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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
そのダンジョンシェルパはA級(クラス)を導く
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そのダンジョンシェルパはA級(クラス)パーティーを導く Ⅺ

 建付けの悪い窓から眼下を覗いている。大きな傷跡の残る左目が、階下へと急ぐパーティーに鋭い視線を送っていた。


「レン、何をそんなおっかねえ顔で睨んでんだ? 仕事終わったんだぜ、気抜いていこうや」


 傷跡を残す犬人(シアンスロープ)が、やれやれと溜め息をつく女ドワーフに、眼下を顎で指した。


「ナタリナ、見てみろ」

「あれ? あいつ⋯⋯20階にいたやつじゃねえか。あ! あの小僧も見たぞ!」

「あいつら、オレ達の後を駆け上がったんだ。あいつらのアシストをしちまったようなもんだ」

「分ってりゃあ、モンスター残しておいたのにな」

「ああ。気に入らねえ」

「仕掛けるのか?」

「⋯⋯いや、さすがにこっちも疲弊している。それにあいつらC(クラス)だぜ、なんもしなくとも自滅するかもしんねえしな」

「あれC級か⋯⋯」

「【クラウスファミリア(クラウスの家族)】、C級だ。紋章がねえだろ」

「ホントだ。手出しする事もねえか」

「まあ、そうだな⋯⋯」


 レンは煮え切らない返事をナタリナに返すと、深層を目指すパーティーに冷めた視線を送った。


■□■□


 マッテオの後に続く【クラウスファミリア(クラウスの家族)】が、16階へと足を踏み入れると、待ち構えていたかのようにダンジョンが微かに揺れた。


「チッ! 哭きやがった」

「これで怪物行進(パレード)のマージンは、なくなってしまいましたね」


 先を急ぎたいイヴァン達を嘲笑うかのような、ダンジョンの哭きにパーティーの表情は曇る。


「ああ、リセットされちまった。まったく⋯⋯」

 

 先頭のマッテオが、苦い顔で通路の先を睨む。モンスターが産み落とされた事を告げるその揺れは、パーティーに緊張を運んだ。


「ひぃっ! だ、大丈夫ですかね」


 ルイーゼは小さな体を更に小さくして怯える姿を見せ、寄り添うリーも不安からなのか、忙しなく何度も背負子を背負い直し、辺りを見回し続ける。


「この辺は大丈夫だよ。イレギュラーがなければ、余裕の余裕よ」


 テールと共に、ルイーゼとリーに寄り添うヴィヴィは、フフンと胸を張って見せた。


「ヴィヴィさん、深層は怖くないのですか?」

「う~ん、怖くないって事はないけど、それよりアリーチェが心配。それにウチらは結構強いから」

「皆さんまだC級ですよね?」

「ううん」


 ヴィヴィがブンブンと首を振って見せると、ルイーゼの顔が綻んだ。


「あ! B級の方とか⋯⋯もしかしてA級の方がいたりするのですか?」

「ううん。N級とD級。あそこのふたり」


 ヴィヴィは前を歩く、ルカスとオッタを指差した。


「え? N級とD級? えええっー!」

「ルイーゼ、声大きいよ~」

「す、すいません」

「ふたりとも凄く強いから大丈夫だって」

「でも、N級とD級なのですよね⋯⋯?」

「そう」


 ルイーゼの不安にあっけらかんと答えるヴィヴィに、ルイーゼの不安はむしろ募っていく。


「来るぞ!」


 前を行くマッテオの声と同時にパーティーに迫り来る二頭の大猪(レギアボアス)が視界に入る。猛然と地面を蹴り上げ、まっすぐに襲い掛かる二頭の大猪に、パーティーの集中は自然と上がっていった。


「ルカスくん! 引き離して! オッタはこっちに誘導を!」


 ふたりはイヴァンの声に頷く事もなく、大猪へと飛び込んで行く。


「オッタ、お先! ほれ! 猪公(いのこう)! こっちだ!」


 ルカスは大猪の眼前に飛び込むと、パーティーから引き離そうと横へと跳ねた。大猪は、ルカスの背中を睨み、舐めるなとばかり鼻息荒く突進を見せる。その姿にルカスは、余裕の笑みを浮かべ地面を蹴り上げた。

 オッタもまた、大猪の眼前に飛び込むと、大猪の足が一瞬止まる。オッタの冷ややかな視線と大猪の荒ぶる視線が絡み合い、大猪は前脚でガリっと地面を掻いた。


「こっちだ、ついて来い」


 オッタは踵を返し、パーティーへと駆け出す。大猪は逃すまいと地面を蹴り、オッタの背中を猛追した。


「サーラ! 来るよ!」

「はい!」


 イヴァンの声にサーラの表情は一層引き締まった。地面を踏みしめる大猪の重い足音が、大きくなり、オッタがみるみるうちに近づいて来る。

 大猪から逃れるようにオッタが横に転がると、サーラが入れ替わるように大猪の前へと飛び込んだ。迫る大猪に臆する事なく、自身との距離を計っていく。大猪の大きな牙が、サーラを串刺しにしようと頭を下げた。


 今!


