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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
そのダンジョンシェルパはA級(クラス)を導く
122/202

そのダンジョンシェルパはA級(クラス)パーティーを導く XV

 迫り来る単眼鬼(サイクロプス)———。

 迫り来るA(クラス)のモンスターにも、【クラウスファミリア(クラウスの家族)】は落ち着き払っていた。

 たとえイレギュラーであろうとも、絶望と言うほどの脅威ではないと、だれもが思う。

 あの18階で、イヴァンを求め、彷徨い歩いた時に比べれば⋯⋯と。


「ルカスくん! 足止め出来る?」

「ハハ、だれに言ってんの!」


 イヴァンの声に、ルカスは自ら鼓舞するように声を上げ、緑色の巨体へと最速で飛び込んで行く。腰のポーチから(トラップ)を取り出し、迫り来る単眼鬼(サイクロプス)との距離を計る。


「ほれ」


 ルカスが(トラップ)を、地面を滑らすように投げ込んだ。(トラップ)に仕込まれたハチトリ草が開き始めると、オッタが自慢の跳躍力で、ルカスを追い越して行く。

 パリッ。

 単眼鬼(サイクロプス)が、(トラップ)を踏んだ。ハチトリ草に包まれていたシビレキノコが姿を現し、極太の足がそれを踏みつけると、電流が駆け抜けたかのように一瞬の硬直を見せる。

 両手にナイフを握るオッタはその瞬間を待っていた。

オッタは、一瞬の硬直を見せる単眼鬼(サイクロプス)の体を駆け上がった。不気味なほど大きな単眼目掛け、そのナイフを向ける。

 ギョロっと血走る目玉に、オッタの姿が映る。オッタは構うことなく、ナイフを握る手を伸ばした。

 カツン!

 額の一角は、オッタのナイフを弾き返す。だが、もう一方の手に握るナイフが、血走るひとつ目に振り抜かれた。


 クソ、浅い⋯⋯。


 オッタは手応えのなさに、つい顔をしかめてしまう。

 単眼鬼(サイクロプス)はすんでのところで頭を振り、オッタの刃を逃れた。単眼鬼(サイクロプス)の、頬に付いた浅い傷から血が薄っすらと滲む。視界の端に映る滲む血を見つめると、足元に飛び込むふたつの影が、血走るひとつ目に飛び込んで来た。

 ルカスの長い剣が脚の腱を狙い、サーラのミスリル製の拳が膝を割ろうと振り抜かれる。


「避けて!!」


 イヴァンの叫びにふたりは手を止め、横へと跳ねた。単眼鬼(サイクロプス)の振り下ろした岩のような拳が、ふたりの間の地面を叩き、周囲の小石を巻き上げながら地面を大きく抉った。


『『オッ! オッ! オッ! オッ!』』


 単眼鬼(サイクロプス)は、自身の体に傷を付けられた怒りと戸惑いからか、激しい威嚇の声をパーティーに見せる。仕切り直しを計るため、パーティーは一度距離を置き、単眼鬼(サイクロプス)と睨みあい次の一手を模索していった。


「【氷壁(グラシェフリーギ)】」


 ヴィヴィの放った蒼光が地面を走る。

 パキッ。

 単眼鬼(サイクロプス)の足元を冷気が覆い、その周辺を足ごと氷漬けにして見せた。地面から冷気が漂い、ダンジョンの温度を一気に下げると、その場にいた全員の吐息は白くなる。だが、パーティーの熱は、その冷気に反比例するかのように加速する。


「ヴィヴィ! ナイス!」


 ルカスは武器を構え、単眼鬼(サイクロプス)へと飛び込む。


 単眼鬼(サイクロプス)の動きを封じた。


 と、その光景にだれもが思う。

 足元からおびただしい冷気が立ち込め、動かない足に単眼鬼(サイクロプス)は戸惑いを見せ、氷漬けの足を何度も引き抜こうとしていた。


「ハッ!」


 ルカスの剣が、動きの止まった単眼鬼(サイクロプス)の足を狙う。


「私も行きます!」


 サーラがルカスの後を追うように、単眼鬼(サイクロプス)の懐へと飛び込む。

 

 笑った。


 いや、そう見えただけかも知れない。イヴァンの目に映った単眼鬼(サイクロプス)の口角が不敵に上がったように見えた。その姿に、つい判断が鈍ってしまう。


 何今の? 気のせい?


