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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その決闘(デュエル)の行方

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その決闘(デュエル)の行方 Ⅳ

「ハァアアアアアアーッ!」

「サーラ! ストーップ!! ストーップ!!」

「え?!」


 もうフラフラになっているバグスに、サーラの鉄の踵が今まさに決まる寸前だった。グリアムの叫びに、キレのある回し蹴りは、急停止を余儀なくされる。眼前で止まる鉄の踵に、バグスは目を剥きながら後ろへと、大の字になったままゆっくりと倒れてしまう。床でのびているバグスのように、床に転がる男や女の数は十を超えているが、対する【クラウスファミリア(クラウスの家族)】は限りなく無傷に近い状態だった。


「これじゃ、話は聞けんな」


 グリアムは上げていた拳を下ろし、思わず頭を掻いてしまう。ヴィヴィはこの光景に、胸の前で小さく拍手し、得意げに見下ろしていた。


「この人達、紋章ありませんね」


 サーラはのびているバグスを覗き込み、納得のいかない表情を見せている。ルカスもヴィヴィもそれに倣って、のびている潜行者(ダイバー)達を覗き込んでいった。


「【レプティルアンビション(爬虫類の野心)】のヤツらじゃねえって事か??」

「いや、こいつらは十中八九【レプティルアンビション】だろ」


 グリアムの言葉にルカスは渋い表情を見せる。サーラと同様に、紋章を背負っていない意味が分からなかった。


「あいつらは、ハナからアイテムを探す気なんてなかったんだよ。こっちのアイテムを掻っ攫う事しか頭にねえのさ。ま、頭の悪いヤツらだ、どっちみち必死こいて探した所で手に入れる事は無かったろうけどな」

「フフ、私達に敵わないって事だ」


 グリアムの言葉に、ヴィヴィはふてぶてしく口端を上げる。


「それと、紋章がないのは、どう関係するのですか?」

「『【クラウスファミリア】を襲った連中の事など知らない』と、しらを切る為じゃねえか。【レプティルアンビション】はあくまで無関係と言い張る為に紋章を背負わせなかったんだ」

「ちょっと調べりゃあ、そんなもんバレバレじゃん」

「そうだよ。ルカスでも分かるくらいバレバレだよ」

「なんだよ、それ! オレをアホの代表みたいに言うな!」

「違うの?」

「止め止め、何なんだおまえらは、まったく。ここにのびているヤツらの登録は、一時的に切ってるさ。頭の弱いアイツらでもそれくらいの事はしてるだろうし、こいつらがアイテムを奪えるとは考えていないはずだ」

「では、何で襲わせたのですか?」

「アイテムを奪えたらラッキー。奪えなくとも、こちら時間と体力を少しでも削れれば、OKって考えたんだろう」

「フヒ、削れてもいないけどね」

「準備運動にはなったけどな。さて、1階ならこいつらを放っておいても大丈夫だろ、サッサと15階目指すぞ」

「待ち伏せしてますよね?」


 サーラの言葉に、一同の表情は硬くなる。その姿にグリアムは口元に余裕の笑みを浮かべた。


「オレなら9階か14階⋯⋯いや、ヤツらの事だ、14階でお出迎えしてくれんだろ。行くぞ」


 グリアムの手招きで、パーティーは下の回廊へと歩み始める。


■□■□


()めるぞ! もう賭けるやつはいねえな!」


 声を荒らげる主人(オヤジ)の声が鳴り響く。

 15階緩衝地帯(オアシス)に設けられた非公式の賭場は閉められた。

 その声は、この決闘(デュエル)の開始からそれなりの時間が経った事を意味する。現場で何が起きているのか、知る術を持たない賭け札を握り締める者達は、欲望そのままに天に祈りを捧げていた。そんな者達とは一線を画すラウラとアザリア、そしてイヤルは静かに佇んでいる。互いに自身の思いに確信しているのか、その冷静な落ち着きは、異質に映った。

 倍率は40対2。

 【レプティルアンビション】の圧倒的有利は動かず、イヤルの賭け金で倍率は大きく変動していた。

 その最終倍率をラウラは確認して、ほくそ笑む。


「こりゃあ、ウマウマだ。勝ったお金で何しようか? 【クラウスファミリア】のお祝いは必須でしょう~。ウチの構成員(メンバー)達にも何かごちそうしようか!」

「気が早い⋯⋯って、言いたいとこだけど、ま、だよね」


 指折り数えるラウラに、アザリアも自信満々の表情を見せた。少し離れたところから、その様子を見つめるイヤルもまた自信たっぷりに落ち着いた姿を見せている。その様子をラウラはチラっと覗き、笑みをさらに深めた。


