その決闘(デュエル)の行方 Ⅰ
「どうすんだよ? あんなもん人の足でどうにかなる速さじゃねえぞ!」
ルカスは、行き場のない憤りに声を荒らげた。シルバースライムに何度も挑み、何度も逃げられ、一向に結果の出ない有様に苛立ちは強くなっていた。
「ルカスさんにそう言われてしまうと、困ってしまいますね。ただ、今まで気付かなかっただけで、結構あっちこっちでエンカウント出来るというのは朗報じゃないですか。でも、これだけエンカウント出来るって事は、あっちはもう手に入れてしまったでしょうかね?」
「あいつらは探してもいねえよ。なぁ、ルカス、おまえは気付いてるだろ?」
「ああ、『いる』な」
「え? 何を言ってるんですか??」
「こっちを尾けてるヤツらがいるんだよ。2~3人組で、何組かいるぜ」
「ええ!?」
「サーラ、振り返るな。今もいる」
通路から半身だけ見せている男の姿が目に入り、サーラは慌てて前へと視線を戻した。
「ずっと後ろにいたんですか?」
「ずっとって訳じゃねえが、気が付くと遠巻きにこっちを見てやがる」
グリアムが軽く頷き、ルカスは顔を前に向けたまま、視線だけ背中に送る。
「どうせアイツら、こっちがアイテムをゲットしたら盗むつもりだぜ」
「ルカスの言う通りだ。アイツら端から探す気なんてなかったんだ」
「こっちを襲う気満々って事ですか⋯⋯」
グリアムとルカスは返事の代わりに視線を交わし合う。緊張を見せるサーラと違い、ヴィヴィは意味深な笑みを、ひとり後ろで浮かべていた。
「グリアム、襲ってきたら⋯⋯いいんだよね?」
「ああ。襲って来るのは悪い子達だから、お仕置きしないとな。だが、適度にだぞ」
ニッとふたり揃って口端を上げる姿に、サーラは深い溜め息をつき、ひとり落ち着かない様子を見せていた。そんなサーラにルカスは呆れて見せる。
「おまえは、強いクセにビビりだな。クズの相手なんて余裕だろ?」
「人を殴るなんて、した事ありませんよ」
「でも、やらなきゃこっちがやられるぜ」
「そうですけど⋯⋯」
サーラは、呆れて見せるルカスに正論をぶつけられ、返す言葉が見つからなかった。言葉は尻切れてしまい、思わず口ごもってしまう。
「まぁまぁ、サーラの分も私がぶっ飛ばすから大丈夫だって」
サーラの後ろで鼻息荒くやる気を見せているヴィヴィに、ルカスは早々に見切りをつけそっぽを向いてしまった。
「おまえはおまえで、どう見たって力不足だろ。ぶっ飛ばす前にぶっ飛ばされそうだぜ」
「何をー!!」
「ほら、もうおまえらいい加減にしろ、じゃれてねえで、シルバースライムの攻略法を考えるぞ。アイツらの対処は後回しだ」
こちらを見つめているだろう男の耳に届かぬよう、顔を突き合わせ声を潜めあった。
「取り囲んで押さえ込むのは無理でしたね」
「穴倉に逃げ込むなら、最初から穴倉にいるヤツを探して引っ張りだすのはどうだ? それか奥行きの無い穴倉なら、オレの剣で届くぜ」
ルカスは、背中に背負っている細身の長剣に手を掛ける。
「そいつはひとつの手としてありだな。だが、小さい穴の中に切っ先を突っ込んで、斬り刻めるか? それなりに力が入らねえと、アイツら斬れねえぞ」
「やってみねえと分からねえだろ、そんなもん」
「まぁな⋯⋯」
「はいはーい! これで地面に釘付けにしちゃうのは?」
ヴィヴィはそう言ってハンドボウガンを構えて見せる。その提案は今までの中で一番現実的だと感じ、頭の中でシミュレーションを行うと互いに頷き合った。
「よし、それじゃテール、またひとつ頼むぞ⋯⋯そんな顔すんなよ。終わったらうまいもん食わすからさ」
恨めしそうに上目遣いを見せるテールを、グリアムは両手を使って顔を包み込み、必死になだめていった。テールは仕方ないとばかりに腰を上げ、またシルバースライムを探すべく、その残滓を求め始める。
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10階の休憩所に、煤けた顔の犬人の男が顔を出す。緩み切った者達は興味なさそうに顔を上げ、その姿を一瞥すると、興味を失い視線を逸らす。顔を向けるのはまだマシで、オッタは特徴ある長い耳をピクリともさせず俯いたまま、イルにいたっては戦斧を支えにして、大きく舟をこいでいた。
「イル、起きろ! 何か動きあったんだな」
「ああ。ヤツら犬を使って、シルバースライムを見つけまくってるぜ」
「犬⋯⋯あのでけぇ、白犬か⋯⋯? その為に連れて来た? いや、たまたまか⋯⋯」
犬人の言葉を聞いて考え込むエルンスト。その姿をボリスは怪訝な表情で見つめていく。
「エルンスト、何ひとりでぶつぶつ言ってんだよ。あいつらが【シルバースライムの胚】を手に入れるのは時間の問題だぜ」
「んなこたぁ分かってる。ぼちぼちこっちも準備に入るぞ。ほら、おまえら、行くぞ」
だらけ切った【レプティルアンビション(爬虫類の野心)】のメンバー達は、エルンストの言葉にイヤイヤながら腰を上げて行き、やる気を見せぬまま休憩所をあとにして行く。エルンストを先頭に重い足取りで、下へと向かう回廊を目指した。
■□■□
カシュ! っと、ハンドボウガンが乾いた射出音を鳴らすと、その瞬間、地面がぐにゃりと歪みパーティーの足元を鉛色のスライムがすり抜けて行く。
「下手っぴ」
「うるさい!」
「いいから、次だ、次。考える前に足と手を動かすぞ」
ヴィヴィがルカスにベーっと舌を出す。ルカスはフフンと鼻を鳴らし余裕を見せ、ヴィヴィは頭に血を上らせた。ただでさえ、シルバースライムに掠りもしない様に、苛立っているヴィヴィは、ルカスの追い打ちに、さらなる苛立ちを覚えた。
これで三度めの失敗。
テールのおかげで、エンカウントに苦労はしなくなった。だが、ヴィヴィの放つ矢はことごとく避けられ、地面や壁に虚しく突き刺さるのを繰り返し、ヴィヴィは苛立ちのままに地面から矢を抜き取り、やるせない気持ちの行き場に苦慮していた。
グリアムは苛立っているヴィヴィを見つめながら、ここ三回のエンカウントを思い返す。
シルバースライムの核を避けて撃ち抜くという、ヴィヴィの狙いどころは悪くない。だが、ことごとく、避けられてしまう⋯⋯か。
「ヴィヴィ、次は核を狙ってみろ」
「え? 砕け散っちゃうよ」
「そん時はそん時だ、同じ狙い繰り返していたら、結果も同じ繰り返しだ」
「⋯⋯分かった」
ヴィヴィは一瞬戸惑いを見せたが、すぐに力強く頷いて見せた。
気を取り直した一行は、スンスンと地面の臭いを嗅ぎながらスライムの残滓を求めるテールを先頭にゆっくりと進んで行った。




