表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
その暗闇での模索

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

205/230

その暗闇での模索 Ⅵ

 オッタと二手に分かれると、イヴァンは小さくなっていくレンの背中を急いで追って行った。

 本当ならば、獣人を尾行するならオッタの方が向いているはず。だが、きっと本拠地(ホーム)に戻るだけだと踏んでイヴァンに託したのだろう。

 案の定、さして後ろを気にする素振りも見せず、レンは【ライアークルーク(賢い噓つき)】の本拠地(ホーム)へと辿り着く。

 門の中へ消えて行くレンが、門番をしている狼人(ウエアウルフ)の女に乱暴に小袋を突き出すのが微かに見えた。イヴァンは気配を消し、少しずつ門へと近づく。

 狼人(ウエアウルフ)の女が、何か険しい顔で食って掛かるのが見える。だが、レンはそれを一喝して、本拠地(ホーム)の中へ消えてしまう。会話の内容はまったく聞こえず、ふたりの間でどんなやり取りがあったのか不明だが、女の苛立ちは伝わった。


 あの小袋って、きっとエーリッヒと交換したってやつだよね。


 不機嫌を隠さない足取りで、街の方へと歩き始めた狼人(ウエアウルフ)の女を見つめ、イヴァンは迷う。このまま【ライアークルーク】の本拠地(ホーム)の様子を窺うべきか、苛立っている狼人(ウエアウルフ)の女の後を追うべきか⋯⋯。

 一瞬の逡巡の後、イヴァンは意を決し狼人(ウエアウルフ)の女を追うことにした。


□■□■


「チッ」


 エーリッヒがギルドの裏口へと消えて行くのを見届けると、オッタは小さく舌打ちをする。

 アクスに繋がる何かを掴みたかった。だが、エーリッヒの足はまっすぐギルドへ向いただけ。しばらく裏口を張ってはみたものの、エーリッヒに動きはまったく見えない。空振りだと諦め、街の中心へ紛れて行った。

 ギルドの上階で途絶えたアクスの足取り。街で聞き取りでもしようものなら、すぐにルーファスの耳に届いてしまうだろう。【クラウスファミリア(クラウスの家族)】が動いているのは、さすがにまだ勘づかれていないはずだと、オッタは街の喧騒に埋もれながら考えていた。

 だが、勘のいいルーファスのことだ、動いているのがバレるのは時間の問題だろう。そして、その思いはオッタを焦らす。こちらの動きがルーファス陣営に読まれる前に、アクスへ迫りたいのだが、その取っ掛かりすら見えていない。その現実が、さらなる焦りをオッタに呼び込んだ。


 クソ。


 もどかしい思いは心の中で悪態をつかせ、重い足取りで自分の本拠地(ホーム)へと帰還した。


「リーダーと一緒じゃないのですか?」


 オッタの帰還を出迎えたサーラの開口一番に、オッタは浮かない表情で答える。


「ああ。イヴァンには【ライアークルーク】の犬人(シアンスロープ)()けさせた。ここにこう⋯⋯傷のあるヤツがいただろう」


 そう言ってオッタは、自分の頬を人差し指で撫でて見せた。


「いましたね。なんかイヤな感じの人でした。まぁ、あそこはみんなイヤな感じですけど、飛び切りイヤな感じでした⋯⋯って、ギルドに行ったのに、どうしてリーダーがその犬人(シアンスロープ)について行ったのですか??」

「ま、これから話すさ」


 そんな言葉を交わし合いながら、居間の扉を開いた。

 居間には【ノーヴァアザリア(新星のアザリア)】の本拠地(ホーム)から、戻ったグリアムがソファにだらしなく体を預けていた。


「ミアはどうだった?」


 オッタの顔を見るなり、グリアムはギルドの出方を気にした。


「驚いていたよ。その流れでな⋯⋯」


 オッタはミアから、ルーファスの側近を教えて貰い、そのひとりであるエーリッヒをイヴァンと共に尾行したこと。そのエーリッヒがレンと接触し、何かを交換していたこと。そして、エーリッヒと【ライアークルーク】に、信頼関係らしきものは皆無なことを伝えた。


「アクスさん⋯⋯【ライアークルーク】の本拠地(ホーム)に捕らわれているのではないですか!?」


 サーラは憤りを隠さず怒りの形相を見せる。グリアムも冷静を装ってはいるものの、今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑え込んでいるのが伝わった。


「まぁ、待て。気持ちはわかるが、ここは一度落ち着こうぜ。直に見聞きした限り、その答えに辿り着かねえ。アクスが【ライアークルーク】に捕らわれていると考えるには、ちと無理がある」

「何がだ?」


 ひとり冷静なオッタにグリアムは鋭い眼光を向ける。その瞳の光はすでに臨戦態勢に入っていた。


「エーリッヒとレンのやり取りから、そこに信頼関係は見えない。エーリッヒは【ライアークルーク】を下に見て、レンは対等であろうとしていた。そんなところにアクスを預けたらどうなる? 【ライアークルーク】がそれを餌にして、ルーファス側を揺さぶりにかかるのは目に見えているんじゃないか?」