「ハアァッー!」


 サーラの踵が、大猪を襲う。|体を回転させながら鉄のサマーソルトキックを、大猪の脳天へと落とした。全体重を乗せた鉄の踵は、激しい打突音と共に大猪の脳みそを揺らし、大猪の体はぐわんぐわんと揺れ始め、大きな隙を生む。


「ハッ!」


 サーラは間髪容れず、揺れている大猪の横面に、回し蹴りを放り込む。大猪の横面は鉄の踵に歪み、揺れ続ける脳みそをさらに揺らされた。大猪の支える四肢から力が抜けていく。揺れる脳みそに、平衡感覚が崩れていった。

 バタン! と、土煙を上げながら横倒しになる大猪。大猪の飛びかけの意識は、モンスターとしての本能すら忘れ、無防備な姿を晒した。


「シッ!」


 イヴァンの剣が、横たわる大猪の胸に突き刺さる。


「フッ!」


 イヴァンは握りしめている柄に力を込めると、ズズっと大猪の胸に剣が飲み込まれていく。カツンと、切っ先に何かが当たる感触に、イヴァンはさらに押し込んだ。

 パキっと、核を割った感触が切っ先から届き、イヴァンは剣を引き抜く。

 そして、大猪の体はバラバラと飛び散り沈黙した。


『ブウォオオオッ!!!』


 大猪の怒りの咆哮が響く。壁を背にするルカスに、大猪の血走った瞳が怒りを湛える。大猪の前脚が地面を掻き、次で仕留めると圧を強めた。余裕の微笑みを見せるルカスと、本能のままに怒りを見せる大猪が睨み合う。


『ブゥフッ!!』


 睨みあうルカスと大猪の間に、オッタのナイフがその俊足で割り込んだ。

 大猪の血走った瞳が真っ赤に染まっていく。唐突に視界の半分を失い、大猪に怒りと混乱が入り混じる。瞬足を誇るオッタのナイフは、確実に大猪の眼球を斬り裂き血で染める。


「ほらほら! どうした! ガラ空きだぜ」


 ルカスの細身の長い剣が、死角から大猪を狙う。オッタが切り裂いた眼球目掛け、その細身の剣をしならせると、切っ先は顔の奥へと飲み込まれていった。


「出遅れた!」


 マッテオの剣が、混乱している大猪の喉笛を掻き切る。


『⋯⋯ブシュ⋯⋯ブシュ⋯⋯』


 喉から漏れる空気によって、咆哮はもう声にならない。自身の血で溺れ、バタバタと悶絶する大猪から、距離を保ちパーティーはしばらく見つめていた。やがて大猪の動きは緩慢になり、瞳から生気が失われていくと前脚から崩れ落ちるように地面に倒れ、ダンジョンに静寂が訪れる。


「ふぅ~。しかし、見事な連携だったな。C(クラス)のパーティーとは思えんぞ」


 マッテオの素直な賛辞に、【クラウスファミリア(クラウスの家族)】は少し照れながら互いの顔を見合った。


『グルゥ⋯⋯』


 だが、次の瞬間。

テールが背後を睨み低い唸りをあげる。一同が背後へ視線を移すと静かな圧を感じ、だれもが先を睨んでいった。

 ブーンと唸りを上げるいくつもの羽音が、空気の緩みを許さない。一瞬で緊張へと引き戻され、後方を睨んだ。


「なんだ? これ⋯⋯」


 マッテオから零れた言葉が異常事態を告げる。通路を覆いつくす人喰い蜂(キラーホーネット)の群れが、羽音ともに人を喰わんとばかりにカチカチと不気味に顎を鳴らした。その尋常ではない数に、パーティーの背中に冷たい物が走る。


「ひ⋯⋯ひぃっ!」

「下がるぞ!」


 迫り来る人喰い蜂(キラーホーネット)の大群に、ルイーゼは恐怖のあまり頭を抱えてしまい、体も思考も硬直してしまう。リーはそんなルイーゼの手を引き必死に後ろへと下がって行った。


「いっくよー! 【炎槍(ファルゴ)】!」


 ヴィヴィの手から放たれた、無数の炎の槍が次々に蜂の羽と体を焼いていく。炎の槍にも数で押し切ろうとばかり、人喰い蜂はさらに圧を高めた。だが、ヴィヴィもその圧に屈する事なく、炎の槍を群れへと打ち込んでいく。

 高速で打ち込む炎の槍と、数で押し切ろうと迫る人喰い蜂(キラーホーネット)が激しくぶつかり合った。

 燃え盛る炎の音と羽音が入り混じる。通路を埋めつくす人喰い蜂(キラーホーネット)の群れに、先はまだ見えない。それでもヴィヴィは前を見据え、炎の槍を打ち込み続けた。

 イヴァンは剣を握りしめ、サーラもルカスもオッタも、いつでも行けると地面を蹴られる状態。マッテオ達は初めて見るヴィヴィの魔法の威力に圧倒されてしまい、茫然と焼け落ちる蜂を見つめていた。


「ごめん! もうすぐ切れちゃう!」


 炎の槍の勢いが落ちていく。

 ヴィヴィの声にいち早く反応を見せたのは、だれでもないテールだった。白銀毛をたなびかせ、犬としては大き過ぎる虎のような巨躯で宙を舞い、その大きな前脚で蜂の頭を地面へと叩きつけた。それを合図にして、群れは一斉にテールへと襲い掛かる。


「オラァ!」


 ルカスの長剣が、蜂の体をまとめてふたつに斬り払う。


「ッツ!」

「ハァッ!」


 オッタのWナイフは、みるみるうちに蜂の頭へと飲み込まれ、サーラの(ミスリル)の拳は蜂の頭を潰して回った。


「炎を司る神イフリートの名の元、我の刃にその力を宿し我の力となれ【点火(イグニション)】」


 イヴァンの炎の刃が蜂を焼き払う。炎の刃に抗う事も出来ず地面に焼け焦げた蜂の山を築いていく。

 

『ガウッ!』


 最後の一匹をテールの前脚が地面へと叩きつけた。


「なんつうか⋯⋯おまえら本当にC級か?」


 マッテオは感心を通り越して、見事なまでの連携に、腕を組んで呆れてしまう。

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