も困り果て、なだめるのに必死にだった。


「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。兎人(ヒュームレピス)の方が、持ってこられたのは【スライムの胚】で、【シルバースライムの胚】ではなかったのです」

「はぁ? 【スライムの胚】⋯⋯だと⋯⋯」


 ようやくここで、現状が理解出来た。自分達の中で有り得ない事が起きたのだと。

 エルンストだけではなく、ロージーも、イルに抱えられているクレールも顔を上げた。さっきまであった余裕はものの見事に砕け散り、有り得ないと思われていた最悪のケースが、今まさに身に降りかかる。

 エルンストは、頭の中で映像を巻き戻していく。グリアムの投げたアイテムが放物線を描き、オッタが見事にキャッチしたところで、映像は一時停止する。


 あのマスク野郎が放り投げたのは【スライムの胚】⋯⋯あの時点でオレ達は、一杯食わされていたって事か!


「エルンスト、どうすんだよ!? この先どうなるんだ!?」

「うるせぇ! 分かっている。少し落ち着け!」


 怒鳴り合うロージーとエルンストだが、エルンストは険しい表情のまま、思考を巡らす。ただ、負けたという衝撃は、そう簡単に払拭出来る訳もなく、常に思考の邪魔となった。

 呻き声をあげているボリスを背負ったまま、エルンストは立ちすくんだまま動けず、落ち着けと自身に何度も問い掛けた。


「いや、待て。負けたら、あいつらの傘下に下る⋯⋯だが、所詮C級だ。パーティーとなりゃあ、助っ人もいねえ。だったら、折を見て、オレ達が乗っ取ればいいんじゃねえのか?」

「パーティーの財産はどうする? 没収だろ?」

「なぁ~に、先に戻って隠しちまえばいい。そんで、乗っ取った後に、そいつを使って、パーティーをさらにデカくするんだ。そんで【クラウスファミリア】をこき使って、骨の髄まで搾り取ってやればいい」


 欲まみれの思考は、自分達に都合よく解釈をする。


「とりあえず、ヤツらより早く戻って、財産(おたから)を隠すぞ。見てみろ、ヤツらはまぐれ勝ちに浮かれてやがる。サッサと治療師(ヒーラー)にボリスを診せて、すぐに戻るぞ」


 ロージーが頷き納得を見せると、エルンストは治療師(ヒーラー)のもとへと急いだ。


■□■□


 グリアムの視界の隅に、上の回廊へと急ぐ【レプティルアンビション】の姿が映る。


 慌てているな。


 グリアムは、その姿を遠目から冷ややかに見つめた。


「どうしたの?」

「ヤツらが、慌てて上を目指してるのが見えたんでね。やる事なす事すべて四流だなってな」

「グリアムさんと比べちゃ可哀想だよ」

「ラウラ、すまんな。また世話になる」

「いいよ、いいよ。本当は決闘(デュエル)に参加したかったんだからさ、上までの護衛なんて、なんて事ないよ。なぜかアザリアもいるしね~」

「アザリアもすまんな」

「は、は、はい! 頑張ります!」

「そんなに頑張らなくても、あんたなら余裕だろ」


 ピシっと直立不動となるアザリアに、微笑むグリアム。その微笑みに俯くアザリア。そして、そのやり取りに笑いを堪えるラウラ。そこに緊張感はまったくなかった。

 その緩んだ空気にテールが大あくびを見せると、空気はさらに緩んでいく。


「テールも大活躍だったね~。あんたは賢い、いい仔だ」

「でしょう~」


 ラウラがお座りをしているテールの前にしゃがみ込み、顔をわしゃわしゃと撫で回した。胸を張るヴィヴィも、背中をポンポンと叩き、テールの活躍を称える。


(テール)に、ア、アイテムを持たせるというアイデアは、最初からあったのですか?」


 俯いたままグリアムに問い掛けるアザリアに、グリアムは肩をすくめる。


「アイデアというか、持たせる事が出来るかはギルドに確認してた。最初は、ルカスに持たせる予定だったんだが、ギルドに確認していたのを思い出して、急遽、テールに持たせたって感じかな」

「向こうは、すっかり騙されたって訳ですね」

「ヤツらにとってテールはノーマークだとは思っていたが、こうもあっさり行くとは思ってなかったよ」

「そ、そうですか⋯⋯」


 そう言ってグリアムはアザリアに微笑むと、アザリアは紅潮する顔を隠す様に、グリアムから視線を逸らした。


「テール様様だね」

「まあねぇ~。でもほら、(Doggy)だから、テール(Dog)が活躍するのは当然なんだよ」


 そう言ってヴィヴィは満面の笑みで、ラウラに胸を張って見せた。


■□■□


 街の中心部から少し離れた郊外の一角にある三階建ての集合住宅。薄汚れた低い壁と、雑草が伸び放題の荒れ果てた庭の奥にある、レンガ造りの建物。その建物の前に次々に馬車が停まっていった。


「ここよ。さぁ! 急いで作業を始めましょう!」


 良く通るミアの声に、馬車の荷台から次々にギルドの職員が降り立っていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