その条件が運ぶ混乱 Ⅰ
ヴィヴィとサーラがテーブルの上に投げ出されている封書を何度も確認していた。
何度、目を通しても、そこに書かれている条件が変わるわけもなく、書かれている内容にだれもが表情を曇らせた。
・敗者はパーティーを解散する。その後、勝者の配下として勝者パーティーに加わらなければならない。
・補助要員を認める。ただし、A級、B級は不可とする。
【レプティルアンビション(爬虫類の野心)】が開示した条件は、明らかにこちらの条件を汲んでの後出しじゃんけんだ。
ミアの恐れていた事が起きてしまった。勝てば何の問題もないと思っていたが、ラウラという勝ち筋を、いとも簡単に断たれてしまった。
「ミア、この条件をギルドは認めたって事だよな」
「はい。提出された、双方合わせて四個の条件を考慮したうえで、不公平なところはないと判断されてしまいました」
ミアの悔しさを噛み殺しながらの言葉は、ミアがギルドの一員であるもどかしさを映す。
「せめて、B級だけでも消して貰えないでしょうか」
サーラの淡い期待に、ミアは嘆息する事しか出来ない。
「一度決まってしまった決定事項を覆すのは、正直厳しいわね。一応、掛け合ってはみるけど、期待はしないで。決闘への参加人数に制限でもあれば別だけど、この文言から人数の制限は掛けていない。質(A、B級)でダメなら量(人数)を増やせば補えるとギルドは考えたのでしょうね」
「そんなの、友達いないのに無理だよ!」
「ヴィヴィさん、力になれなくてごめんなさい。条件の精査って、どちらの条件か分かっていない状態で第三者が精査するの。決定権を持っていない私には、何も出来ないのよ」
ミアはそう言って無力な自分を責めた。
「でもミアさん、この条件っておかしいとはならないのですか? 明らかに条件を知ったうえでの提出だと気付きそうなものですけど」
「例えば向こうが提出した、『A級、B級を不可とする』という文言も、【クラウスファミリア(クラウスの家族)】が提出してもおかしくないと判断したのでしょう。【クラウスファミリア】が【レプティルアンビション】の戦力をこれ以上あげない為に提出した。そう考える事も出来る⋯⋯。ギルド側がそう判断してしまった可能性は十分あるでしょうね」
サーラはテーブルの上にある封書を何度も読み返し首を傾げる。だが、ミアはサーラに答えながら首を何度も横に振った。そんなミアに代わり、グリアムが続ける。
「条件がランダムに並んでいたら、どっちが先かは分からんさ。まぁ、ここまで来たら、四の五の言っても始まらん。賽は投げられたんだ、今はどう勝つかに集中するしかねえ。どこで情報が洩れたかなんて、後回しだ。勝つしかねえんだからな」
「グリアム、友達いないのにどうするの?」
「おまえもだろ!」
グリアムはそう言ってヴィヴィを睨んだものの、都合の良い打開策がすぐに見つかるほど、問題は容易ではない。ラウラという切り札を抑えられたショックもあり、打開策は分厚い雲に覆われてしまい、見える気配さえなかった。思考はただただ同じところをぐるぐる回り、互いの口を重くする。
「少し整理しながら考えません?」
自身の考えもまとまってはいないのに、サーラは顔を上げ、答えの見えない思考からの打開を図ろうと声を上げる。グリアムもそれに頷き、頭の中にかかる分厚い雲を必死に払おうとした。
「そうだな。運ぶアイテムがくじで決まるのなら、アイテム次第っていう運ゲー(ム)要素も多分にある。1~14階層で取れるレアアイテムなら、より運要素は強くなるよな」
「ですね⋯⋯実はちょっと過去の文献を調べてみたんです。圧倒的に豚が多くて、犬が少なかったんですけど、いくつか文献が残っていまして⋯⋯あ、これです」
サーラは腰のバッグからメモを取り出し、テーブルの上に広げる。
【ゲイザーアイ】、【モノアイの射出筋】、【一角兎の銅角】、【スライムの胚】⋯⋯。
そのメモに書いてあるアイテムは、売り物にならない物ばかりが並ぶ。だが同時に、入手困難と思われる物ばかりで、グリアムは表情を曇らせ、サーラも困惑の表情でメモを覗いていた。
「どれも見た事も聞いた事もない物ですが、本当に手に入る物なのでしょうか?」
「オレも、ほとんど分からん。【一角兎の胴角】は見たが事ある⋯⋯あとは【スライムの胚】も⋯⋯あったかな? あとは知らん物ばっかだな」
「そうですか。だとすると、手に入りづらく、手元に取って置いても仕方のない物というのが選定基準になっている気がします。きっと、事前に準備が出来ないようにしているのではないかと」
「なるほどね。小細工対策はばっちりって事か。まぁ、向こうも条件は同じって考えるとレア度が高ければ高いほど、運ゲー要素が上がって、こっちの不利は減るよな」
「ねえねえ、これさ、相手が先に見つけた場合、それを盗っちゃダメなの? あ、その逆もありえるのか」
ヴィヴィのひと言に、テーブルを囲っていた者達は固まってしまう。その可能性について、すっかり抜け落ちていた。ちょっと考えれば、分かる事だ。ヴィヴィの無邪気ゆえの何気ない言葉に、視野が狭くなってしまっていた事に気づかされた。
「確かに⋯⋯そうだな」
「師匠、むこうが奪いに来る事は十分ありそうですよね」
「あるな。そうなるとこっちが奪うのもありだ。だが、兎に持たれたら、追いつくのは厳しいかも知れん。それを見越して仲間にした⋯⋯?」
「いやぁ~どうしましょう」
サーラの思考はキャパオーバーしてしまい、思わず頭を抱えてしまう。
今の段階で考えても要領を得ないと考え、ミアに別れを告げ、グリアム達はギルドをあとにした。
一度、頭を冷やし、冷静になろうとするものの、頭の中から犬が消える事はない。答えの出ない堂々巡りは延々と頭の中で繰り返されていた。
「あ! やっぱり、こっちにいた」
ギルドの喧騒の中へと戻ると、元気の良い声が届く。その声に振り返ると、ニッコリといつもの笑顔を見せるラウラの姿があった。
「グリアムさん家行ったらいなかったんで、もしかしてギルドかなって。フフ、私の勘ってばバッチリだね⋯⋯って、なんか暗いね。どしたの? 何かあった?」
「⋯⋯ラウラ、すまんが、ちょっと付き合って貰えるか?」
「うん、いいよ」
グリアムは少し躊躇を見せたが、グリアムの家である【クラウスファミリア】の本拠地へとラウラを誘った。
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居間に流れる重い雰囲気に、一体何が起きているのかと、イヴァンとラウラは困惑の表情で顔を見合わせる。
溜め息をつきながら椅子に体を投げ出すグリアムに、サーラは眉間に皺を寄せ険しい顔を見せていた。ヴィヴィだけが、いつもと変わらず、ちょこんと椅子に座り、カップのお茶を飲み干す。
「ラウラさん、リーダー。とりあえずこれを読んでみて下さい」
サーラがテーブルに封書を広げると、イヴァンもラウラも表情を険しくさせた。




