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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
そのダンジョンシェルパはA級(クラス)を導く
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そのダンジョンシェルパはA級(クラス)パーティーを導く XX

「うん? 何でおまえらがいるんだ??」

「師匠!」


 休憩所(レストポイント)に顔を覗かせたグリアムは、そこにいるはずのないサーラの姿に、思わず立ちすくんでしまう。サーラはそんなグリアムの姿に破顔し、他のメンバー達も安堵の表情を見せた。


「アリーチェが負傷してしまって、僕達(クラウスファミリア)が護衛をしながら、治療師(ヒーラー)の方と一緒にここまで潜って来たのです」

「えっ?! アリーチェがどうしたって!?」


 イヴァンの言葉が耳に入り、ラウラは焦った様子で、休憩所(レストポイント)へ身を乗り出した。傷だらけで眠るアリーチェの姿にラウラは絶句してしまう。


「とりあえず、容態は落ち着いています」

「ルイーゼ? 何でいるの⋯⋯そっか。ルイーゼが助けてくれたんだ」


 小さなエルフの存在にラウラは、全てを理解する。

 安堵と共に投げかけたラウラの言葉に、ルイーゼは何故か首を横に振ると、休憩所(レストポイント)の中をぐるっと見回した。


「私だけじゃありません。みんなです、ここにいるみんなです」

「そっか。じゃあ、みんなにありがとうだね」


 ラウラは落ち着いた表情を見せ、何度も頷いて見せた。


「とりあえず、アリーチェの容態が落ち着いているうちに、緩衝地帯(オアシス)まで、行っちゃわない?」


 アザリアに異論を唱える者はおらず、【クラウスファミリア(クラウスの家族)】を含め、大きくなったパーティーが、15階を目指し始めた。


■□■□


 15階の拠点で待っていた【ノーヴァアザリア(新星のアザリア)】の構成員(メンバー)達から、アザリアの姿に歓声を上げた。だが、イヴァンに背負われている、傷だらけのアリーチェの姿に、歓声はざわめきへと変わってしまう。


「イヴァンくん、そこの医療テントにアリーチェを運んで貰える? 今回は、いろいろありがとう。【クラウスファミリア】に、いっぱい助けて貰っちゃったね」

「いえいえ、そんな大した事はしてないですよ。僕たちこそいい経験をさせて貰えましたし、マッテオさんや、ハイーネさん、カロルやアリーチェにたくさん助けて貰いましたよ」

「帰ってさ、落ち着いたら、総括も兼ねて打ち上げをしよう! 【クラウスファミリア】も絶対参加だよ」

「はい。喜んで」

「じゃあ、ひと休みしたら帰ろうね」

「了解です」


 アザリアとイヴァン、リーダー同士が短い言葉を交わし、パーティーはひと時の休憩に入っていった。


■□■□


 長く感じた潜行(ダイブ)も、大きな洞口から零れる陽光にようやくの終わりを告げる。目に飛び込む光は、ダンジョンの淡い光とは違い、だれもが目を細めながら地上へと躍り出た。安堵は自然と表情を緩め、緊張から解放された者達は大きく伸びをしたり、談笑をしたりと、地上を謳歌する。


「この()をお願い」


 アザリアがギルドの職員に声を掛けると、職員達は慣れた動きでストレッチャーを用意した。

 ストレッチャーの上で静かな寝息を立てているアリーチェは、そのままギルドの医療班へと引き継がれ、【ノーヴァアザリア】の構成員(メンバー)達がその姿を見送る。ヴィヴィやサーラも、少し離れた所でその様子を見つめ、アリーチェが元気な姿で戻って来る事を静かに願っていた。


