その本拠地(ホーム)にて Ⅴ
「【レプティルアンビション(爬虫類の野心)】は、【ライアークルーク(賢い噓つき)】強化の為の遊軍ってところかな」
「【ライアークルーク】の強化?」
グリアムはラウラの言葉に困惑を隠せなかった。
【レプティルアンビション】の下層での行動と、大パーティーの強化という言葉が、グリアムの中で繋がらない。構成員として引き入れるわけでもなく、遊軍として下層で遊ばせておいては、強化も何もないと思ってしまう。
「【ライアークルーク】が、今、躍起になっているのがパーティーの強化。構成員を増やす事に躍起になっていて、今、メンバーをガンガン増やしているんだって」
「最深層への潜行の為か⋯⋯」
「だろうね。んで、人が増えれば維持費が掛かる。そうなると稼がなきゃならない。手っ取り早く金になるのはクエスト。D級よりC級のクエ(スト)の方が儲かる。じゃあ、メンバーをさっさと昇級させればいいかって考えて、下層を荒らしているみたい。ホント、迷惑なだけだよ」
金を稼がせる為にメンバーの昇級を急がせる。その為に昇級アイテムが必要って事か。
周りの事などお構いなし。自分たちの欲の為だけの身勝手な行動。やる方もやらせる方もクズだな。
ラウラの静かな怒りが伝わる物言いに、グリアムはようやく納得がいった。自分の懐を温める為だけの身勝手な行い。そのくだらない行いのせいで、仲間が大怪我を負ったという事実は、グリアムの怒りの矛先が【ライアークルーク】に向くに十分な理由だった。
だが、大パーティーを相手にして大立ち回りを出来るほどの力などある訳もなく、沸々と湧き上がる怒りは行く先を失い、宙を彷徨う。悶々と怒りの感情だけが積み上がり、グリアムの表情を険しくさせた。
グリアムの怒りがもっともなのはラウラも重々承知している。その怒りを汲み取るべく、ラウラは言葉を続けた。
「自己中なパーティーを手懐け、傘下に置く。昇級に必要なドロップを、【ライアークルーク】へのメンバー入りをちらつかせ上納させる。実際、そこからメンバーになったヤツもいるって話だよ。だけどもちろん、パーティー全員をメンバーにする事なんてなくて、優秀なヤツをかいつまんで入れるんだって。リオンの事だから、使えそうな駒を手っ取り早く手にする術くらいにしか考えてないよ。マジでむかつく」
「んで、トラブったら切ればいいと。その為に【ライアークルーク】の看板を背負わせず、トラブったら手を切って、泥水をすすらせるんだな」
「こすいやり方だよね。自分の手を汚さない為にさ」
「それを分かった上で【レプティルアンビション】だって請け負っているんだ、どっちもどっちだろう。それで【ライアークルーク】の中での【レプティルアンビション】の立ち位置ってどうなんだ?」
「細かい事は正直分かんなかったけど、どうやら割と稼ぎ頭らしいよ。潰す事が出来れば【ライアークルーク】に一泡吹かせる事が出来るんじゃない?」
そう言ってラウラは、意味深な笑みをグリアムに向けた。
潰す価値はありか。
グリアムはすぐに頭を切替え、勝負にどのような条件を付ければ、大打撃を与えられるか考える。だが、何度考えてみても考えつくところは同じだった。
強い意志をグリアムの瞳の奥から、感じ取るとラウラは落ち着きを持ってカップへと手を掛ける。
「グリアムさんのその顔、勝算ありだね」
「勝算ってわけじゃねえが、仕掛ける勝負と提案するふたつの条件は決まっている。当初の予定通りだな。【ノーヴァアザリア】を巻き込みたくはないんだが、また手伝って貰うと思う。すまんが、宜しく頼むぞ」
「シシシ、何言ってるの~任せて!」
ラウラはいつもの笑顔で、グリアムに胸を張って見せた。
■□■□
ラウラの訪れた翌日、グリアムはさっそく動き始める。良く晴れた午後の陽射しの中グリアム達は、ギルドへと向かった。
受付を通り越し、まっすぐに三階の入院施設を目指す。そしてグリアムとヴィヴィそしてサーラの三人は、イヴァンが入院している病室の前で足を止めた。ヴィヴィは扉をそっと開け、部屋の中を警戒するかのように覗いていく。
(大丈夫。乳繰り合ってないよ)
ヴィヴィはパタンと一度、静かに扉を締めるとグリアムとサーラに振り返り囁く。その真剣な声色に、グリアムは笑いそうになるのを必死に堪えた。
「いい加減にしてやれ」
グリアムは軽くノックをすると、明るい声色が返ってきた。
「はーい! どうぞ。ヴィヴィが覗いたの分かったよ」
窓辺にあるベッドから、イヴァンはグリアム達へと振り返る。負傷した足を吊っていた吊り具はすでに取り外されていて、ベッドの上で体を起こしていたイヴァンが柔和な笑みをグリアム達に向けた。一見して元気だと分かるイヴァンの姿に、一同の表情は自然と緩んだ。
「もうすっかり元気みたいですね、リーダーの手料理が恋しいですよ。退院はいつなのですか?」
「う~ん、もう少しみたいだけど、まだ具体的には決まっていないんだよね」
サーラに返事するイヴァンを、ヴィヴィは怪訝な瞳で覗き込む。
「んじゃ、もうちょっとしたら乳繰り合えないね」
「乳繰り? 何それ?」
「グリアムが見たって言ってた」
「え? え? あ! ち、違う! 違うよ、誤解だって。治療師の知り合いがいないか聞いていただけだよ」
「へぇ~」
ヴィヴィは疑惑の眼差しを向け、あからさまにイヴァンの言葉を信じようとしなかった。
「本当、本当だって」
「分かったって、ヴィヴィもいい加減にしてやれ」
「はいはい」
ヴィヴィは肩をすくめながら、イヴァンの足元にポスっと腰を下ろした。
「今日は三人揃ってどうしたのですか? 何かありました?」
「分かってるじゃねえか」
「分かりますよ。グリアムさんが顔を出すくらいですから」
グリアムは溜め息混じりに苦笑いを見せる。イヴァンの元気な姿に、日常が戻って来ているのが実感出来た。だが、そんなイヴァンに、グリアムは少し重くなった口を開いていく。
「実はな⋯⋯」
グリアムは少し言い辛そうに一瞬間を置き、言葉を続けた。




