その恩返しはリーダーのいない時に Ⅰ
ダン! ダン! と、玄関の扉が強めの音を鳴らす。居間で寛いでいたグリアムが玄関へ振り向くより早く、ヴィヴィは椅子から立ち上がる。暇を持て余していたヴィヴィが獲物を捕らえたかのような素早さで、玄関へと飛び出して行った。
だれだこんな所に?
グリアムの怪訝をよそに、玄関からはヴィヴィの弾む声が居間へと届く。
「ラウラ!」
「やぁ、ヴィヴィちゃん。元気してた?」
え? ラウラ? 何でこんな所に。
まったく予期していなかったラウラの訪問にグリアムは少しばかり困惑してしまう。だが、ヴィヴィは、玄関から弾むようにラウラを引き連れ戻って来た。
予期していなかったラウラの訪問がよほど嬉しかったのか、ヴィヴィは満面の笑みを浮かべてどこかご満悦の様子だった。暇を持て余していたところでの、ラウラの訪問が嬉しくて仕方がなかったのだろう。
「グリアム、ラウラだよ」
「あぁ⋯⋯いったいどうした?」
ニヤリと含みのある笑みを返すラウラに、グリアムは思わず身構えてしまう。その含みのある笑みの裏側を、思わず勘ぐってしまった。
「この間の借りを、早速返して貰おうかと思ってね⋯⋯シシシ」
「そりゃあもちろん、やぶさかじゃないが⋯⋯」
困惑するグリアムの姿に、ラウラは含んだ笑みをさらに深める。
「あの子⋯⋯イヴァンくんは、まだ入院中でしょ? ヴィヴィちゃんとサーラちゃん、ふたり揃ってヒマしてない?」
「まぁ、そうかな。サーラはイヴァンの穴埋めに、上層のクエ(スト)をしてる感じだ」
「ヴィヴィちゃんは、いつも何をしてるの?」
「テールの散歩」
「オーケー、ヒマってことね」
しめしめとほくそ笑むラウラに、グリアムの怪訝は深まるばかり。
先日の借りを返せと言われてノーと言える訳もなく、グリアムはいろいろな思いを巡らせながら、ラウラの目の前にそっとカップを差し出した。
「で、いったい何をさせる気だ?」
「そう構えないでよ。あ! グリアムさんの左肩はどう? 治った?」
「多少痛みというか、違和感が残っているくらいで問題はない」
「オーケー。そしたらさ、ウチの子達とヴィヴィちゃん、サーラちゃんで、C級狙いの潜行行かない?」
思ってもいなかった申し出に、グリアムとヴィヴィは顔を見合わせる。ふたり揃って驚いた顔を見せ合い、ラウラへと視線を戻していった。
「行く! 行く!」
「そいつは願ったり叶ったりだが⋯⋯いいのか?」
ラウラはふたりに大きく頷き、了承して見せた。
「決まりだね。一応、私もついて行くけど、基本手は出さないよ。ウチの子ふたりと、ヴィヴィちゃん、サーラちゃんの四人でパーティーを組んで11階を目指す感じ。ヴィヴィちゃんとサーラちゃんなら余裕でしょう」
「フフ~ン、任せてよ。ラウラの子達も面倒見てあげる」
「さすが! 頼もしいね」
「おいおい、舐めてかかるなよ」
ラウラに胸を張って見せるヴィヴィに、グリアムはあからさまに怪訝な顔を向けた。ヴィヴィの得意技に、『グリアムの不安を煽る』というものが加わり、グリアムから落ち着きを奪い去る。
そんなふたりの様子をラウラはニヤニヤと見つめ、納得の頷きを見せた。
「決まり! 準備して二日後潜るのでどう?」
「分かった、準備しておこう。そっちの面子はどうなっている?」
「カロルって猫の女の子と、アリーチェって女の子。ふたりともD級の盗賊」
「ふたり揃って盗賊か。ま、11階なら問題はないか⋯⋯」
グリアムは一瞬考える素振りを見せる。だが、D級とはいえ【ノーヴァアザリア(新星のアザリア)】所属で、ラウラのお墨付き。優秀なのは間違いないだろうとすぐに考えた。
イヴァンの不在という、動きの取れない【クラウスファミリア(クラウスの家族)】にとって、これ以上ありがたい話はない。
「そう言えば、あの子の具合はどう? 時間掛かると思うけど、元気になって来た?」
「乳繰り合ってる」
「へ??」
意味不明なヴィヴィの返答は、ラウラの頭の中にクエスチョンマークを踊らせる。
「それじゃ答えになってねえぞ。あいつは順調過ぎるくらい、順調って事だよ」
「そっかそっか。ならオーケーだね。よかったよかった」
ラウラはグリアムの言葉にニンマリと満足気な笑みを浮かべ、席を立った。
「んじゃ、二日後。サーラちゃんにも宜しくね!」
「ああ」
「ラウラ、またねー」
ふたりは、玄関に消えていくラウラを見送る。
リーダーの不在で暇を持て余している【クラウスファミリア】にとって、申し分ない話に、グリアムは少しばかり煮え切らない思いを抱えてしまう。
こんなありがたい話で、借りを返す事になんのかねえ?
「またラウラと一緒だ」
「遊びに行く訳じゃねえぞ、しっかり準備しておけ」
「はーい」
ヴィヴィは椅子から元気よく飛び降りると、準備のために物置へと向かった。その後ろ姿を見つめながら、グリアムは呟く。
「いつもと変わんねえじゃねえか」
グリアムは、ヴィヴィが落ち込んでいたという先日のサーラの言葉と、元気に飛び出して行ったヴィヴィとの後ろ姿に差異を感じ、ひとり肩をすくめた。
「ん? グリアム、何か言った?」
「何も言ってねえよ、いいからサッサと準備しろ」
「はいはい」
シッ、シッ、とグリアムが手で払う仕草を見せると、今度はヴィヴィが肩をすくめて見せた