 オッタの言葉に、熱を帯びていたふたりから熱が引いていく。その姿を見て、オッタは言葉を続けた。


「ルーファスは、慎重な野郎なんだろう。関係に綻びが見え隠れしている所へ、アクスを預けるか?」

「ま、預けねえよな」


 グリアムは、トン、トンとテーブルでゆっくりリズムを取りながら落ち着きを取り戻していく。


「なぜ、【ライアークルーク】と繋がっているのでしょうか?」

「見た限り何かの取引相手なんだろう。そしてそこは、利害が一致している。ただ、繋がりはそれしかないんじゃねえか」


 直接見聞きしたオッタの言葉には説得力がある。サーラは黙って納得を見せ、同時にアクスの行方に思いを馳せた。


「ギルドが【ライアークルーク】とね⋯⋯相当きな臭えな」

「隠れてコソコソと取引する物だ、お行儀のいいもんじゃねえよな」

「だろうな⋯⋯しかし、アクスの野郎をどこに隠しやがった」


 グリアムのテーブルを叩くリズムは、焦りとともに速くなっていった。


「そういえば、ヴィヴィさんとパオラさん遅いですね。ルバラさんの所行っているだけですよね」

「ああ」


 グリアムの気のない返事に、オッタがやれやれと腰を上げる。


「ちと、迎えに行ってくるか」

「あ、私も行きます」


 ふたりが居間を出て行くとひとり残ったグリアムは、またテーブルを指で叩きながら、アクスの行方に頭を悩ませた。


□■□■


「ど、どうすんだよこれ⋯⋯」


 袋で顔を隠す二人組が、薄暗い地下牢で激しく狼狽していた。


「どうするっておまえ⋯⋯」


 二人の前には、首を垂れ、床にへたり込んでいるアクスの姿があった。

 二人組のひとりが、アクスの顔を乱暴に掴み上げ表情を確認する。目はうつろで焦点はあっておらず、だらしなく開いた口元から、よだれが垂れている。そして、言葉にならない静かな呻きを上げ続ける姿は、人と言うよりも獣に近く、普段のアクスから想像できない姿だった。


「おまえが量を間違えたからだろう! ひと袋でいいんだぞ! 何でふた袋めを突っ込んだ!」

「効いてねえと思ったんだよ⋯⋯」

「こいつはな! すぐに効くもんじゃねえんだ! 少しばかり時間が掛かるんだよ!」

「し、知らねえよ! だいたい面倒だから、こいつを使おうって言ったのおまえじゃねえか!」


 原因を(なす)り付け合う醜い二人組の争いは、しばらく続いた。だが、それが不毛であることはふたりにも明らかで、床に落ちている二枚の薬包紙を見つめ、ふたりは口を閉じる。


「そ、そもそもこのおっさんが、さっさと口を割ればよ⋯⋯! いらねえことばかりベラベラしゃべって、ごまかしやがるから⋯⋯」


 その声色から苛立ちだけが伝わる。へたり込んでいるアクスを前にして、途方にくれていたふたり組だが、ひとりが指をパチンと鳴らした。


「そうだ! このおっさんが逃げたことにしちまえばいいんじゃねえか?」

「おお! そうか!」

「そんで、適当に殺しちまえば⋯⋯」

「あのエルフに怒られはするが、使い物にならなくなったことはバレねえ」

「ああ。また捕まえろってなるに違いない。そうなりゃあ、適当に探すフリして、のらりくらりとすりゃあいい。森の中でバラしちまえば、森の獣が喰ってくれる。そのうち、エルフも諦めるだろう」


 ふたりは袋越しに、下卑た笑みを浮かべ合う。


「さっさと取り掛かるぞ」

「おう」


 へたり込んでいるアクスの体を抱えると、力の入らないアクスの体を引きずるように、夜の始まる森を目指した。


□■□■


 狼人(ウエアウルフ)の女は、脇目も振らずにダンジョンへと入って行く。人気のない夜のダンジョンを前にして、イヴァンは一瞬の躊躇を見せるが、すぐに女の後を追っていった。


 こんな時間にダンジョンに行くなんて⋯⋯いったいどこに向かう気なのかな?


 上層を一気に駆け抜け、下層へ向かう。襲い掛かるモンスターをものともせず女は下を目指した。

 そして下層も終わる14階に差し掛かると、イヴァンの中でひとつの考えが浮かび上がる。いくら鈍いイヴァンでも、その絵図は描けてしまう。


 緩衝地帯(オアシス)を目指している⋯⋯あの袋の中⋯⋯いや⋯⋯まさか⋯⋯ギルドが絡んでいるとかないよね? でも、【ライアークルーク】が絡んでいるのはおかしくはない⋯⋯。

 もし、本当にギルドが快楽薬(ドラッグ)をバラ撒いているとしたら!? 

 ⋯⋯て、本当にそうならマズくない? 

 でもまだ、そうと決まったわけじゃない。


 イヴァンは女の背中をあらためて睨み、再び後を()けて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