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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その迷惑の先にあるのは

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26/216

その迷惑の先にあるのは Ⅳ

 クソ!


 荷物を背負い、テールを抱えた状態。

 間に合うのか?

 だが、下ろしている時間などありはしない。

 ええい、ままよ、考えるな。

 

 グリアムは、動けない女に手を伸ばす。指先が女の二の腕に触れた。


「おらぁっ!」


 グリアムは、女の状態など考えずに横へと放り投げた。


『『『ガァアアアアアアアアア』』』


 地響きが鳴り、壁が大きく抉れる。咆哮を上げ、トロールが悔しさを全身で露わにした。獲物を横取りしたと、薄気味悪く濁る瞳を、ゆっくりとグリアムに向ける。

 

 どうする? つっても、どうにもならんのか。

 

「テール、あっち行け、ここから離れるんだ」


 トロールと睨み合いながら、ゆっくりとテールを地面に下ろした。


『グウゥゥゥゥゥゥ⋯⋯』


 駆け出すかと思ったテールが、トロールに向かい激しい威嚇を見せる。歯を剥き出し、低い唸りをトロールに向けた。


「コラ、離れろ! シッ! シッ! ⋯⋯のぁっ!」


 グリアムと一緒にテールも横に跳ねる。振り下ろされたトロールの拳が、すぐ横の地面を叩いた。砕けた破片が宙に舞い上がり、体重を乗せた一撃の破壊力を見せつける。

 

 荷物が邪魔だ、クソ。


 ジリっと再びグリアムに圧が掛かる。眼前の迫る黄色く濁ったトロールの瞳とグリアムは睨み合う。

 地面を叩いたトロールの拳が、ゆっくりと上がる。次の一撃は外さないとばかりに、トロールはグリアムを覗き込む。


「いっけーー!!」


 ヴィヴィの叫びと共に放たれた矢は、覗き込むトロールの顔へとまっすぐに飛んで行く。その無防備なトロールの姿勢は、ヴィヴィにとって格好の的となっていた。

 大きくなった的に、狙いすましたヴィヴィの一矢。その矢は黄色く濁った右目を貫いて見せた。


『『『ギャァアアァァァアアア』』』

「もういっちょ!」


 嫌がるトロールの左目をヴィヴィの矢が捉える。光を失ったトロールは、顔を抱え嘆きの咆哮を上げた。


「こら! テール!」


 グリアムの制止など聞く耳を持ってはいない。小さな体でトロールの喉笛へと飛び込んだ。体を大きく反らし、無防備な姿を晒すトロール。その剝き出しの喉笛に、小さな牙が食い込んで行く。

 

 チッ! しゃーない。

 

 グリアムが、舌打ちと共に後ろ腰に携えていたナイフを抜く。そしてその白銀の刃はトロールの左胸を真っ直ぐに捉えた。


「シッ!」

『『『グゥゥゥゥウウウウゥゥ⋯⋯』』』


 トロールの断末魔が尻切れる。

 左胸に突き刺さったナイフをもう一押しと、柄に力を込めていった。核が潰れた感触が伝わり、トロールは崩れ落ちていく。


「おほー! やったぁ!」

「ヴィヴィ! 休むな! イヴァンのフォローだ!」

「分かった」


 すぐ隣では、肩で息するイヴァンの姿が視界に映っていた。


 頑張っているじゃねえか。


 致命傷は与えていないが、イヴァン自身も小傷しか作っていなかった。二匹のトロールを相手取り、しっかりと仕事をこなしていた。だが、すぐ側でピクリとも動かない女の姿に、グリアムは顔をしかめる。


 女を気遣う余裕はねえよな。


「ヴィヴィ、奥のヤツにかませ」

「いいの?」

「ああ。女の状態が、ちとヤバそうだ」

「そっか、分かった。【炎柱(イグニス)】」


 ヴィヴィが灯した導火線が、チリチリとトロールに向けて伸びて行く。

 その細い炎の線がトロールの足元に辿り着いた。

 ゴォォォォゥ! 

 大きな炎の柱が立ち上がる。爆炎は唸りを上げながら、トロールの体を炎で包み込む。


『『『グゥゥゥゥウウウウゥゥアアアアアアア!!!』』』


 悶絶するトロールの隣で、イヴァンの剣が左胸を捉えた。炎を纏う刃が、トロールの左胸に飲み込まれていく。弾ける(コア)の手応えをイヴァンは感じる。焼け落ちたトロールの隣に、(コア)の弾けたトロールは、ゆっくりと倒れて行く。


「ハァアアアアアッー!!」


 イヴァンは吠え、刃は更に左胸に飲み込まれていった。

 トロールから生気は一気に抜け落ち、仰向けに倒れていく。イヴァンは動かなくなったトロールを確認すると、ゆっくり剣を抜き、汗ばんだ額を腕で拭った。


「ヴィヴィ、こいつにこれを飲ませておけ」

「うわっ、これ苦いやつ」

「彼女は大丈夫ですか?」

「さあな、死にはしねえだろ」


 グリアムは心配げに覗き込むイヴァンの姿に、面倒事をまた抱え込んだ気がした。

 

 こいつの次に言う言葉は分かっている。


「グリアムさん⋯⋯彼女を運びましょう」


 ほらな。


 イヴァンの言葉はグリアムの予想を良くも悪くも裏切ることはなく、想像通りの言葉を口にした。


「僕が背負います」


 ヤレヤレとグリアムは首を振り、仕方ないと諦めを見せる。


「絶対言うと思った。おまえが背負うわけにいくまい、はぁ⋯⋯ほら、行くぞ」


 背負子を胸に抱き、ズシリと背中に人の重さを感じながら、上へと繋がる回廊を目指す。


 思ったとおりだ。こうなると思ったよ。


 グリアムの大きな溜め息と共に、【クラウスファミリア(クラウスの家族)】は帰路を急いだ。


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