表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その迷惑の先にあるのは

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/216

その迷惑の先にあるのは Ⅶ

 グリアムは黙ってイヴァンの答えを待つ。サーラもまた、イヴァンの口元を、固唾を飲んで見守っていた。


「う~ん⋯⋯」


 グリアムとミアの思いが、グリアムの思いをグラグラと揺らし、思いは揺れに揺れる。やがてイヴァンの視線は、溜め息と共に静かにサーラへと向いていく。その溜め息が何を意味するのかサーラは分からず、ゴクリと生唾を飲み込むと緊張の度合いを上げていった。


「⋯⋯分かりました、メンバーとして迎え入れます」

「ええっ~!? そうなの~!?」


 イヴァンの言葉は、ヴィヴィの想像と違ったのだろう。少し不貞腐れたものの、渋々とその言葉を受け入れた。その渋い表情に、イヴァンは苦い笑みを返す。


「グリアムさんとミアさんに推されたら、そうなるよね」

「ま、イヴァンがそう言うなら⋯⋯いいけどさ」

「ありがとうございます! が、頑張ります。サーラ・アムと申します。只今D(クラス)で足踏みしている最中です。宜しくお願いします!」

「僕はイヴァン・クラウス。先日C級に上がりました」

「さすがです!」

「⋯⋯ヴィヴィ」

「宜しくお願いします、ヴィヴィさん!」


 グリアムはその様子を黙って見守っていた。その表情にうっすらと笑みも見える。


 ツンツンのヴィヴィにも笑顔を見せるなんざぁ、メンタル最強か? それとも、空気読めないバカか? まぁ、でもこのバカみたいに前向きな空気はパーティーに必要だ。これで下を目指す戦力がひとり増えたな。二人にとっても悪くない選択なはずだ。


「あの⋯⋯案内人(シェルパ)さんのお名前は⋯⋯グリアムさんで宜しいですか?」


 予想していなかった言葉に、グリアムは少し慌ててしまう。


「あ、あぁ、そうだ。まぁ、あんまり気にしなくていいぞ」

「グリアム・ローデンだよ」

「グリアム・ローデンさんですか! 教えてくれて、ありがとうございます、ヴィヴィさん」

「仕方ない⋯⋯さんを取って、ヴィヴィと呼ぶのを許そう。グリアムの名前をちゃんと聞いたからな」


 なにそのツンデレ。

 

 イヴァンは突然立ち上がり、ピシッとサーラに指を差して見せた。


「ウチのパーティーでは案内人(シェルパ)とは呼ばないで下さい。ちゃんと名前で呼ぶように」

「分かりました! リーダー! あ! 名前ではなく、先生と呼んでもいいですか?」

「はぁ?!」


 グリアムの困惑を余所に、イヴァンは大きく頷いて見せた。


「いいでしょう。許可します」

「ありがとうございます」


 へ? 勝手に話を進めるな。


「いやいや、ダメだダメだ。他人が聞いたら、頭のおかしいやつと思われるぞ」

「思われません」


 グリアムの慌てふためく姿など気にも留めず、イヴァンは何故か胸を張る。


 おいおい勘弁してくれよ。面倒事になるのはゴメンだぞ。


「またクソみたいなパーティーが、こいつを餌に絡んでくるぞ。良いのか? 良くないだろ?」

「僕が強くなって、言わせません」

「おお! リーダーカッコイイ!!」

「おまえ、イヴァンの凄さが分かったか!」

「ややこしくなるから、ヴィヴィは少し黙っていろ!」


 今度はヴィヴィが、サーラに胸を張って見せる。


 何だかもうすこぶる面倒臭い。これからこんなんが続くの? 推したの失敗だったかな。


「グリアムさんが導いてくれたので、今があるのです。その事実は変えられません」

「そうだ、そうだ」

「分かったから! でも、先生は止めてくれ。本当に。ダンジョンで、からかわれまくるぞ」

「仕方ないですね。止めてあげますよ」

 

 サーラはヤレヤレと肩をすくめて見せた。


 う~ん? 何だろうか⋯⋯オレが我儘を言っているみたいになってない?


