その決闘(デュエル)の行方 Ⅲ
周囲に飛び散っているシルバースライムの欠片を漁っていく。もうこの作業はこれで最後にして欲しいと、グリアムは手に貼り付くシルバースライムの欠片を振り解きながら、本気で思っていた。
「あぁ⋯⋯クソっ!」
「おい、おっさん⋯⋯」
必死にスライムを振り解いているグリアムの耳元に、剣呑な雰囲気のルカスが口を寄せていく。
「どうした?」
「ヤツらの動きがおかしい。2~3人組だったはずだが、今はひとりしかこっちを見てねえ。何か企んでんじゃねえか?」
「そうか、警戒を続けろ。何かあれば、また教えろよ」
「ああ」
ルカスはグリアムから離れ、先ほどよりも鋭い視線を周辺へと向ける。
こっちの動きは筒抜けか。アイテムを見つけて、知らぬふりでやり過ごせるか⋯⋯?
「おおおー! あった! 見て見て! これでしょう?」
「ヴィヴィ! 静かにしろ」
グリアムの思惑は、ヴィヴィのあげた歓喜の声にあっさりと掻き消されてしまう。
グリアムは【シルバースライムの胚】を高々と掲げるヴィヴィの口を塞ぎ、そのレアアイテムを確かめる事もなく奪い取ると、腰のポーチへと仕舞った。グリアムの視線は忙しなく動き、怪しい人影を探す。その視線の先に、身を隠す人影が残像として映ると、盛大に顔をしかめた。
「チッ! ヤツら、来るぞ! 気抜くなよ!」
「も、もうですか??」
サーラは混乱する頭で、必死に警戒をしていく。ルカスは、グリアムと同じように視線を激しく動かし、今にも飛び込んで来るかも知れない人影に強い警戒を見せた。
「どこどこ? どこいるの? 何で??」
キョロキョロと首を左右に動かしているヴィヴィに、ルカスは呆れにも似た怒りをぶつける。
「おまえがバカみたいに、デカイ声出すからだ。おっさん、ここでことを構えるのはダメだ、簡単に囲まれちまう」
「分かってる。こっちだ」
走り出したグリアム達を、もはや隠れようともせずに追って来る人間の気配を感じる。
最後尾を走るルカスの瞳に映るその数は、10を優に超えていた。
「もっと速く行けねえのか! 思ってたより、多いぞ! どうすんだよ?」
「ヤツら剣を抜いているか?」
「抜いてる」
「よし。んじゃ、ヤツらが先に手を出して来た。こっちは仕方なく応戦だな」
「はっ! そうこなくっちゃ!」
「こ、心の準備がぁああー」
グリアムの言葉にルカスは笑みを零すが、その前でサーラは激しい動揺を見せ、表情を強張らせ、初めと言っていい対人戦に緊張を隠せないでいた。
「次の角を曲がる。ルカス、おまえなら減らせんだろ」
「もち」
「加減はしろよ」
「分かってるって」
ルカスはあえてスピードを落とし、グリアム達から距離を空けていく。振り返ると、三下潜行者の数はさらに増え、20はくだらない人数になっていた。だが、ルカスは誘うかのように、ゆっくりとバレない程度に、スピードを落としていく。大きくなっていく獲物の背中に、追手の勢いは増し、鼻息が荒くなっているのを感じた。
「アハ!」
思わず零れる笑み。ルカスはいつものポーチから、閉じているハチトトリグサを手に取ると、すぐに角を曲がった。その瞬間後ろへと投げたハチトトリグサが、地面へと開いていく。
「おわっ!!」
「急に止まるな!」
「なんだこれ!!」
「どけ! どけって!」
「クソッ! 取れねえぞ、こいつ!」
獲物を目の前にして、意気揚々と角を曲がり、勢い良く飛び込む三下潜行者達。
ルカスへと伸ばした欲まみれの指先に、足元は疎かになっていた。三下潜行者達は、勢いのままハチトトリグサに足を取られ、次々に地面へと無様に倒れ込んでいく。虚を突かれ、パニックを起こすその姿に、ルカスは口元に笑みを零す。
「ハハ! ダッサ」
それでも仲間を踏み台に、三下潜行者共は、ルカスを追う。着かず離れず、ルカスは距離を計りながら、グリアム達の後を追った。
「こっちだ! 追え!」
曲がり角の向こうから、ルカスを追って来る者達の怒号と足音が迫る。奇襲を受けた羞恥は怒りとなって、グリアム達に向けられた。
「ルカス! どうだった?」
「残り三分の一ってとこだな」
「それだけ減れば上出来だ⋯⋯ここだ! 急いで飛び込め! 早く!」
角を曲がるとすぐに、グリアムはヴィヴィの背中を押し、休憩所へとパーティーを押し込んでいく。近づく足音を確認し、グリアムも転がり込んで行った。
(シッ!)
