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そのダンジョンシェルパは龍をも導く  作者: 坂門
そのダンジョンシェルパはA級(クラス)を導く
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そのダンジョンシェルパはA級(クラス)パーティーを導く Ⅲ

 【ノーヴァアザリア(新星のアザリア)】の構成員(メンバー)達が、開けた場所で慌ただしく荷物を広げていた。アザリア達を補助(サポート)するC、D(クラス)構成員(メンバー)達が、慣れた手つきで大型のテントの設営や、野営の準備に勤しんでいる。

 そんな中、最深層の潜行(ダイブ)に向けて、準備に余念のないアザリアとラウラも、慣れた手つきで荷解きをしていた。


「あれ? 【クラウスファミリア(クラウスの家族)】が見当たらないね?」


 ラウラは、ふと周辺を見渡し、見慣れた面子がいない事に違和感を覚える。


「【クラウスファミリア】は宿に泊まるって。気にせずテント使っていいよって言ったんだけど、イヴァンくんが気を遣ってね。無理強いも出来ないし、また明日だね」

「なんだぁ~残念。一緒にご飯食べようと思ったのに⋯⋯あ! アザリアも残念だったね。グリアムさんとお近づきになるチャンスだったのに~」

「な、何言ってんの! 遊びに来てんじゃないんだよ」

「はいはい」

「もう!」


 ラウラは、頬を膨らませて照れ隠ししているアザリアを、ニヤニヤと眺めながらまた辺りを見渡した。忙しく動き回る構成員(メンバー)達を感慨深げに見つめ、自身の熱を上げていく。


「順調だね」


 満足気に頷くラウラにアザリアも頷いた。


「そうね。今回は、【クラウスファミリア】が引っ張ってくれたから、ウチの力はだいぶ温存出来たよ。でもまぁ、本番はここから」

「今回はうまくいくって」

「そうあって欲しいわ」

「大丈夫だって」

「どうせまた根拠のない自信でしょう?」

「いやいや、今回は優秀な案内人(シェルパ)様がいるからね。行けるって」

「そっか⋯⋯そうだね」


 ふたりは笑顔で頷き合うと、本格的な潜行(ダイブ)への準備を進めていった。


■□■□


「オレの馴染みの宿屋でいいよな」


 そう言って、ルカスは先頭に立ち、【クラウスファミリア】を先導する。朽ちかけた建物が並ぶ中心街は、今日も活気に満ちていた。並んでいる商品の値段に驚いたり、悩んだりと、潜行者(ダイバー)達の往来は途切れず、街はいつもの様相を見せていた。


「そっか、おまえにとって15階(ここ)は、庭みてえなもんか」

「まあな。散々儲けさせてやってんだ、悪くはされねえよ」


 グリアムが後ろから声を掛けると、ルカスは前を向いたまま答える。

 人波を掻き分けながら、ルカスの後を素直について行くと、グリアムとイヴァンにとって見覚えのある一軒のボロ宿の前に辿り着いた。


(グリアムさん、ここって⋯⋯)

(おまえは黙ってろよ。ここはルカスに任せるんだ)


 そこはイヴァンの唯一知っている宿屋であり、【ノーヴァアザリア】と初めて遭遇した“あの”宿屋。

 グリアムが主人(オヤジ)に啖呵を切って、『二度と来るな』という捨て台詞を吐かれたのを思い出し、イヴァンはひとり不安を覚え、パーティーの一番後ろで目立たぬよう小さくなっていた。


「「⋯⋯アハハハハハ」」

 

 建付けの悪い扉の向こうから、ルカスと宿屋の主人とおぼしき、ふたりの大きな笑い声が届く。その笑い声から勝手知った仲だとすぐに分かる。


「部屋空いてるってよ。さっさと休もうぜ」

「やったぁ~」


 ルカスの手招きにヴィヴィは大きく伸びをすると、ゾロゾロと宿屋の中へと入って行く。

 グリアムはわざとらしくフードを外すと、ニヤニヤしながら主人へと向いた。


「また世話になるな」

「!! なっ! てめぇっ⋯⋯? あん時の【忌み子】!」

「あぁ? どうせ、おまえこの間の決闘(デュエル)で、ボロ儲けしたんだろ? 【クラウスファミリア(ウチ)】が儲けさせてやったんだ、感謝を込めて、ちゃんとサービスしろよ」

