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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その再会は戸惑いを運ぶ

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その再会は戸惑いを運ぶ Ⅴ

「【守衛省】のヤツらが来るかも知れねえんだぞ!」


 リオンのあまりの緊張感のなさに、レンは声を荒げる。


「でも、要らないものは、レンが片付けてくれているのでしょう?」

「そいつはもう片付けた。薬に繋がるものは何もねえ。けどよ⋯⋯」

「じゃあ、あとは黙ってればいいだけじゃないか」


 まったくと言っていいほど焦りを見せないリオンに、レンは半ば諦めたかのように肩を落とす。


「⋯⋯まったく。エーリッヒの野郎が、どこまで話すかだな」

「ま、なるようになるでしょう。地上(ここ)で商いをしていたわけでなし、緩衝地帯(オアシス)のことなんて、ギルドは気にもしないさ」

「少しは焦れよ」

「ハハ、焦ったところで仕方ないよ。しかし、レンはなぜ彼の名を知っていたんだい?」

「ちょうど野郎を洗っているところだった。ルーファスとかいう、ギルドの副長の腹心らしい」

「へぇ⋯⋯副長の⋯⋯」


 ギルドの副長という言葉に、リオンの表情が変わった。それまでヘラヘラと緊張感のなかったリオンの急な表情の変化に、レンはついていけない。


「何だよ急に。今度は険しい顔して」

「エーリッヒ個人に、強い権限とかってあったと思う?」

「権限? そんなにはねえんじゃねえのか? 副長の腹心ってだけだろう。副長の駒として動いて⋯⋯あ!」


 レンがリオンの真意に気が付いた。


「元締めは、エーリッヒじゃなくて、ルーファスさんじゃない? だとしたら、救うか⋯⋯本人ごと消して揉み消すか⋯⋯どうすると思う?」

「どうするにせよ、エーリッヒの口は割らせないか⋯⋯リオン、特別報酬(ボーナス)払えよ」

「分かっているって。その代わり、しっかりとギルドの動向をチェックしてよね」


 レンは軽くうなずき、執務室をあとにする。

 レンが出て行くとリオンはゆっくりと背もたれに体を預け、好機の匂いに相好を崩した。


□■□■


 エーリッヒは、椅子に浅く腰を下ろし、縛られた手を簡素なテーブルの上に置いている。

 落ち着き払っているエーリッヒを前にして、ファブは、前髪を撫で付けながら頬杖をつき、呆れ顔をして見せた。


「なぁ、エーリッヒ。さすがに同胞を痛めつけるのは、忍びないんだよ。いい加減本当のことを話したらどうだ? うん?」


 穏やかな語り口の裏に、少しばかりの凄みを忍ばせながら、ファブは視線だけをエーリッヒに向ける。そしてエーリッヒは、その視線を静かに受け止めるだけだった。

 微動だにしないエーリッヒの表情に、ファブは辟易しながら尋問を続ける。


「私が自分の懐を肥やすためにやった」

「ハァ~。貴様の家を調べたが、金や宝飾品の類は一切出てこない。隠しているというなら、莫大な量の金を一体どこに隠したというんだ、しかもひとりで」

「わざわざ貯めた金の在り処を話すわけあるまい」

「それでは話を変えよう。この薬はどうやって調達していた?」


 ファブはテーブルの上に、中身は抜いてあるが、綺麗に折りたたみ直している薬包紙を差し出す。


「忘れてしまった⋯⋯あ、見知らぬ猫人(キャットピープル)から、受け取った。どうやって作っていたかは知らぬのだよ」

「さきほどは、犬人(シアンスロープ)と言っていたよな?」

「そうでしたか? 犬人(シアンスロープ)だったかも知れませんね」


 二転三転するエーリッヒの物言いに、ファブはわざとらしく頭を抱えて見せた。


「私はねえ、暴力は好かんのだよ。しかも、貴様の背中のひどい傷痕⋯⋯あれは鞭打ちの傷だ。傷を付けたのはルーファスか? まぁ、だれでも良い。そんじょそこらの痛みや暴力などには屈しそうもない⋯⋯慣れっこなのだろう? だが、暴力だけが話すきっかけとは限らんぞ」


