その初潜行で初体験 Ⅱ
鎚? 鍛冶系のパーティー? 素材集めの潜行か⋯⋯。
もし鍛冶系ならば、希少な素材に食いつきもするわな。だがそうだとしたら、小さな初心者パーティーには、明らかなオーバースペックの超稀少な代物。突っ込まれると面倒だ。
鎚のパーティーは、まじまじとイヴァンのマントを値踏みし、首を傾げている。グリアムは口を閉じ、黙ってその様子を見つめた。
「え? これですか? さぁ? それだと何かあるのですか?」
「⋯⋯いや、いいんだ、見間違いみたいだ。それじゃあな」
「はぁ⋯⋯?」
首を傾げるイヴァンに、鎚のパーティーは手を上げて去って行く。初心者パーティーが、身に着けている訳がないと、無理やり納得したように見えた。
紋章持ちで、ベヒーモスを欲しがる⋯⋯B級で足踏みしている感じか?
18階から現れる│屍術師の魔法に手を焼いているのか、未知の素材に興味津々なのか⋯⋯両方か?
「グリアムさん、これってそうなのですか? ベヒー何とか製? なのですか?」
「さぁ? 気にするな。それより9階だ。気を抜くなよ」
「は、はい!」
そういやぁ、さっきのやつら鍛冶系だよな。素材集め⋯⋯か。悪くねえ。
「なぁ、さすがに何も目的が無いのは張り合いがないんじゃねえか? サーラ、おまえのそのグローブとブーツは鉄製だよな」
「はいそうです、師匠」
「師匠って⋯⋯この先、深層を目指すのなら最低でも【ハイミスリル】。最終的には【リブラニウム】の装備は必須だ。この下層でまず【ミスリル】を狙う。運が良ければ【ハイミスリル】が手に入るが、まぁ確率は低い、期待はするな」
「手に入れると言ってもどうやってです?」
「折り畳みのピッケルを持って来ている。こいつで、壁をガリガリするんだ。素材集めもシェルパの仕事、まぁ、手に入るよう祈ってくれ」
「分かりました、師匠! 精一杯祈ります」
「⋯⋯ああ⋯⋯まぁ、いいか」
サーラの肩に変な力が入ったが、まぁ、放って置こう。
さっきのやつらが下層を荒らしていなきゃいいけどな。
回廊から9階を覗く。いつものように壁に散らばる【アイヴァンミストル】が淡白な光を放ち、潜行者達を誘引する。その光に誘われ一歩足を踏み入れれば、ダンジョンが、踏み込んだ者の欲ごと飲み込もうと襲いかかった。
「この間と同じだ! 同じ轍は踏むなよ」
イヴァン、ヴィヴィ、サーラが黙って頷き、臨戦態勢に入る。
派手な足音が鳴り響き、獲物を見つけたと一気に距離を縮めて来た。大木のような長い腕を振りあげ、短く太い足が地響きを起こす。眼前に迫るその危機に、パーティーの心拍は一気に上がって行く。
対峙する三匹のトロール。
前回と同じシチュエーションに否が応でも緊張が襲う。固くなる体に鞭を入れ、イヴァンは剣を抜き、ヴィヴィはボウガンを構える。そしてサーラは、大きく息を吐き出し、鉄の拳を構えた。
「いきます!」
『『『グォアアアアアアアアアアア』』』
舐めるなと言わんばかりに向かって来る獲物に、トロールは最大級の威嚇を見せる。皮膚が震えるほどの咆哮が響き渡り、自らの存在を誇示せんと、両手を大きく広げ、恐怖に陥れようとした。
その姿は逆にパーティーの冷静を誘う。
前回と同じシチュエーション。
恐怖に呑み込まれる事なく、イヴァンは切り込み、サーラがその後に続く。ヴィヴィは後列のトロールに狙いを定め、ハンドボウガンを構えた。
イヴァンの刃が、左胸の核を一直線に狙う。サーラの鉄靴が、トロールの膝を割る。鈍い破砕音が鳴り、トロールがうずくまる。
「サーラ⋯⋯!」
「分かっています! 師匠! 罠ですよね!」
グリアムが言うより先に、サーラは低い姿勢で飛び込んで行った。
うずくまるトロールの背後へ素早く周り込み、鉄靴の踵を後頭部へと振り下ろす。
「はあっああああああー!!」
体重の乗った鉄の踵がトロールの後頭部を割ると、白目を剥き、前のめりに倒れて行った。ひと息つくサーラの背後に迫るトロールの姿が、グリアム瞳に映る。その極大の拳で仲間の仇を討とうとでも言うのか、長い腕を振り上げサーラへ襲い掛かった。
カシュッ。
乾いた音を鳴らし、ヴィヴィの左腕から短矢が発射された。その放たれた矢の軌道は見事なまでにトロールの目を貫く。
『ガァアアアアアアアアアア⋯⋯』
振り下ろすはずだった腕で、顔を押さえる。いきなり訪れた暗闇に、激しい混乱を見せた。
「こんのぉおおお!」
振り向きざまにサーラの正拳突きが左胸に襲い掛かる。虚をつかれ、弱点が剝き出しとなったトロールに抗う間など与えない。
「はっ!」
イヴァンの刃が首元に触れると、一気に振り抜いた。トロールの太い首は斬り取られ、ゆっくりと自身の作る血溜まりへと崩れ落ちる。
「お見事」
片は一瞬で付いた。
グリアムがパチパチと拍手して見せると、互いに顔を見合せ、互いに少し照れて見せる。
一度遭遇しているとは言え、いい連携だった。この調子で、と言いたいところだがそう簡単にはきっといかんわな。
「ありがとうございます」
「礼を言うところじゃあるまい。さぁ、10階に行くぞ、こっちだ」
アイヴァンミストルの淡い光の導きは、小さなパーティーを更なる危機へと誘って行く。