グリアムは人差し指を口に当て、近づく怒りと足音に息を潜めていった。壁に体を預け、狭い空間で気配を消す。入り口の影にグリアムとルカスは身を潜め、ヴィヴィは両手を口に当て、緊張の面持ちを見せる。その横でテールも静かに伏せ、サーラは緊張を解こうと、何度もゆっくり息を吐き出していた。
バタバタと遠ざかるいくつもの足音に、グリアムはそっと外を覗く。
「師匠、やり過ごせました?」
「あ? やり過ごす? 何言ってんだ? 警戒の薄い後ろから叩くんだよ」
「いいね。こすいおっさんらしいじゃん」
「なんだよそれ? 褒めてんのか?」
軽口を叩きながら、グリアムはやり過ごした敵の背中を確認していく。
「⋯⋯なんか、ゴメン。私が騒いだせいで」
所在無さげに落ち込みを見せるヴィヴィを、ルカスは渋い表情のまま一瞥する。
「ハッ! ちょっと考えれば分かるだろうが」
「もう言ってやるな、あれは仕方ねえ。あそこでヴィヴィが叫ぼうか叫ぶまいが、結果は変わらんさ」
「はは~ん、だってさ」
「だからって、調子に乗るな」
「大丈夫だって、後ろからぶっ放してあげる」
グリアムのひと言で調子を取り戻したヴィヴィは、眼前に手をかざし、魔法を撃つポーズを決める。
「おまえのはヤツらが死んじまうからダメだ。とりあえず、大人しくしてろ」
「おっさん、まだか? 遊んでねえで、行こうぜ」
ルカスは苛立ちを隠さず、グリアムを煽った。仕方ないとばかり、もう一度外を覗き、敵との距離を計る。
「ルカス、来い! サーラは後から援護しろ。ヴィヴィとテールは大人しくしてろよ」
グリアムが飛び出すと、ルカスがそれに続く。ふたりの速度に呆気に取られ、サーラは出遅れてしまう。
「はやーいっ!」
何も出来ないヴィヴィは、飛び出したグリアムとルカスの速さに思わず口から言葉が零れていた。一瞬とも言える間で、グリアムとルカスの最速コンビが敵の背中を捉えると、遠目からでも敵が混乱しているのが分かる。
「これは私達いらないね。ね、テール」
急に頭を撫でられたテールは、不思議そうにヴィヴィの顔を覗き込んでいた。
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14階の一角。剣呑な雰囲気を纏う一団が、その通路に陣取っていた。余裕と慢心からなのか緊張感はなく、緩み切った表情でダラダラと壁にもたれている。
「てめえら、もう少しで終わりだ、シャキッとしろや」
「おまえだって、人の事言えんのかよ」
「ああ? おまえに言われる筋合いはねえぞ」
「止め止め。エルンストもボリスも止めなよ」
待つだけの時間は、緊張感を奪い去り、苛立ちを募らせる。エルンスト、ボリスの苛立ちに、ロージーは面倒臭そうに仲裁に入った。
「んで、バグス達が持ってくるんだっけ? それを15階に持ってけば終わりか。あいつら早く持って来ねえかなぁ」
「だったらオレはもういいよな? ここに居ても意味無さそうだ。先に帰るぞ」
「クレールずりぃぞ。オレが帰って寝る」
「ふたり揃って好き勝手言ってんな。万が一に備えるのが一流ってやつだ」
顎に手を置き、エルンストは勝ち誇った表情を見せる。そのエルンストの満足気な笑みに、オッタの美麗な顔は嘲笑を浮かべた。
「万が一ってやつを、起きないようにするのが一流だ⋯⋯」
オッタは俯いたまま、だれに言うでもなく呟く。
「なんだ? なんか言ったか?」
「いや、別に⋯⋯」
オッタはふいっとそっぽを向き、エルンストから視線を外していった。




