その決闘(デュエル)の行方 Ⅱ
スンスンと地面に鼻を向けていたテールが顔を上げ、地面へと伏せる。
その姿にグリアムは後方の仲間達に止まれとハンドサインを送ると、一行は静かに足を止めた。
(来い)
グリアムはヴィヴィを手招きすると、テールの見つめる先を睨んでいく。
一見すると何もいない。
だが、この短い時間での経験から、そこにシルバースライムがいるという確信を持てる。グリアムが、目を凝らし、微細な違和感を探す。ヴィヴィはグリアムの見つめる先にハンドボウガンを静かに構えた。
(どこ?)
(待て、今、探している)
グリアムは視線の先に集中する。テールの見つめる先にいるのは間違いなくシルバースライム。その確信を持って、地面から壁へ、ゆっくりと視線を移して行く。小さな差異や違和感、目に映るすべてに集中する。自分を包む音は消え、レンズがピントを合わすかのように、視線はある一点に集中すると視界は極端に狭くなっていった。
あれか⋯⋯?
グリアムの視線が、微細な違和感を捉え、視線はそこに焦点を合わす。そしてその視線は、わずかに不自然な発色を見せる、壁の一角を捉えて見せた。
(ヴィヴィ、あそこだ。分かるか? 壁が二か所隆起しているだろ。そこの間を良く見るんだ)
(隆起⋯⋯あ! あのでっぱってる間か⋯⋯いたいた。分かれば見えるね)
ヴィヴィは、グリアムの指す微細な違和感に目を凝らし、狙いを定めていく。スライムの形をした不自然な発色を見せる場所が、スライムの形としてヴィヴィの目に浮かび上がった。
ヴィヴィは、ゆっくり静かに左手のハンドボウガンをそこに向ける。着ている服の衣擦れの音すらうるさく感じるほど、静かに集中して見せた。
擬態したスライムは、じっとしてさえいれば、やり過ごせるだろうと考えているのか、身動きひとつ取らない。一同はヴィヴィにすべてを託し、息を潜める。
ヴィヴィはスライムの体の中心部にある核に狙いを定め、ハンドボウガンの引き金を引いた。
カシュ! っと乾いた音が響く。壁はぐにゃりと歪み、鉛色のスライムが姿を現す。
バシッ! と短矢が、壁を貫く音。そして、ビチビチと陸にあげられた魚のように、鉛色のスライムが壁に貼り付いたまま、のたうち回る。
「よし! ルカス!!」
グリアムはナイフを片手に飛び込むと、ルカスもそれに続く。ふたりの刃が、核に触れぬように鉛色のスライムの体を斬り刻んでいった。
「ふんす!」
ビチビチと跳ねるシルバースライムの姿に、ヴィヴィが拳を握り締めると、サーラはヴィヴィに抱き着いた。
「凄い! やりましたね」
「フフン~まあねぇ~」
嬉しさを押し殺してクールを気取るヴィヴィに、サーラは喜びを爆発させる。だが、これですべてがうまくいった訳ではないと、飛び込んで行ったグリアムとルカスに振り返り、ふたりは祈りを持って見守っていた。
■□■□
緩衝地帯に設けられた秘密の賭場が、ひとりの猫人の存在にざわつきを見せた。薄気味悪い吟遊詩人の紋章を纏う、その猫女は一瞬立ち止まり、そこに集う人間を蔑むかのように一瞥すると、ゆっくりとまた奥へと進んだ。
(おい、あの紋章って⋯⋯)
(永遠の二番手!?)