「あ!」


 サーラは何か思いついたのかポンと手を打った。


「今度は何だよ」

「先生は止めます!」

「そうか。分かったか⋯⋯」

「師匠と呼びます」

「は?」

「それでもいいでしょう」

「え?」

「よし、ヴィヴィが許可する」

「何て?」


 何だかもう、また疲れるやつが増えただけなのか。オレ可哀想。だれもオレの言う事なんて、聞いていないものな。


「そう言えば、サーラはどうして上り回廊とは逆方向から現れたの? あの後、探索していたの?」


 確かにイヴァンの言う通りだ。来た道を逆走してくるなら分かる。だが、サーラの出て来た方向を考えるとぐるっと、しかもかなり大回りしないとならない。上を目指していたと考えるならば、解せないよな。


「いえいえ。教わった通りに上り回廊を目指していたのですが、ホブゴブリンの群れとエンカウントしちゃったんですよ。そうすると右に避けたり、左に避けたりするじゃないですか」


 サーラは大きな身振り手振りで、その様子を伝える。


「⋯⋯お? おお」

「そしたら、今度はあのトロールが現れて、また右に避けたり、左に避けたりしますよね」

「⋯⋯あ? ああ⋯⋯?」


 オレは一体何を聞かされているんだ?


「そうなると、もうどっちを向いたのか分からなくなりますよね!」

「へ?」


 え? 何を言っているの? モンスターに追われて、どっちを向いていたか分からなくなった? って話? え? どういう事? 地図師(マッパー)だよね??


「それでサーラは明後日の方向から現れたんだ」

「そうなのですよ。リーダー達と再会出来たのはラッキーでしたよ」


 イヴァンの言葉に、サーラはニコニコと大きく頷く。


 は? なにイヴァンは、あっさり納得しているんだ? 地図師(マッパー)だろ? 書き掛けの地図を肩から下げていたし。え? 何? 違うの? すげぇ混乱する。


「おまえ、地図師(マッパー)だろ? 書きかけの地図を掛けていたよな? 違うのか?」

地図師(マッパー)? え? 私がですか? 地図は描けます! ただ、ちょいちょいどっち向いているか分からなくなるだけです、それだけですよ」

「それだけ⋯⋯って⋯⋯え?」

「え?」


 困惑するグリアムに、サーラは不思議なものでも見ているかのごとく首をかしげて見せた。


 何、その私、おかしな事言っています? 的なリアクション。方向音痴の地図師(マッパー)なんて聞いた事ないし、それでどうして地図書けるんだ?

 あ! 実は適当に書いているだけとか。


「ちょっと見せてみろ」

「今、書きかけしかないけど、それでもいいですか」

「いいよ、早く見せろ」


 ⋯⋯合っている。


 差し出されたのは、遭遇した9階の書きかけの地図。足らない所も多いが、書かれている所はしっかりとマッピング出来ていた。

 

 なんで? いや、むしろマッピング出来るのになんで迷うかな?


「ど、どうですか? ちゃんと描けていますか?」

「⋯⋯ああ。描けている」

「やったぁ! 師匠のお墨付きを頂きました」

「頂いてねえ!」


 地図は書けるが、案内は出来ないやつだと無理くりに納得するしかねえのか? 地図師(マッパー)というより、拳闘師(ピュージリスト)として考えるか。それなら戦力として計算出来る。地図の書ける拳闘師(ピュージリスト)。よし、納得した。


 グリアムもまた無理くりに納得を試みた。


「グリアムさん、次はどうします?」

「まずは10階だ。そこは変わらん」

「師匠、私、C(クラス)に上がりたいのですが」


 少し驚いた顔でサーラが懇願して来た。


 気持ちは分かるが焦る所じゃない。


「焦るな。9、10階あたりから様相がコロっと変わる。舐めてかかると痛い目に遭うってやつだ。おまえ自身、9階でヤバかったじゃねえか。まずは10階を目指す。いいな」

「分かりました」

「潜って、稼いで、下層へのアタックの準備をしろ。何事も一歩ずつだ」


 三人はグリアムの言葉に黙って頷いた。

 

 さて、また準備するか。


「あ!」

「今度は何だ、ヴィヴィ」

「テールがまた大きくなっている」

「んな、馬鹿な⋯⋯って、マジか⋯⋯」


 スヤスヤと床で寝ているテールに目を向け、ヴィヴィの言葉に驚きを持って頷くしかなかった。サーラに気を取られていたが、よく見れば小型犬から中型犬くらいになっていた。


 成長早過ぎねえか? この調子でデカくなったら、一体どこまでデカくなるんだ? 次の潜行(ダイブ)が終わったら、またフルーラ(ルバラテイム)の所に連れて行くか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