その初潜行で初体験 Ⅰ
イヴァンはギルドの扉をくぐると、受付へ向かうことを少し躊躇する。サーラの加入を許した自分の判断が正しかったのか、まだ少しだけ迷いがあった。
窓口から覗くミアの顔を見つけ、イヴァンは意を決し、窓口の前へと進んだ。
「ミアさん、新規メンバーの登録をお願いします」
その言葉にパァっと明るい笑みを浮かべるミアを見て、先程までの迷いは少しばかり薄らいでいく自分の単純さに、イヴァンは思わず苦笑いを浮かべてしまう。だが、やはり「なぜ?」という言葉は頭の中から消えてはいなかった。
「彼女を入れたのね、よかった、よかった。きっと彼女、イヴァンくんの力になってくれるわよ」
「う~ん、そこがわからないんですよ。ミアさんもグリアムさんも、どうしてそこまで彼女を薦めるんですか?」
「そうね⋯⋯まず、彼女はギルドからの話をちゃんと聞く。それこそ、彼女自身が理解するまでこっちは質問攻めよ。どっかのだれかさんなんて、碌に話も聞かず飛び出しちゃうもんね~。そんな人には、しっかり話を聞ける仲間が必要でしょう」
「いやぁ~」
いたずらっぽく見つめるミアに、イヴァンは後ろ手に頭を掻いて見せる。
「そして彼女は、イヴァンくんと同じく、物事に対して真っ直ぐなのよ。正直な話、その真っ直ぐな感じって、潜行者としてS級のレア物。なかなかいないわよ。だからレア物同士、相性がいいと思ったの」
「そうなんですかね⋯⋯」
なかなか納得を見せない渋い表情のイヴァンに、ミアは笑みを深めた。
「そうよ、素直でいい子だったでしょう。私から見たら、パーティーとの相性はバッチリよ。彼女からのパーティー入りの相談を受けたから、ふたつ返事で背中を押したわ」
「⋯⋯そうですか。いろいろありがとうございました、登録お願いしますね」
ミアの話を聞いて、スッキリとまではいかないが、イヴァンの中でわだかまりは減っていた。ここまでミアがサーラを推していたとは思っていなかったのが、大きかったかも知れない。
「登録承ります。イヴァンくん、メンバー増えて良かったね」
「はい」
イヴァンはその言葉に、軽く微笑んで見せた。
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グリアムは黒い外套を頭から被り、いつものように背負子を背負う。前を行くイヴァンは、黒いマントを翻し颯爽と歩く姿はやる気に満ちていた。ヴィヴィは同じ素材とおぼしき黒いローブを身に纏い、小さなサドルバッグを背負うテールが寄り添う。サーラの胸当ては、黒いショートケープに隠され、パーティーでの初潜行に緊張と期待に胸が高鳴っていた。
“【忌み子】と黒いパーティー”
そんな揶揄する声も彼らは気にはしない。堂々と胸を張り前へと進む。
□■
「あら、みんなお揃いじゃない。パーティーらしくなってきたわね、イヴァンくん」
「いやぁ~そうですか? グリアムさんに用意して頂いたのですよ」
ギルドの受付で盛大に照れて見せるイヴァンの姿は、明らかに粗暴な潜行者達とは一線を画していた。そんなイヴァンの姿は相変わらず場違いで、向けられる奇異の目は相変わらずだった。
その目から逃れるように、グリアムは手を振り上げ、パーティーをダンジョンへと導く。
「おい、行くぞ」
「はい! それじゃ、ミアさん行って来ます」
「気を付けてね」
グリアムが深い溜め息をひとつつき、窓口の前を通ろうとすると、受付の向こうのエルフが口端を上げて見せた。
「フフフ、シェルパさんったら、過保護なんだから」
「何がだよ」
「お揃いで纏っているその外套って⋯⋯フフフ」
「⋯⋯チッ、おまえは少し黙っていろ」
「上層なのに、少し大袈裟じゃない?」
「うるせえ。いいんだよ、ほっとけ」
確かにこのエルフの言う通りだった。上層には、ここまでのレア装備を必要とするモンスターはいない。だが、もし万が一また飛ばされでもしたら、生存率を上げるために考えたグリアムの考えた結果がこれだった。
何よりも“生きて帰る”のが命題。そこがブレる事は無い。
だったら、装備させるさ。ダンジョンでは何が起こるか分かりはしないのだから。
□■□■
「はぁっ!」
『ギィッ⋯⋯』
サーラの拳がゴブリンの頭を簡単に打ち抜いて見せた。真っ直ぐに伸びた右腕の先に、首から上を失ったゴブリンが力無く倒れて行く。
サーラの加入で、進行速度は一気に上がった。思っている以上に出来るやつなのはうれしい誤算であり、イヴァンとヴィヴィからの信用度も一気に上がって行く。
イヴァンとサーラに関して言えば、単独でも6、7階層なら問題無く行けるレベルにある。だが、グリアムから見れば、経験不足の感は否めない。
ま、焦らずだな。
目の前で、あっという間に斬られ、潰されるモンスター。グリアムは、金になりそうなものをいつものように拾い、パーティーは先を急いだ。余裕を見せるパーティーの空気が少しばかり弛緩するのは、仕方がないのかも知れない。
「うはぁ、イヴァンさんもヴィヴィさんも、ふたりともお強い。すっごい楽ちんです」
「僕らもこの間より、だいぶ早いよ。お互い様だね」
サーラの笑顔にイヴァンも笑顔で答える。
この辺りなら、まぁ、余裕だし、ひとりで潜るよりそらぁ楽だよな。
ヴィヴィの扱うボウガンの精度も、ゆっくりだが上がって来た。テールに回復薬を持たせる事が出来るようになり、単純に潜行時間が稼げるようになったのも地味にデカイ。回復薬は命綱、量はあるに越した事はないからな。
「そいつはベヒーモス製か?」
9階へと下る回廊で、鎚の紋章を掲げるパーティーとすれ違う。黒い装束の【クラウスファミリア】は、そのパーティーから怪訝な視線を向けられた。