(しっ! バカ! 声でけぇって、聞こえたらどうすんだよ)
切れ長の目がジロリと向くと、囁き合っていた者達は視線を逸らし、いそいそとその場から離れていった。
「おーこわい、こわい。こんな所でイキってどうすんのよ、イヤル・ライザック」
大袈裟におどけて見せるラウラに、切れ長の目が鋭く向き直す。
「ラウラ・ビキ⋯⋯なんでおまえがこんな所に⋯⋯いや、【クラウスファミリア(クラウスの家族)】とズブだったな、おまえ」
「何その言い方? 何かイヤな言い方。【クラウスファミリア】はお友達ってだけだよ。ズブなのは、あんたでしょう。【レプティルアンビション(爬虫類の野心)】とね」
「はぁ? 何訳の分からない事を言っている?」
「あんたらが裏で糸引いてるんでしょう? バレてないとでも思ってんの? クソダサいんだよね、そういうところ」
「何を言ってんのか相変わらずさっぱりね」
嘲笑を浮かべながらラウラは眼前へと迫ると、イヤルは鬱陶しいとばかりに眉をひそめ、表情を強張らせた。
「ラウラ、止めなって。イヤル、ゴメンね、構わないでいいからさ」
「リーダー自らこんな所で油売ってんのか。【ノーヴァアザリア(新星のアザリア)】は、随分と余裕があるんだな、さすが中央都市セラタが誇る大パーティー様だ」
イヤルの棘のある物言いに、アザリアは少し呆れながら首を何度も横に振って見せた。
「何で突っかかってくんのかな? イヤルもそうだし、リオンもそう。ほっといてくれればいいのに」
「おまえのその上から目線が、私達を苛立たせるんだよ」
「ええー!? そんなつもりないよ」
話が通じないイヤルにアザリアが肩を落とすと、ラウラはポンとその肩に手を置いた。
「しょうがないんだよ。ずっと二番手にいるから、ふたり揃って拗らせちゃってるんだって、許してあげよう」
「⋯⋯ラウラ・ビキ」
「え? 何、もしかして傷ついちゃった? ゴメンナサイネ~」
「テメェ⋯⋯」
「ほら、ふたりとも止めなって! こんな所で恥ずかしい。みんな見てるよ」
イヤルは奥歯をギリっと噛み締め、鋭い視線をラウラにぶつける。ラウラはその視線を薄ら笑いで外すと、イヤルの怒りの熱は際限なく上がっていく。
アザリアはそんなふたりに頭を抱え、強者の纏う圧倒的な雰囲気に、まわりの人間は口をポカンと開き、遠巻きに見守る事しか出来なかった。
「A級、こわっ!」
「おい! ティム! 止めろ」
「あ! やばっ⋯⋯ムガッ&%$&&%⋯⋯」
ティムがポロっと零した言葉にイヤルはジロっと視線を向け、敏感な反応を示す。その姿にロイが慌ててティムの口を塞いだ。ふたりはそのまま、後ろへと下がり、イヤルの視界から消えていく。
「あんたらこんな所で⋯⋯止めてくれよな。あんたらが暴れたら止められるやつなんていねえんだから。それより、ほら、【ライアークルーク】の姉ちゃんも、ここに来たって事は賭けに来たんだろう? どっちに賭ける? ちなみに【ノーヴァアザリア】のふたりはでっかく【クラウスファミリア】に賭けたぜ。あんたもどうだ? でっかく【クラウスファミリア】に賭けてみねえか?」
「ああ?」
場を収めようと割って入った主人のひと言に、イヤルの表情は険しさを増してしまう。震え上がる主人の姿に、ラウラは吹き出して、アザリアは何度も頭を振って呆れていた。
「⋯⋯ダッサ」
「何か言ったか?」
「別に~」
ラウラの囁きに鋭い反応を見せるイヤル。ラウラはわざとらしくトボけて見せると、イヤルの熱は上がっていく。
「フン⋯⋯まぁいいわ。【クラウスファミリア】に大きく賭けた? バッカじゃない、万が一にも当たらないわ。しかもリーダー不在なんでしょう? で、ラウラ達はいくら賭けたの?」
「え? あぁ⋯⋯30万と10万⋯⋯」
「そう。じゃぁ、これ⋯⋯50万ルドラを【レプティルアンビション】に」
金の入った袋をふたつ、主人の前に乱暴に投げ置くと、やり取りを静かに見つめていた周りの人間達から、静かなどよめきが起こり、【レプティルアンビション】に賭けた者達は、強い味方を得たと歓喜の拳を握り締めた。
「え? マジ? 今から変更って出来るかな? 痛っ!」
「くくく⋯⋯大丈夫だって。50万消えるA級の泣きっ面が見られるよ」
周りの反応に気圧されるティムに、ラウラは必死に笑いを堪えながら、ティムの背中をパシっと叩いて見せた。