「今回はありがとうございました。また何かありましたら、宜しくお願い致します」


 イヴァンは【ノーヴァアザリア】に深々と頭を下げると、他のメンバー達もそれに倣った。


「いやいや、止めて止めて。お互い様でしょう」

「本当そうだよ。ウチらも【クラウスファミリア】には、お世話になったんだからさ」


 アザリアとラウラの慌てっぷりに本気で言っているのが伝わり、イヴァンは素直に顔を上げる。

 永遠にも感じた特別な潜行(ダイブ)が終わりを告げた。満面の笑みとは言えないが、ひとまずみんながここに戻れた事に、自然に表情は綻んだ。


「それでは、僕達はここで⋯⋯」

「あ! イヴァン! ちょっと待て」

「マッテオさん?」


 帰路につこうとするイヴァンを、息せき切りながらマッテオが追いかけて来た。その姿にイヴァンはつい首を傾げてしまう。


「イヴァン、こいつを持って行け」


 マッテオが手渡したのは、黄色と黒のマーブル模様の目玉ほどの小さな玉。その小さな玉にイヴァンは見覚えがあった。


「マッテオさん、これって⋯⋯」

「お! さすがに知っているか。【ディグニティハニー】、B(クラス)への昇級(ランクアップ)アイテムだ」

「え? でも、だって、今回は僕達だけじゃなくてマッテオさんや【ノーヴァアザリア】の方々がいたから⋯⋯」

「おいおい、何言ってんだ? あの蜂の群れをぶっ潰したのは、おまえ達だろ。しかもA級のモンスターも討伐してんだぞ、おこぼれでの昇級な訳あるまい。いいか、確かに渡したぞ。さっさと昇級(ランクアップ)しろよ、いいな」


 渋るイヴァンにマッテオは、さも当たり前と言わんばかりに言い放ち、半ば強引にイヴァンの手に【ディグニティハニー】を握らせた。イヴァンは【ディグニティハニー】を握り締め、昇級(ランクアップ)への戸惑いを隠せぬまま、マッテオの背中を見送る。


「イヴァン、どうしたの?」


 手の平にアイテムを乗せたまま佇んでいるイヴァンに、ヴィヴィは首を傾げる。


「ヴィヴィ、どうしよう⋯⋯マッテオさんから、B級への昇級アイテム貰っちゃった」

「ええ! 良かったじゃん!」

「いいのかな⋯⋯?」

「え? そこ躊躇する?」


 躊躇するイヴァンを、ヴィヴィは怪訝な瞳で覗き込む。


「どうされたのですか?」

「サーラも言ってあげて。何かB級に上がるのを渋ってんの。訳分かんないよ」

「おお! リーダー昇級(ランクアップ)しましょうよ。迷う理由なんてあります?」

「でもさ⋯⋯」

「ああ! もう! イヴァンってば、煮え切らない男だね。何をそんなに躊躇してんの?!」

「ヴィヴィさん、リーダーはあの18階の件以来、自己評価が低いんですよ。でも、そこまでご自身を卑下する事はないと思うのですが⋯⋯あ! 師匠! リーダーが、B級に昇級(ランクアップ)してもいいですよね?」

「ああ? いいんじゃねえの。パーティーで20階まで行ったんだろ」


 ぶっきらぼうに答えるグリアムに、イヴァンは俯いたまま静かに喜びを爆発させる。結局、イヴァンの中で一番引っかかっていたのは、グリアムの了承を貰えないのではないかという懸念だった。

 18階で暴走し、迷惑をかけ、グリアムにしっかりと釘を刺された。それがイヴァンの中で、昇級(ランクアップ)への大きな足枷になっていたのだ。

 グリアムにとっては何気ないひと言でも、イヴァンはその足枷から解き放たれ、手の上にある【ディグニティハニー】をあらためてギュっと握りしめた。


「ミアさんの所に寄ってから帰ります!」

「ああ、行け行け。オレ達は先に戻ってるぞ」

「はい!」


 イヴァンは今にもスキップしそうな軽やかな足取りで、ミアの待つ受付へと駆け出した。

 そんなイヴァンを横目に【クラウスファミリア】は本拠地(ホーム)へと帰り始める。


「グリアム、元気ないね」

「ですです。師匠、お疲れですか?」


 ヴィヴィとサーラはグリアムの背中越しに声を掛けた。


「最深層は老体に堪えるんだよ」

「やだねぇ~おじさんは」

「ヴィヴィさん、師匠でも最深層は大変って事ですよ」

「サーラはすぐグリアムの味方をするからなぁ」

「それはそうですよ、師匠ですもの」

「はいはい」


 胸を張るサーラに、呆れて見せるヴィヴィだった。


「おい、何やってんだ? 早く行こうぜ」


 オッタの隣で不機嫌そうなルカスが、少し先から手招きしていた。


「今行く! ほら行こう」


 ヴィヴィはグリアムの手を引き、足早にルカス達の元へと急いだ。


「あれ? イヴァンは?」

「リーダーは昇級(ランクアップ)の手続きをしに、ギルドの受付に寄っているので、私達は先に帰りましょう」

「ふ~ん」

「ルカスさんは相変わらずランクに興味はないのですね」


 昇級(ランクアップ)に興味のないルカスが、それを隠さず薄い返事を返す。

 地上に戻って来たのを噛みしめるように地面を踏みしめながら、【クラウスファミリア】は、本拠地(ホーム)への帰路についた。



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