その恩返しはリーダーのいない時に Ⅸ
「ラ、ラウラさん、弟さんもやはりA級なのですか?」
サーラはヴィヴィの口撃の矛先を変えようと、慌てた様子でラウラに話を向けた。ラウラは心底イヤそうに、顔を歪ませる。
「あのバカが? ないないない。あいつはN級だよ」
「え? Nですか? え? えっえぇぇぇー!?」
サーラは煤けた顔で、驚愕の表情を見せた。サーラだけではなく、そこいる全員が、ラウラの言葉に驚きを隠せない。あの、滑らかで無駄のないルカスの動きが、初心者なんてありえない。それが偽らざるみんなの思いだった。
「あぁ~なんかね、博戯走のやつらって、昇級しないんだよ。あえてランクが下でいるのが、カッコイイんだってさ。よく分かんないよね」
溜め息をつきながら肩をすくめるラウラの説明に、分かったのか分からなかったのか、一同はとりあえず納得した様子を見せていった。
「でも、昇級しないと、ドロップ売れないですし、クエストも受注出来ませんよね? 弟さんはどうしているのですか?」
「私も詳しく知らないけど、15階のやつらが博戯走⋯⋯賭けレースを主催していて、勝つとそこそこ貰えるらしいよ」
「それって⋯⋯非合法ですよね?」
「もちろん。ただ、15階って娯楽がないでしょう、ギルドもそこは黙認というか、あまり厳しくは取り締まらないみたい。緩衝地帯がなくなっちゃうと、深層、最深層への潜行が厳しくなっちゃうからね」
「なるほど」
サーラはラウラの説明に大きく頷き、納得して見せる。
ギルドが目をつぶっているとは言え、あくまでも非合法は非合法であり、死者は出ないまでも怪我人は毎度のように出てしまう危険なものだった。それでも手っ取り早く大金を手にする事が出来るかもしれないという事で、レースに挑む者は後を絶たない。ラウラの弟、ルカスもそのひとりだった。
「あんたが【ノーヴァアザリア】に誘った理由が分かるよ。ありゃあ、野良レースで遊ばせておくのはもったいないもんな」
「いやいや。それはグリアムさん、買い被り過ぎだよ。フラフラして危なっかしいから、首輪を付けておきたいだけだって。あ、そうだ、使えそうなドロップあったら拾っちゃってよ。お詫びにもならなそうだけど」
「どれ、ちょっと見てみるか」
グリアムはそう言って、ルカスが爆散させたモンスターの山を漁っていった。
■□■□
「お帰りなさい⋯⋯って、サーラさん! その傷どうされたの?」
「いやぁ⋯⋯まぁ、ちょっと⋯⋯」
頭を掻いて見せる、火傷の残る痛々しい姿のサーラにミアは受付から思わず身を乗り出した。
グリアムとサーラは地上に戻ると、まっすぐミアの元に向かう。すれ違う潜行者達も、ひとりだけボロボロになっている姿に首を傾げていくだけで、だれも気に留めなかった。
「ミア、とりあえず医療班に診て貰えるか。回復薬でだいぶ治まったが、水膨れがまだ残っちまってる」
「あらら、本当ね。すぐ医療班を呼びます⋯⋯ノイア、医療班を急ぎで。他の方は大丈夫?」
「ああ、問題ない」
グリアムは、サーラをミアに託し、待たせているラウラ達の元へと舞い戻る。すっきりとしない面持ちで待ち構えるラウラ達。サーラが、医療班に連れられて行く姿に思う事もあるのだろう。
「すまん、待たせた。それとこいつが取り急ぎ今回の報酬だ。ドロップに関しては後で精算して、渡しに行く。それでいいか?」
「ドロップは大したお金にならないでしょう? グリアムさん達で分けて貰っていいよ」
「いいや、ダメだ。急造パーティーほど、こういう事はきっちりしておかないと」
グリアムは背負子から【グールの歯】をふたつ取り出し、ラウラに手渡した。
無事に目的を果たしたというのに、後味の悪い潜行に、ラウラの表情は晴れない。グリアムはあえて微笑み、柔和な表情を見せた。
「そんな顔すんな。そっちもこっちも無事に昇級の目標は達成出来たんだ、良しとしようや」
「まあね⋯⋯でも、あいつら⋯⋯くぅ~思い出しただけで腹立つ、でも、グリアムさんのあの口ぶり、何か考えてるの?」
「何も思いつかんが、このままってのは癪に障るよな」
グリアムは苛立ちを隠さず、厳しい表情を見せると、ラウラはビシっと手を上げて見せた。
「はいはーい! 私も手伝う! つか、手伝わして」
「気持ちは嬉しいが、【ノーヴァアザリア】が出ちまうと、事が大きくなり過ぎる。まずは、どうすりゃいいのか考えるさ」
「む~ん。でも、手伝える事あったら言ってね。こう見えて意外と情報集めとか得意だからさ」
「ああ、分かった。何かあれば、また助けて貰うよ」
「任せて」
ラウラはそう言って口端を上げると、親指を立てて見せた。
「あの子もまだ、入院中でしょう? それに続いてサーラちゃんもだね」
ラウラはそう言って、表情を曇らせる。
「まぁ、サーラはそんなに時間はかからんだろ。順調なら明日明後日には退院出来る。小僧はもう少しって所か」
「そっか。あの子は順調? 元気にしてるの?」
「ああ、時間は掛かっているが順調だ。思っているより元気だよ」
「そっかそっか、なら良かった」
「気を使わせて悪いな」
「ううん、ぜーんぜん。元気なったら教えてね」
「もちろん」
頷くグリアムに、ラウラはニカっといつもの笑顔を見せた。




