表彰式のその裏で
「入賞おめでとう」
表彰式を遠目で見るボブとクリスに姉は優しい声をかけてねぎらう。
「あとちょっとだった。はじめてにしては上出来だよ」
レースの終了で監督の仮面を外したのか、父もクリスに温かく話しかける。
「そうね。今日はお母さん腕を振るってごちそう作るわ――」
「やめて!」
母の言葉をクリスは途中でさえぎった。
「途中までトップだったんだよ!なのにボクがわがまま言ったから――」
「その意見をミーは受け入れましタ。デスから責任はミーにありマース」
壁にもたれていたボブがひょうひょうとクリスの言葉の上に言葉を重ねた。
「魔法で呼び出した精霊がね、疲れているのが分かったんだ」
レース終盤、最後のコーナーを曲がってクリスは力ある言葉を紡いだ。
火の精霊を呼び出し、途中まではトップだった。
疲れが見えるとクリスがボブに伝え、最後の最後で失速したという。
「勝負だから最後まで走ればよかったのに!なんで!どうしてみんな優しいのさ!」
自暴自棄になったのかクリスは叫ぶ。
「同じ思いだからさ」
紅茶を入れたコップを父はクリスに差し出す。
レモンと蜂蜜の香りがする紅茶をクリスはゆっくりと口にする。
「精霊は大切に扱おうって気持ちでこのチームは結成したのよ」
「だからいつも最後の最後で抜かれちゃうのよね」
「今回はサポーターのおかげで入賞できた。それが分かっただけでも十分さ」
母、姉、父が次々に投げかけた言葉にクリスは涙ぐむ。
「言ってよ!そういうことは!最初から!」
照れ隠しなのかクリスはまた叫ぶ。
「HAHAHA!ほんと昔からよく泣く子デース!」
ボブはクリスの頭に手を置くと揺らす。
わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。
あっという間にクリスの髪はぼさぼさになる。
「それとボブ兄!ボーイ呼びは――」
「OK。Friend」
ボブの流ちょうな英語の返事に、クリスはぐぬぬ顔で見つめ返した。