「さてと。アザリア、みんなのゴールを見に行こうよ」


 ラウラはアザリアの背中を押しながら、欲望渦巻く賭場をあとにする。


「分かった、分かったって」


 ふたりは賭場をあとにすると、ゴールの真裏で仁王立ちし、【クラウスファミリア】の到着をゆっくりと待つ事にした。


■□■□


「医療班いる?! 1階で倒れている軽傷者が複数! 一緒に来て!」


 白い腕章をつけているエルフの女性が、ギルドの受付に飛び込んで来た。


『【クラウスファミリア】がやったんだ!!』

『【クラウスファミリア】がやりましたね!!』


 イヴァンとミアは反応がバレないよう、なるべく無表情でいるよう心掛ける。だが、ふたりの思惑は重なり合い、視線も自然と重なりあう。緩みそうな口元に、ぐっと力を込め、無表情を維持し続けた。


(大丈夫ですよね?)


 念の為に囁くイヴァンに、ミアは軽く頷いて見せる。


(『参加者』って言っていないから、きっと大丈夫。しかも、軽傷って事は手加減している(あかし)。【クラウスファミリア】に返り討ちにあったのよ)


 今度はイヴァンが、ミアに頷いて見せた。

 慌ただしく動き回るギルドの職員達を尻目に、イヴァンとミアは、落ち着き払ったまま吉報を待つ。その姿に焦りはまったく見えなかった。


■□■□


 人の倍以上の体躯を誇るトロールの極大の拳が、ルカスに振り下ろされる。口元に笑みを浮かべながらルカスが横へ跳ねると、その拳は地面を叩き、小石を跳ね上げた。前屈みになったトロールの頬へ、全体重を乗せたサーラのフックが決まる。首が頭から千切れそうなほど、トロールは顔を歪ませ、足元をふらつかせた。


「シッ!」


 飛び込むグリアムのナイフは一直線にトロールの胸を貫く。その刃は寸分の狂いもなく核を貫いた。地面に無様に仰向けるトロールの事など一瞥する事もなく、パーティーは14階へと下りる回廊へ向かう。少しばかりの焦りを孕むその足取りは、無意識に早くなっていた。


「止まれ。一旦、落ち着こう」


 14階への回廊を前にして、グリアムはパーティーの足を止める。ここからが本当の勝負だとだれもが理解し、だれもが緊張から表情を硬くしていた。


「大丈夫だ、こっちの思惑通りに進んでいる。B(クラス)って言ったってピンキリだ、ビビるなよ。ルカス、いいな? 裏をかいてB級を喰えよ。おまえなら余裕だろ」

「もち!」


 グリアムの言葉に、余裕と言わんばかり、ルカスは大きく頷いて見せる。


「サーラ。おまえはビビるな。ビビらなきゃおまえは最強だ、いいな」

「は、はい!」


 強張った表情で敬礼して見せるサーラに、グリアムは苦笑いを見せるが、心の奥では大丈夫だろうと安心もしていた。


「ヴィヴィ。あのクソエルフを抑えるんだ⋯⋯やり過ぎるなよ」

「フフ⋯⋯ようやくだね」


 グリアムとヴィヴィは視線を交わすと、ニッ! と揃って口端を上げた。


「テール、おまえも頼むぞ」


 ポンポンと背中を叩くグリアムに振り返り、興味なさげにまた前を向いてしまう。


「ヤツらのお出迎えポイントのおさらいだ。待ち伏せてるであろうポイントは三ヶ所。ひとつは、14階下りてすぐ、それと15階へと下りる回廊のすぐ手前。だが、この二ヶ所は人目につきやすいし、奇襲には不向きだ⋯⋯って考えると自ずとポイントは絞られる。下りてから、少し進んだ所にある十字路だ。この十字路は、どこを通っても15階へ下る回廊へと繋がっている。下に向かうなら通らざるを得ない場所だ。奇襲の恐れもなく、地図が頭に入っているなら、ここで待ち伏せるはずだ」


 グリアムの説明に一同大きく頷き、集中力を上げていく。


「よし。行くぞ。下りてすぐは気を抜くな、確率は低くともヤツらが張っている可能性はある。いいな」


 また三人の大きく頷く姿を確認すると、グリアムは下へと向かう回廊に足を踏み入れた。


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