 困り顔のファブだが、いくらでも手はあるとその表情の裏から見て取れた。それでもエーリッヒの表情はピクリとも動かない。背筋を伸ばしたまま、落ち着きを保つ姿はどこか不気味にさえ映っていた。


「食事は与えるな。水を少しだけ与えておけ」

「ハッ!」


 ファブは取り調べの部屋を出る際に、帯同していた衛兵(ガード)に命じる。衛兵(ガード)の敬礼を確認しながら、ファブは取り調べ室を出て行った。


□■


「上着はここで脱いで下さい。武器の持ち込みも禁止です。不審物の持ち込みがないか、検査(チェック)いたします」

「もちろん、問題ないよ。あなた達の仕事ですからね、しっかりとお願いしますよ」


 エーリッヒが捕らえられている牢にルーファスが現れた。

 長い廊下にいくつかの牢屋が並んでいる。だが、牢に入っているのはエーリッヒただ一人。あまり使われることのないギルド牢の廊下に、今は明かりが灯っていた。

 ギルド牢の入口には、衛兵(ガード)がふたり常に立ち、廊下につながる入口にもしっかりと錠が掛けられ、外からの進入を拒絶している。

 ルーファスは外套を衛兵(ガード)に脱いで渡し、両手を軽く上げ、衛兵(ガード)の入念な身体検査(ボディチェック)に素直に応じた。


「そうそう。本の差し入れをしたいのだが、構わないだろうか? 道を違えたとはいえ、ずっと傍にいてくれた者ですから、それなりの情というのはあるものですよ。もちろん、入念に検査(チェック)していただいて、それからです」


 ルーファスはそう言って一冊の本を衛兵(ガード)に手渡した。

 何の変哲もないその本を訝し気な表情で手に取ると、おかしなものが挟まっていないか、入念に検査していく。

 生き方についての指南書。

 捕まっているエーリッヒに贈るには、いささか皮肉めいている。

 衛兵(ガード)のふたりは、ページをパラパラとめくり、本を下に向けてバサバサと勢い良く振っていく。おかしなものが挟まっていないか入念に確認していった。


「おかしなものはないです。こちらです」


 衛兵(ガード)が鍵を開け、ひとりは入口に残り、もうひとりがルーファスを従えエーリッヒのもとに向かう。ルーファスは、薄暗い廊下を衛兵(ガード)のあとに黙ってついて行った。


「しかし、参りましたな。まさか、あのエーリッヒが悪行に手を染めるなんて」


 衛兵(ガード)がチラリと、後ろのルーファスを覗き見ると、口元に苦笑いを浮かべ、首の後ろに参ったとばかりに手をまわしていた。衛兵(ガード)が何事もなかったかのように前に向き直ると、ルーファスの口元から笑みは消え、襟の中に隠していた紙片を本の間に静かに挟み込んだ。


「私がこれを持っているのは、芳しくないですよね。あなたから渡して頂いて宜しいですかな?」


 ルーファスは立ち止まり、衛兵(ガード)に本を差し出した。衛兵(ガード)は一瞬の躊躇を見せるが、ルーファスの意見はもっともだと納得し、本を受け取る。


「エーリッヒ、副長からの差し入れだ」


 衛兵(ガード)の声掛けに顔を上げると、その後ろに立つルーファスの姿が目に入る。エーリッヒの目に映るルーファスの姿は、今まで見たことのないほど冷たく感じ、震えそうになる体を必死に押さえ込んだ。格子の隙間から差し出された本を、震える手で掴み胸の前で抱きかかえる。


「ル、ルーファス様、ありがとうございます」


 エーリッヒは床に付きそうなほど頭を下げ、上げることができない。

 ルーファスは大きな溜め息をつきながら、衛兵(ガード)の前でしゃがみこんだ。


「エーリッヒ、何をやっているのですか?」

「申し訳ございません」

「私に謝っても事は改善しません。その本をよく読んで、()()()()()()()、迷惑をかけないようにするのですよ」

「⋯⋯はい」


 力なく返事を返すエーリッヒに、ルーファスは返事をすることもなく背中を向ける。


「もういいのですか?」

「⋯⋯ええ。もういいのです」


 ルーファスはそれだけ言い残し、牢をあとにした。



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