ヘタレな僕と勝気な彼女の馴れ初め
「好きです!」
「え」
「貴方のことが好きです!」
好きな後輩から告白されて、思わず頬が緩む。まさか、こんな美味しい展開があるなんて。
「ぼ、僕も君のことがす…」
「稀代の天才魔術師として!」
「…え。あ、ああー…うん」
どうも彼女は、男として僕を好きなわけじゃないらしい。魔術師としての僕のファン。…えー。
僕は王立魔術師学園の三年生。もうすぐ卒業予定。学年トップの成績を残した僕は、宮廷魔術師になることが決まっている。
そんな僕には好きな子がいた。後輩で、一年生の可愛い子。いつもキラキラした目で僕を見てくるから、最初はなんとなく目で追いかけていた。ギラギラした他の女の子とは違う、キラキラした純粋な好意にいつしか惹かれていた。僕はあの子に恋をした。
しかし、いかんせん近寄る口実がない。いつしか時間は経って、やきもきしていたら彼女から告白された。…ファンだと。
「最後の思い出に、一緒に写真を撮ってください!」
「…最後と言わずに、連絡先も交換しない?」
「え」
「魔術師としての僕が好きなんでしょう?よかったらとっておきの魔術、教えてあげようか」
「…!」
ちょろい。可愛い目で上目遣いして、頬を染めて。悪い男だったら襲われても文句は言えないだろう。僕は、君が本気で好きだからぐっと我慢するけれど。
「ぜひ!」
「いい子。じゃあ、今度訓練室を借りておくからその時はおいで。魔術を教えるの、楽しみにしているからね」
「はい!」
やっぱりキラキラした目で見てくるこの子に、邪な念を抱いているのがちょっとだけ申し訳なくなるけど。やっぱり、好きな子には好きになって欲しいじゃないか。
「…センパーイ!」
「やあやあ、いらっしゃい」
訓練室を借りたと連絡すれば、あの子は喜んで来た。
「さて、早速どの魔術から教えようか。とっておきと言っても、いくつかあるからなぁ」
「さすが先輩!そんなにすごい魔術がいくつもあるんですね!」
「ふふ、まあね」
カッコいいところを見せて、好きになってもらいたい。そう思って張り切って教えたのだけど。
「先輩、ありがとうございました!とっても勉強になりました!先輩のかっこいいところも見られて、最高でした!」
「そう。それは良かった」
思ったより好感触かと思った。けど。
「今度彼氏にも教えていいですか!?」
「…え」
情け無い声が出た。でも、かっこ悪いところを見せたくなくて、笑顔で答える。
「もちろんいいよ」
「えへへ。これからも先輩を応援してますね!宮廷魔術師になっても、頑張ってください!」
「うん!」
こうして僕の恋は、あっさりと終わった。
「…バカね。奪いに行けばいいのに」
「そんなことできるか。あんな可愛い笑顔で言われて」
小さな頃から一緒だった、幼馴染。女騎士を目指して、早くから騎士団に入った彼女は今ではその強さを認められて第三部隊の副隊長。けれど、引き締まった身体の絶世の美女。いくら腕っ節が強いとはいえ、誰も放ってはおかないだろう。実際騎士団内で彼女はとても人気があるらしい。そんな彼女を幼馴染として誇りに思っていた僕だけど、今日はそんな彼女に泣き言を聞いてもらっていた。
「…ほんとバカ。バカ。バカ」
「な、なんだよ!幼馴染なんだから慰めてくれたっていいだろ!」
「その幼馴染がいるのに他の女の子を好きになんてなるからそうなるんじゃない」
彼女にそう言われて、はっとして彼女の顔を見る。いやいやまさか、こんな完璧で人気者の彼女だ。他にいい男なんていくらでもいる。
そう思ったのに、目が合った彼女は恋する女の子の表情を見せてくれて。
「…え」
「…なによ。これでもアピールしていたつもりだったのに」
「え、えええ?」
「鈍い貴方が悪いのよ。バカ。バカ。バカ」
「ご、ごめん…でも僕…失恋したばかりで…」
失恋したばかり。そのはず。なのに、普段見せない可愛い女の子の面を見せてくれる彼女にドキドキしている自分もいる。でも、気持ちの整理がつかなくて。
「嘘つき。顔真っ赤よ?」
「えっと…混乱してて」
「でも、私のこと好きでしょ?」
「す、好きだけど!」
「失恋は新しい恋で忘れなさい。幸せにしてあげるわ」
いつもの勝気な顔でそう宣言する彼女に、僕は早々に白旗を上げた。
「…う、うん」
「よろしい」
「でも…」
彼女の目を見つめて言う。
「き、君を…し、幸せにするのは、僕の方だから!」
「…ふふ、知ってる。でも、貴方を幸せにするのは私よ?」
「そ、それは…そうだね…?」
結局、格好はつかなかった。そんな僕の口をすぐさま塞いだ彼女の表情は、とても幸せそうで。
さっそく僕まで幸せにしてもらったのだった。