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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その焦燥の先に

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47/223

その焦燥の先に Ⅶ

「チッ! 早速イビルモスか」


 両手を広げたほどの大きさを見せる巨大な蛾が、悠然と漂い回廊を塞ぐ。

 大きな目玉を映したかのような不気味な紋様が、ゆっくりと羽ばたきを見せていた。隠し持つ毒牙に掛けようと、ユラユラと宙に浮かんでいる姿にパーティーの足は止まってしまう。


「グリアム、行くよ。虫だから火だよね! 【炎柱(イグニス)】⋯⋯」

「待て待て、焦るな。こいつに火はダメだ、氷で行け」

「そうなの? ま、いいや【氷球(グラシェ)】」


 ヴィヴィの両手から放たれた吹雪が眼前を埋め尽くす。凍てつく大きな羽は、羽ばたきを失い、地面へと落ちた。羽ばたくことを許されず、地面でピクピクと痙攣するだけのイビルモスの頭をグリアムは踏み潰す。(コア)を失った体は、不気味な紋様を見せるだけでピクリとも動かなくなった。

 イビルモスの亡き骸を、興味深く覗き込むサーラは、その大きな羽へと手を伸ばす。


「触るな。こいつの鱗粉には毒がある。下手に吸っちまうと、呼吸出来なくなるぞ。モノアイと同じ類の神経毒持ちだ」

「おっと、そうなのですね。その事と、火が厳禁っていうのは繋がるのですか?」

「そうだ。本体は火に強くはない。だが、巻き上がる炎を利用して鱗粉も一緒に巻き上げるんだ。その巻き上がった鱗粉を吸うと、モノアイと同じ、気道が腫れて呼吸困難。そんで(しま)いだ」

「まだ回廊なのに厄介ですね」

「だから言ったろ、一気にヤバくなるって。行くぞ」

「はい」


 18階へ繋がる洞口をくぐると、冷たい空気を顔に感じた。同じ静けさでも17階まで感じたものとは明らかに違う。殺気すら孕むその空気に、不穏がパーティーを包み込んでいった。


■□■□


 パーティーは回廊を抜け18階へと足を踏み入れると、洞内は、思いのほか明るい空間が広がっていた。

 サーラは辺りを見渡し、好奇心を隠せないでいる。薄暗い世界を想像していたサーラにとって意外とも言える光景に、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡していた。不気味なほどの静けさと、動かない重い空気の流れは、息苦しさを後押しする。


「15階は抜きにして、下に行けばいくほど明るくなるのが、ダンジョン(ここ)だ」


 キョロキョロと忙しないサーラの姿に、グリアムは警戒しながらも声を掛けた。


「やはり【アイヴァンミストル】が増えるからですか?」

「そうだ。まぁ、増えた所で天井にびっしりだからな、手が届かん。金にはならねえな」

「意外です。下に行くほど暗くなると思っていました」

「11~14階辺りの下層が一番暗いかも知れんな。って、言っている間にお出ましだ。こいつは大した事はない。一気に潰すぞ」


 もぞもぞと地面を這う人の腕ほどはある巨大な芋虫、キャタピラーが地面を覆い始める。ウネウネと地面が揺れているのかと思えるほどの数に、ヴィヴィとサーラは顔をしかめた。見ていて気持ちの良い光景とは言えないが、グリアムはお構いなしにキャタピラーの背中にナイフを突き立てて行った。ラウラの刃もそれに続くと、サーラも急いで拳を振り下ろし、必死にふたりに続く。

 柔らかな背中を破る度に、体液が噴き出し、周辺に悪臭を漂わす。慣れない悪臭に、サーラは盛大に顔をしかめた。


「うわぁ、気持ちのいいもんじゃありませんね」

「文句言うな、こいつがあっという間に、厄介なイビルモスに羽化するんだ。今のうちに潰すぞ」

「はい、師匠」

『ヒャアアアアアアアッ⋯⋯』


 悲鳴にも聞こえる不穏な咆哮が、パーティーに届く。グリアムとラウラに緊張が走り、ヴィヴィとサーラにも、それは伝播する。

 今までのエンカウントとは、明らかに違うふたりの姿は、前を見つめるヴィヴィとサーラの表情を固くさせた。


『『『ヒャアアアアアアアッ』』』


 人の五感を逆なでするその声は、大きくなっていく。耳障りの悪いその声は、間違い無くパーティーに向けられていた。


「グリアムさん、下がってて。サーラちゃん、行くよ」

「頼む。近いぞ」


 グリアムの言葉にラウラは黙って頷くと、外套のフードを被った。ヴィヴィとサーラもその姿に急いでフードを被る。


「リ、リッチですか?」

「そうだ。ラウラが道を作ってくれる、焦らずについて行け。いいな」

「は、はい」

「テール、おまえはこっちだ。来い」


 グリアムの言葉を聞きながら、サーラの心臓は休みなく激しくポンプしていた。前を睨む息遣いは自然に荒くなり、筋肉は強張っていく。激しく上下しているサーラの肩に、グリアムはポンと優しく手を置き、テールと共に最後列へと下がる。


「サーラ落ち着け、焦るな。ヴィヴィ、おまえはテールを守れ。最悪、外套の下に抱え込んじまえば大丈夫だ」

「う、うん」

「来た! サーラ、行くよ!」

「は、はい!」

『『ヒャアアアアアアアッ!!!!』』


 ラウラが地面を蹴る。同時に現れた五体の屍術師(リッチ)。ボロボロの法衣を纏う姿は不気味に映り、顔はフードに隠れて全く見えない。ただぼんやりとフードの奥から赤く光る目がこちらに向いていた。足はなく、フワフワと音も無く、スーッと滑らかな動きでパーティーへと迫る。

 鋭い出足を見せるラウラ。次の瞬間、火、氷、雷と激しい光が坑道を覆い尽くす。燃え盛る炎、パキっと空気は凍り、雷鳴は鳴り止まない。激しく打ち付ける魔法の嵐を、ラウラのスピードが斬り裂いて行く。


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