表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その思い出の先から始まった思い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/223

その思い出から始まった思い Ⅰ

 コツコツと、大きな両開きの扉をラウラは軽くノックした。


「開いてるよ」


 扉越しに、少しくぐもったアザリアの声が届くと、ラウラは静かにその扉を押し開く。

 アイボリーホワイトを基調にした、抑えの効いたパステル調の室内は、明るい性格のアザリアにピッタリとマッチしていた。派手さはなく、落ち着きはありながらもポジティブな雰囲気は、まさしくアザリアのイメージ通りだ。過度な装飾など一切ないシンプルな部屋。その真ん中にあるソファーに、ラウラは体を預けた。


「よっこいせ」

「お茶でいいよね」

「うん、悪いね」


 リーダー自ら、当たり前のようにお茶の準備を始め、ラウラは包帯だらけの疲れた体をだらりと緩めていく。柔らかなソファーに体が沈み、疲労ごと体を包み込んでいった。


「で、何をしてたの」

「ムフゥ~」

「何その意味深な顔」


 ラウラは含み笑いを浮かべたまま、お茶をひと啜り。空っぽの胃に落ちていくお茶が、ポカポカと体の中を温めていった。


「【クラウスファミリア(クラウスの家族)】のリーダーがさ、ダンジョンで行方不明になっちゃったんだ」

「え?! だ、大丈夫⋯⋯」


 アザリアは言葉を飲み込んだ。

 その状況で、大丈夫だった可能性は高くないのが常識。ただ、緩み切っているラウラの姿に緊迫感はそれほど感じず、事の重大さはそれほど伝わって来ない。


「結果的にはね。でも、かなりまずかったよ。18階まで潜っちゃっててさ、よく助かったよね。かなり運がいいんだ、あの子は持ってるよ」

「じゅ、18階? あのパーティーって、もうそこまで進んでるの??」

「うんにゃ、あの子の独断専行って言ってた。で、成り行きで私も手伝う事になって、一緒に探したんだ」

「そっか⋯⋯うん? 独断専行? イヴァンくんって言ったっけ、あの子ひとりで18階まで潜ったの?」

「そうそう」

「あの子B(クラス)だっけ?」

「うんにゃ、C級なはずだよ」


 困惑の表情を浮かべるアザリアに、ラウラは事の経緯を話した。みんなでボロボロのイヴァンを見つけ出し、ベヒーモスの外套をエサにして、運良く護衛を見つける事が出来た経緯も話した。


「凄い! よく助かったね」


 アザリアはラウラの話に驚きを隠せない。18階で、行方不明になった者が助かった話など聞いた事がなかった。


「さすがに途中で諦めそうになったよ」

「しかも、【クラウスファミリア】とラウラだけで探したんでしょ? 奇跡ね。大したエンカウントが、無かったってこと?」

「うんにゃ、普通にあったよ。むしろ厄介なヤツとのエンカウントばっかだったよ」

「うん? 【クラウスファミリア】ってそんなに優秀なの?」

「ムフフフフ。とても優秀だけど、ふたりともD級だよ」


 二度目の含み笑いにアザリアは首を傾げる。


「ラウラがひとりで頑張ったってこと? キツくない、それ」

「いくら何でも私ひとりじゃ無理だって。違くてさ、ほら、大事な人を忘れてない~?」

「大事な人? シンとか一緒だった? とか? それはないか。他にA級の人がいた? あ! 護衛してくれたパーティーだ」

「違うよ! 護衛はあの子を見つけてからだもん。ほら、もうひとりいるでしょ~」

「ええ~分かんないよ」

「もう! グリアムさんだって。グリアムさんが、シェルパモードじゃなくて、潜行者(ダイバー)モードで現れたんだよ。荷物はワンコに任せて、本人は潜行者(ダイバー)モード。深層に辿り着くまでは、ヴィヴィちゃんとサーラちゃんが頑張って、深層からはグリアムさんと私で進んだんだけど、グリアムさんが速くてさ、ついていくのがやっとだったよ。いや、グリアムさん、マジで凄かった⋯⋯って、あれ? アザリア、聞いてる? おーい」


 驚いているのか、ニヤけているのか、見た事のない表情でアザリアは固まっていた。

 ラウラが覗き込むと、アザリアは慌てて我に返る。


「き、き、聞いてるよ⋯⋯って、ことはさ、だよね。きっと、だよね。そう言う事だよね、ね、ね、だよね」

「落ち着け」


 スコーン! と、ラウラの手刀が、アザリアの脳天を直撃した。


「痛っ!」

「ムフ~ン、そう言う事よ。グリアムさんのあの動きはまさしくS級だね。アザリアの恋い焦がれる【忌み子】の地図師(マッパー)は、グリアムさんで間違いない」

「!!」


 口に手を当て、目を見開くアザリアから驚きと喜びが溢れ出す。その姿をニマニマと、いやらしい笑みでラウラは見つめていたが、すぐに真顔に戻った。


「でね、この話はここだけにしておいて。私とアザリアだけのね。グリアムさんは、この事をだれにも知られたくないみたい。黙っていて欲しいって、念を押されたんだ。ま、アザリアには言っちゃうって感じにしておいたから大丈夫。でも、話は広がらないようにしないと」

「そっか。うん、分かった。他言しない。でも、良かった⋯⋯本当に良かった」


 満面の笑みでアザリアは、カップを口に運んだ。喜びとはまた違う安堵に似た落ち着きを見せるアザリアを、ラウラは少しばかり不思議に思い覗き込む。


「何でそんなに恋い焦がれちゃったの? 結構な年の差あるよね」

「いやぁ~恋い焦がれるとか、そう言うんじゃないよ。強いて言えば、憧れかな⋯⋯」


 遠い目をするアザリアに、ラウラはまたニマニマと笑みを見せた。


「ふぅ~ん、何でまた憧れちゃったの? うりうり、言ってごらんなさい」

「そんな大した話じゃないよ、小さい頃の話⋯⋯」


 諦めの溜め息を漏らすと、アザリアは遠い目をしながら、ポツポツと語り始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