 単眼鬼(サイクロプス)が、足元に広がる氷をいとも簡単に蹴り上げ、そのつま先はルカスの腹を捉えた。


「ぐぼっ!」

「え?! 嘘!?」

「ルカスさん!」


 ルカスの体は大きく「く」の字に曲がり、空中に舞い上がる。その姿にヴィヴィは顔を曇らせ、サーラは足を止め、ルカスの下へと駆け出す。ルカスは、くの字に体を折ったまま、地面に転がっていた。その表情は苦悶に満ち、その衝撃の大きさを物語る。

 単眼鬼(サイクロプス)のひとつ目が、ギョロリと地面に転がるルカスに向けられると、(トラップ)を踏みつけたときのように、その足をルカスに向けた。

 振り下ろされる足。その下で呻くルカス。

 サーラの伸ばした手が、ルカスの腕を掴んだ。迫る極太の足に、サーラは全身を使いルカスを引き摺って行く。


「ルカスさん! ほら、起きて! 頑張って!」

「⋯⋯クソ⋯⋯ガハァッ!!」


 引き摺られるルカスの足を極太の足が襲う。サーラの献身も虚しく、ルカスの足は極太の足に踏みつけられた。


「サーラさんこっち! 急いで!!」


 ルイーゼが小さな体を伸ばし、必死に手招きをする。その姿にオッタとイヴァンが、単眼鬼(サイクロプス)へと飛び込んだ。

 ルカスの足はあらぬ方へと曲がり、痛みで顔を歪めていた。ルカスの額に浮かび上がる尋常ではない汗の量が、事態の深刻さを現している。


「リー! 手を貸して」

「⋯⋯ぁあ⋯⋯」

「サーラ、ここを任す!」


 ルイーゼが、重傷者を前にして茫然と佇んでしまっていたリーの手を引く。マッテオは、サーラと入れ替わるように単眼鬼(サイクロプス)へと飛び込んだ。


「オッタはもう一度目を狙って! マッテオさん、僕と足を狙いましょう!」


 ふたりはイヴァンに軽く頷き、的を散らす為に左右に散って行く。

 愚直なまでに、セオリー通りの攻め方を貫く旨をイヴァンの言葉は伝え、パーティーはそこにしか突破口は見出せていなかった。

 オッタが、森の狩猟者(ハンター)としての本能のまま再び単眼鬼(サイクロプス)を駆け上がる。単眼鬼(サイクロプス)の視線が、オッタに向くとイヴァンとマッテオは、足元に飛び込み足を切り裂く。

 ガツッ! と単眼鬼(サイクロプス)の極太の足がふたりの刃を跳ね返すと、マッテオにその足が振り上がる。眼前へと迫る極太の足に、再び刃を向けた。ぶつかり合うマッテオの剣と極太の足。


「⋯⋯ぐっ!」

「マッテオさん!」

「大丈夫だ!」


 マッテオの剣は浅い傷を作っただけで、後ろへ吹き飛ばされ地面を転がった。


「シッ!」


 オッタのナイフが再び単眼を狙う。オッタへと向けられる一角。


 そいつはさっき見たよ。


 オッタのナイフが、一角をすり抜け単眼へ向けられる。


「オッタ! 避けて!」


 イヴァンの叫びより早く、オッタは単眼鬼(サイクロプス)の肩口から飛び降りていた。

 バチン!

 単眼鬼(サイクロプス)の分厚い両の手が、虫でも潰そうかとの勢いで肩口で合わさる。もし少しタイミングが遅れていたら、その掌に潰されていただろう。


『『グォオオオオオオオオオー!!!』』


 単眼鬼(サイクロプス)が吼える。取るに足りないはずの人間相手に思うように行かない様に、苛立ちを激しく募らせた。

 カシュっと乾いた音を鳴らし、ヴィヴィの狙いすましたハンドボウガンが、単眼目掛け短矢を放つ。虚を突いたその攻撃に、単眼鬼(サイクロプス)の反応が一瞬遅れた。


『『グォオオ⋯⋯』』


 頬に突き刺さった矢を引き抜き、単眼鬼(サイクロプス)は静かに怒りを滾らせる。鬱陶しいパーティーを、冷めた視線で見下ろした。

 その視線を突き破るオッタのナイフが三度、単眼を狙う。オッタを振り払おうと、岩のような拳を単眼鬼(サイクロプス)は自身の肩口に向けた。ナイフを振り抜いたオッタに岩のような拳が襲い掛かる。


 しまった⋯⋯。


 オッタはその拳から逃れようと、単眼鬼(サイクロプス)の肩口を蹴り上げた。空中へ舞い上がるオッタ。だが、それは逃げ場を失ったとも言えた。体の自由を失ったオッタに、単眼鬼(サイクロプス)の拳が襲う。拳は岩となり、オッタを吹き飛ばす。


「オッタ!」


 イヴァンの悲痛な叫び。サーラがオッタの下へと飛び出した。

その様子を傍観している訳にはいかない。イヴァンとマッテオも再び単眼鬼(サイクロプス)の足元へと飛び込んで行く。


「リー! ルカスさんの足を真っすぐにして。ルカスさん、ごめんなさい。痛いです」

「こ、こうか?」

「うがぁっ!」


 リーは恐る恐る、あらぬ方向に曲がってしまっているルカスの足を捻った。痛みに悶絶するルカスの姿にリーの拍動は激しくなり、つい手を放しそうになってしまう。


「もう! もっと! ちゃんと真っすぐにして。ルカスさんが痛いだけだよ」

「あ、ああ⋯⋯すまん」

「かまわねえから、早くやれって! 痛っ⋯⋯!」

「【癒光(レフェクト)】」


 ルイーゼの手から白光球が、痛みを耐えるルカスの足へと落とされる。まばゆく輝く白い光の球は、ゆっくりとルカスへと落ちていった。



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