「す、すいません、すいません、お世話になります」


 イヴァンは主人の視線から逃げるように、ペコペコと頭を下げながら受付を急ぎ足で通り過ぎる。グリアムの言う通り、決闘(デュエル)の賭けの元締として、相当儲けたのは事実。そして、日常的に儲けさせて貰っている博戯走(エクストリーム)で、世話になっているルカスの手前、強く当たる訳にもいかず、ただ悶々としながら通り過ぎるグリアムとイヴァンを見送るしかなかった。


「ほらな、なんとでもなったろ」

「なってます? ルカスくんのおかげじゃないですか?」

「いいんだよ、何だって。どうであろうと宿が確保出来たんだ」

「そうですけど⋯⋯」

「一人、一部屋か。出世したもんだな。じゃ、オレはこの部屋頂くぞ。イヴァン、明日の準備ぬかるなよ」

「あ、はい⋯⋯」


 グリアムは言う事だけ言って、バタンと部屋の扉を閉めてしまった。


「何とかなってるのかな?」


 イヴァンは、腑に落ちないまま部屋の中へ向かう。


「う~ん⋯⋯なってるのかな?」


 やはり腑に落ちないイヴァンは、ベッドに腰を下ろすと、腕を組みながらしばらくの間ひとりで唸っていた。


■□■□


 簡単な夕食を済ますと、グリアムは早々に部屋へ閉じこもった。明日からの潜行(ダイブ)が、過酷な物になるであろう事は、簡単に予測出来る。休める時にしっかり休むのが、最深層へ向かう者として必要な心構えだ。

 準備を整え、早めにベッドへと潜り込む。だが、早々寝られる訳もなく、グリアムは見慣れない天井をじっと睨んでいた。



 イヴァンを除く【クラウスファミリア】の面々は、潜行(ダイブ)から戻る【ノーヴァアザリア】のパーティーをこの宿屋で待つ事となる。しばらくやる事のない面々から緊張は消え去り、食堂に残って談笑していた。


「ちょっと外す」

「どしたの?」

「ちょっとな⋯⋯」


 みんなの話を黙って聞いていたオッタだが、急に席を立つ。それを不思議そうに眺めるヴィヴィだが、リラックスし過ぎるほど緩んでいる空気に、さほど気に留めなかった。



 コンコンと軽いノックの音に、グリアムは顔を上げた。返事する事もなく、扉を少しだけ開きノックの主を拝む。


「少しいいか?」


 そこいたのは、真剣な面持ちで佇んでいるオッタが、扉の向こうにいるグリアムへ声を掛けた。

 グリアムを見つめるオッタの瞳に殺気など一切なく、グリアムは返事の代わりに黙って扉を開き、オッタを部屋の中へ迎え入れた。

 グリアムは、部屋の隅にあるボロボロのテーブルセットを指差し、自らもそこに腰を下ろすと、オッタが口を開く。


「悪いな。明日の準備をしているところに」

「どうした?」


 単刀直入に問うグリアムから少しばかりの棘を感じると、オッタは苦笑いを浮かべた。


「あんたから、アドバイスが欲しくてな⋯⋯オレの働きはどうだった? このパーティーで役立てか?」

「あ? 別に問題はなかろう」


 オッタは苦笑いを浮かべながら、少し間を置いて口を開く。


「聞き方を変えよう。パーティーがオレに対して求めているものは、何だ? ひとりでの狩りばかりだったからな。ひとりでの狩りとパーティーじゃ動きは違うだろ?」


 今度はオッタが単刀直入な物言いをすると、グリアムの表情が微かに動いた。


「まぁ⋯⋯違うな。つか、オレに聞かずにイヴァンやサーラ辺りにでも聞けばいい。オレに聞くのはお角違いだ」

「そうか? どう見てもあんたが一番の手練れだ。もっと積極的に首を突っ込んでもいいんじゃねえのか? ま、あんた自身が判断すべき事なんだろうがな。夜分にすまなかった」

「さっきも言ったが、オレはただの案内人(シェルパ)だ。メンバー(やつら)に従うだけさ」

「いや。ここはあんたを中心に回っている。あんたはもっと自覚すべきだ」


 何かを悟っているかのように、オッタは静かに言い残し、部屋をあとにした。


 何なんだあいつは⋯⋯。

 今さらパーティー? 


 ベッドの上で目を閉じると、浮かび上がる朧気な記憶の残像。笑い、怒り、そして泣いた記憶。グリアムの心の奥底に沈めていたはずの思いがゆっくり溢れ出す。


「止めだ」


 だれに言うでもなく、グリアムは寝返りを打ち、投げやりな思いをこぼす。


 今は【ノーヴァアザリア(新星のアザリア)】に集中だ。


 グリアムは目を閉じ、無理やり眠りについた。


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